第41話 俺は異世界に来て、また騙されたのか
「あれは、私とご主人様の運命的な出会い。可愛いって言ってくれて、すごく嬉しかった……」
「フォローのつもりか何なのか知らんけど、もうお前の主観じゃ取り戻せないくらい、俺の性癖は崖っぷちだよ!」
今や場の空気が、偽勇者裁判じゃなくって、性犯罪者の裁判になりつつあるからね!
――その後、何とか無罪を訴えてみるものの、全く聞き入れてくれる様子はない。
それはまるで、〝最初から有罪として処罰することが決まっている〟かのような冷酷な扱い。
「――国王陛下、裁定をお願いいたします」
淡々と無感動に国王へと判断をゆだねるパロミデス。
そして、椅子に座ったまま黙って話に耳を傾けていた国王が、ついにその重厚な口を開く。
「魔王軍の脅威下において、悪魔の手先として国家を安寧を揺るがした偽勇者の罪は重い。しかも被告人の申し開きには説得力がなく、反省の色も見えぬようだ。よって、被告人ヤマダツクモ、そして悪魔アスタロッテに――死刑を求刑する!」
「なっ!」
やばいやばいやばいやばい。
何でか分からんが、小一時間で国家反逆罪の大悪人、立派な死刑囚になってしまった!
おかしいだろ。死刑って……だが、とてもじゃないが冗談でした~という雰囲気には見えない。
――理解した。もし、このまま何もせずに居たら、俺は間違いなく殺されるということを。
くそ、仕方ない。出来るだけ穏便に事を勧めたかったが、ここは強引にでも――。
「ロッテ!」
すかさずその名を呼ぶ!
ロッテは大悪魔だ。以前の戦闘を見た俺なら分かる。
最弱の人間族が作った程度の拘束具で、あのわがままボディを押さえつけられるはずがないのだ。
ロッテは逃げられないふりをして機会をうかがっているに違いない。
もしくは、いつでも逃げられるのに、本当に殺されると思って慌てふためく俺の姿を笑いものにしてやろう――という心づもりなのだろう。
「お前の力はそんなもんじゃないだろう! このままじゃマズイ、ここは一旦引いて体制を――」
だが、当のロッテは、
「づぐもぉぉぉ、だずげでぇぇぇ。本当に動けないのぉぉ。いやだ、いやだよぉ。せっかく十年ぶりにお外に出られたのにぃぃ。ユーガラに温泉旅行も行ってないのにぃぃぃ。いやだよぉ。死刑イヤだよォォォ」
慌てふためいてるどころの騒ぎじゃなかった。大泣きである。
大悪魔さん、こっちが引くほどのギャン泣きである。
「…………」
あー。あれは絶対演技じゃねえや。
「つかぬことをお聞きしますが、ロッテさん。本当に動けない?」
「無理ぃぃ。お腹が空いて力が出ないぃぃ」
「だから、お前はジャンプの主人公かよ!?」
もう少しまともな言い訳考えろよ。
お前、朝飯バクバク食ってたじゃねえか!
「じゃ、じゃあヴリトラは!?」
「くぅ……動けないこともないけど、き……きつい……ですぅ」
のろのろと起き上がろうとするヴリトラを、周囲の兵士たちが慌てて槍で押さえつける。
「こいつ、これだけの聖具を着けられてまだ動けるなんて……」「なんて化け物だ!」「一つ着ければサイクロプスでさえ、指一つ動かせなくなるってのに!」
なるほど、そういうアイテムなのか、あの沢山着けられてるアクセサリーは。
サイクロプスって、ゲームでよく見る一つ目巨人――強力なモンスターだよな。そうかヴリトラはサイクロプスの十倍以上の力を持ってるわけか……。
確かに化け物だな。
「って、んなことはどうでもいいんだよ! 人間最弱とか言っておきながら、十分ヤバいもん作ってるじゃねえか!」
「いえ、我々人間ではあれ程の聖具は作りません。あの聖具は創星教に協力しているエルフ族が作ったものなのです」
と、パロミデスが胸を張って自慢気に言う。
「こんな時にマジレスいらねーんだよ! ってか、人間の無力さを自慢気に語るなや!」
なんてツッコミ入れてる場合じゃない。
どうする? どうするよ俺!? 死刑になっても、俺はすぐに生き返る。
だけど、もし命が複数あることがバレたら……拘束されたまま“本当に死ぬまで”殺されるのがオチだ。
「残りの命は62……」
いや、この状況じゃ、残機に意味なんかない……。
何で、何でこうなった。
俺の弁明なんて誰も聞いてくれない。
用意周到に、ロッテとヴリトラを無力化するアイテムまで用意して。クルリはずっとこっちを見もしない……。
この出来レースみたいな裁判はいったい何なんだ。
「――そうか……俺は異世界に来て、また騙されたのか」
また? またって言ったか、俺?
そうだ……そうだよ思い出した。
なんやかんや楽しくて、ロッテとヴリトラ、クルリも、みんな性格はアレだけど可愛くて、俺にも春が来たなんて思って、すっかり忘れてた。
「思い出したぞ、あの糞ゴリラ……」
この世界に来てすぐに、俺を騙して殺したあのゴリラ野郎。
ゴーダのニヤついた顔を、人を人とも思わないあの嘲笑を……。
それを思い出すと同時に、もう一つ、ずっと引っかかっていた、思い出せそうで思い出せなかったある事実に俺は気付く。
「なぁ、パロミデス王女様……ずっと引っかかってたんだ。アンタの顔、どこかで見たことがあるなって……」
唐突な俺の話にパロミデスが怪訝な顔を浮かべる。
「でも、アンタみたいな綺麗な女、一度見たら絶対に忘れない。だから、気のせいかな……って」
「あなた、一体何を言って?」
「でも今、はっきりと思い出した。俺、やっぱり、アンタと会ってるよな……あの森で……」
「森……って、まさか……でも」
その反応、間違いない。
それは心当たりがある奴の視線だ。
「お前、あの時俺を森に置き去りにして殺そうとした、ゴーダって野郎の奴隷だろ!!!」
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