第29話 ご、ご主人様……しゅき

「……ほんの数ミリグラムで、象ですら脱水症状を起こすウルトラハイパー利尿剤だそうだ」


「…………な、なんて酷いことするのぉォォォ」


「そんなこと言ってる暇があるのか? ほれ、早くトイレに行かないと漏れてしまうぞ」

「くぅぅ、この……人でなし……」


 ヴリトラは下腹部を押さえて、よたよたと一階のトイレへと向かう。


 目を見張るような美人が、尿意の限界と戦いながら苦しみもがく様は……何だか背徳的で、ちょっと良くない趣味に目覚めてしまいそうな気分になる。


 よろめきながらも、何とかトイレに辿り着くヴリトラ。しかし――


「は、はいってまーす」


 トイレは俺の命令を受けたロッテがとっくに掌握済みだった。


「あ、あの、もう……限界だから……早く……でて……」

「ご、ごめんなさい。出てあげたいのは山々なんだけど、私命令に逆らうと爆発して死んじゃうから……ごめんなさい。本当に、クズで最低なご主人様でごめんなさい」


 どさくさに紛れて酷い悪口言われてるな。

 だが、気にしない。何故ならこれは人助けなのだから!


「さあ、どうする? 邪竜ヴリトラさんよ。もし、俺と人異の契約をするって言うなら、トイレを使わせてやってもいいぜ」

「だ、誰が男なんかに……ま、まだ二階のトイレがある――」


 大した気合である。

 もう、周りなんて気にしている余裕はないのだろう。

 息も絶え絶えに階段を上るヴリトラの口から「うっ、アッ、くぅぅぅ」みたいな声が漏れて……なんかちょっとエロい。


 それでも何とか二階のトイレに辿り着くヴリトラだったが――


「はいってまーす」

「イイイイイヤァァァァァァアアァア、もう無理、ホント無理、お願い!」


 当然だが、二階のトイレも我が軍の支配下である。


「クルリにトイレから出て欲しかったら俺と人異の契約をするんだな。俺がお前に与えるのは、トイレの使用権! その代わりお前は俺が死ぬまで一生奴隷だ!」


「そんな交換条件……聞いたことない。それに、誰が……お前みたいな卑劣な男と……やっぱり男はきら……いいい」


「ちなみにそのまま漏らしても良いが、俺は《ピクト》の魔法が使えるからな。〝いい写真〟が撮れるだろうということだけは伝えておく」

「いやぁぁぁぁぁ」


「――ツクモ様、さすがのクルリでも引くレベルでクズですね」


 トイレの中から声だけでツッコむのヤメロ。


「お前は、お前だけは絶対に殺してやる……」


 漆黒の瞳(涙目)で俺を睨みつけるヴリトラ。


「まだ堕ちないのか。本当に頑固なやつだな。仕方ない……さすがの俺もこの手だけは使いたくなかったんだけどな……」


 だったらこっちも最終手段だ。


「クルリ、トイレの中で自爆しろ」 

「あーーーーーごめんなさい、ごめんなさい! 殺すの冗談だから、トイレ壊さないでぇぇぇぇ」


 ああ、もう本当に駄目なトコロまで来ちゃってるんだな。

 陰キャとは思えないほど、腹から声が出ている。


「け……契約すればいいんでしょ! さっさと……しなさい」

「はぁ? 別に、俺はお前と契約しなくてもいいんだけどなぁ」

「あああああああああ、はい。はい! わ、わかりました、け、契約させてください、お、お願いします。ご主人様ぁ……うぁぁ、も、もう限界……」


 ヴリトラが契約の意思を示すと同時に、俺とヴリトラを黒色の魔法陣が囲む。


「おっし、キタキタ!」


 魂が触れ合うのを感じる。

 ロッテと契約した時と同じ感覚だ。 


「よし、契約は済んだな。クルリ、もういいぞ。トイレから出て――」


 言いかけた俺の台詞が、目の前の光景と共にフリーズする。


 床にぺたんと座り込んでいる邪竜ヴリトラの下に、美しく光る粗相そそうのあとがあったからだ。


 あー、間に合わなかったのね。


「うううう、酷い。ひどいよぉぉ。どうして、どうしてこんなぁぁぁ」

 

 大泣きのヴリトラ。

 大人の美人が大泣きしてるのって……。


「ピクト」


 とりあえず、ピクトの魔法で写真を撮っておいた。


「ひーーーーどーーーーいぃぃぃ」

「あ、ごめん、何だろ……ヴリトラが可愛かったから、つい。身体が勝手に動いたというか……」


 その安易な俺の一言に、ヴリトラの動きがぴたりと止まる。

 一時停止ボタンでも押したかのように瞬時に固まったまま動かないヴリトラ。

 その異常な光景に恐怖を覚え始めた時――ぽそりと彼女は口を開いた。


「かわ……いい? 私が……うそだ。うそだ、ウソだ、嘘だ。だって、だってだって、男の人はみんな私のこと、デカ女とか、目つき悪いとか、何考えてるか分からなくて気味が悪いとか……言うのに…………」


 なんだ、そんなことで男を嫌っていたのか。


「何だそいつら、馬鹿じゃねえの!? お前は可愛いだろ! 背が高いのは綺麗だし、目つきもエロカッコいいし、何考えてるか分からないってのもミステリアスで良いと思うぞ」


「で、でも……今、わたし、こんな汚い……」


 瞳を潤ませながら、自らの身体に視線を落とする漆黒の美女。


「いや、むしろそこが一番可愛いと言うか……つい写真を撮ってたくらいだしな。ああ、大丈夫、撮った写真は個人的に楽しむだけで、絶対に誰にも見せないからな。安心しろ」

「個人的に楽しむの……? わたしのなんかの写真で……?」

「お、おう。……ヴリトラに汚いところなんて一つも無いさ!」


 なんか勢い任せで喋り倒してしまった。親指まで立てて。

 大丈夫か? 一連の会話、自分で思い返してみても『キモイ、気持ち悪い、変態、女の敵』――以外の感想が出てこないんだが……。


「ご、ご主人様……しゅき」


「なんでやねん」




────────────────


 どうも変態です。

 変態の☆☆☆くれくれ作者です。


 この度は大変申し訳ありませんでした。

 改めて酷い話を書いているものだと、今では反省していません。


 こんなひどい話でも面白かったと思ってもらえる変態紳士の方は、是非☆☆☆とかフォローで応援して下さい。


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 もっと多くの方に作品を読んで貰いたいので、よろしくお願いします!



 追記

 サブタイトルに『巨乳』とか『おっぱい』とか入っている回だけPV数が多いです。

 みんな正直でボクは嬉しいよ。

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