第24話 必要な犠牲だったのですよ

「ツクモ、ツクモ」


 冒険者登録が終わったばかりの俺を、宙にぷかぷか浮いているロッテがちょいちょいと呼ぶ。

 奴隷のクセに気安いな。


「何だよ。俺は今、レベルもスキルもステータスも、そして理想のギルドのお姉さんも居なかったことに絶望している最中なんだから邪魔すんなよ」


「絶望してるなら邪魔した方が良いんじゃないの?」


 そういうマジレスは止めて欲しい。


「えっと、ツクモが言ってるレベルとかステータスとかはよく分からないけど、ツクモもたぶん魔法なら覚えられると思うわ」

「……………………マジか!!?」

「マジマジ」


 だから気安い奴隷だな。


「でも人間の魔力は超絶低いとか言ってただろ。てっきり人間は魔法は使えないのかと思ってたわ」

「確かに、大した魔法は使えないけど、それでも無いよりはマシでしょ。運が良ければ回復系の魔法の適性があるかもしれないし」


「おお、この世界は回復系の魔法がレア扱いされるタイプの世界なんだな!」


 回復魔法を利用して身体強化したり、相手の身体を破壊改造してのチート無双も王道だよな!


「いや、回復魔法がレアって言うより、人間の魔力量じゃ攻撃魔法覚えても大した威力にならないから、だったら威力が低くても使い道のある回復魔法の方が役に立つだけだけど?」

「……あ、そっすか」


 ただの消去法だった。


「――で、魔法ってどうやったら覚えられるんだ?」

「精霊の力を借りるのよ」

「精霊?」

「そ、この世界のありとあらゆるものには精霊が宿っている。火には火の精霊、水には水の精霊、道端の石ころにだって石の精霊が宿ってるの」

「へぇ~」


 それってまるで、神道しんとうで言う八百万やおよろずの神みたいだな。


「魔法はね、私たちの魔力を精霊に分けてあげる代わりに、精霊の力を借りる事で生じる現象なの」

「……じゃあ、俺も火の精霊に魔力をあげれば火の魔法が使えるわけか」


「そうは問屋が卸さないのよね~」


「問屋が卸さないって……だからお前、悪魔のクセに何でワードセンスがお婆ちゃんなの?」


「精霊にも魔力の好き嫌いがあってね、魔力さえあげればどの精霊にも力を貸してもらえるってわけじゃないのよ」


「精霊ごとに、魔力に味の好みがあるわけか」


「そゆこと。だからそういうのを魔法適正って言うんだけど、人間の場合適性がある魔法は基本一つかな? まれに複数の適性持ちとか生まれることもあるみたいだけどね。あと優秀なエルフ族は適正十個以上持ってるのもザラかなぁ」


 おお、エルフすげえな。

 さすがファンタジーにおける魔法が得意な種族代表。


「じゃあ、ロッテは毒の精霊の力を借りてるってことか?」

「そうね。しかも私の場合は呪いと毒の精霊に愛され過ぎちゃって、身体にまで影響が出てるレアケースかな。──自分で抑えられないのが悩みです」

「ああ……」


 なるほど、ロッテの魔力は呪いの精霊と毒の精霊にとって大の御馳走なわけだ。

 だから精霊に常にまとわりつかれていて身体まで呪毒化してしまったと……。


 そりゃ強いはずだ……本人が望んでいないところが悲しいが。


「あれ? だとすると、何で創星教の信者は皆、あの自爆魔法が使えるんだ?」


 人間って、大した魔法は使えないんだろ?


「自爆魔法じゃなくて《悪魔滅殺魔法》ですよ」

「うおっビックリした」


 いつの間にか、音もなく立っていたクルリが俺の発言を訂正する。


「正確に言うと、街の皆さんが使っているのは本当の《悪魔滅殺魔法》ではないのですよ」

「本当じゃないって、どういう?」

「ええ、あれは創星教の長年研究を重ねて開発した魔道具による効果なんです」

「魔道具?」

「皆さん首からかけているあのネックレスですよ」

「ああ、あれか……」


 十字架と星を重ねたような銀細工が施されたネックレス。

 そういえば、この街のほとんどの人が首から下げてるな。


「あの魔道具に魔力を流し込むことによって、疑似的な悪魔滅殺魔法を発動することが出来るんです」

「そいつは良いことを聞いたな。あのネックレスを持ってるか持ってないかで、テロリストとそうじゃない人を見分けられるってことか……」

「ナニカイイマシタ?」

「何も言ってないでーす」


 怖い怖い。


「話の続きですが、本来の《悪魔滅殺魔法》は光魔法の適性者しか使えない上に、本当に術者の命を奪う魔法だったそうです」

「本当に死ぬって……酷い話だな」

「悪魔を殺すためには必要な犠牲だったのですよ」


 綺麗な微笑みを浮かべながら言う台詞じゃねえよ。

 顔は可愛いけど、やっぱ怖え……いや、顔がいいから逆に怖いのか。


「犠牲は大きかったですが、その代わり、魔道具による疑似魔法とは威力が桁違いだったようですね」


「うそ、アレで疑似魔法だったの? いやだ、やっぱり創星教怖いぃぃ」


 偽物の悪魔滅殺魔法でさえビビりまくってたロッテが、今の話を聞いてちびりそうになっている。


「……五十年ほど前までは悪魔滅殺魔法の使い手も多かったそうですが、今は光魔法の適性者がほとんどどおらず、伝説に近い魔法になっていますね……」


「それって、悪魔殺すためにバカスカ自爆する奴が多かったから、光魔法の適性者が絶滅しただけなんじゃねえの?」 


「必要な犠牲だったのですよ」(←いい笑顔)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る