第9話 死ぬまでに彼女とやりたい100のイチャイチャ

 人間はザコ種族。

 頼みの綱の〝人異の契約〟も低級魔獣としか契約できない。


「この世界、人間に生まれた時点で結構詰んでね?」


 なんて独り言をつぶやくと同時に、アスタロッテが不満の声を漏らす。


「ていうか私の料理、食べないんですか? せっかく心を込めて作ったのに、冷めちゃいますよ?」


 俺の顔を覗き込む悪魔娘に俺は思わず息を飲む。


 不意打ちだ。

 悪魔とはいえ、やっぱりかわいいなコイツ。


 しかも強大な力と凶悪な駄肉まで所持している。

 そんな悪魔が俺に絶対服従とは……美味し過ぎるシチュエーションだ。


 中学の時に考えた『死ぬまでに彼女とやりたい100のイチャイチャ』を実行する時が来たようだ。


 夢にまで見た手料理はさっそく作ってもらえた(まだ食べていないが)。


 だが、叶えたい夢は他にも山のようにある。


 膝枕で耳かきとか、手を繋いでデートとか、それどころか……限界のその先まで期待しちゃってもいいのだろうか……。


 隣の部屋に見える、普段アスタロッテが使っているであろうベッドにチラチラと視線がいってしまう。


 ん? 言うこと聞くしかない女子相手に恥ずかしくないのかって?

 恥ずかしくないね~~~。

 アスタロッテの封印を解いたのは俺なわけだし。

 なのにこいつは感謝するどころか俺のことを見殺しにしようとしたわけで~。

 

 この事実と恨みさえあれば、外野が何と言おうと俺は気にしない!


「何さっきから、ぶつぶつニヤニヤしてるんですかご主人様……正直、ニュモラルンよりキモイです」

「キモイ言うな! …………ニュモラルンって何?」

「で、食べないんですか?」


 ニュモラルンを華麗にスルーすんなよ、気になるだろ。


「料理、私、頑張って作ったんですけど?」

「いや、だって……お前が素直に作った料理とか……正直怖い」

「失礼な! 毒なんて入れてないって言ってるのに。実際、さっきから私も食べてるでしょ!」


 確かにアスタロッテは美味そうに自らが作った料理を口に運んでいる。

 盛り付けてある皿が別々になっているわけでもないし、毒が入っている気配は無さそうだ。


 ……そうだよな。契約のせいでこいつは俺に嘘がつけないわけだし。


「ほら美味しいですよぉ」


 そう言う彼女が作った料理は確かに旨そうだった。

 それに悪魔とはいえ可愛い女の子の手料理……惹かれないと言ったら噓になる。

 止めとばかりに、俺の腹がぐぅ~っと鳴る。

 ああ、コレは逆らえないやつだ。


「そこまで言うなら、腹も減ったし……食べてみるか」


 とりあえず肉からだな。


「お、旨い。スパイスが効いてるのか少しピリッとするが良いアクセントになってるな。次はこの魚を煮込んだっぽいぽいやつを……お、これも旨いな」


 やっぱり少しピリピリするけど、こっちの唐辛子みたいなのが入ってるのかもな。


「おっと、健康のことも考えてサラダも食べないとな。海藻サラダか? おお、これもイケる。でもなんかこれもピリッとするな…………あれ、なんか目眩が…………」


 それに呼吸もなんか苦しい……ってかこれってまさか。


「てめ、やっぱ毒を仕込みやがったな……」


 その言葉に、にんまりと笑うアスタロッテ。

 その笑顔を最後に、俺は息絶えたのだった――。



 …………。

 ……。



「――てぇぇぇぇっ! おらぁ、ふっかーーつ!」

「チッ、やっぱり生き返ったか……」


 残念そうな顔で平然と吐き捨てるアスタロッテ。


「アスタロッテてめぇ! やっぱり毒入れてんじゃねえか!」

「えぇ~アスタロッテそんなことしてないですぅ。毒なんてこわーい。私はぁ、ご主人様のために愛を込めて手料理を振る舞ったのに、ひどーい」


「わざとらしさが半端ねーわ!」


「でも、私契約のせいで嘘つけないし~。愛情のこもった女の子の手料理なんて食べたことないから身体が拒絶反応でも起こしちゃったんじゃないですか~?」


「それは……確かに。急に贅沢なもん食ったから身体がびっくりして……って、んなわけあるかぁぁぁ!」


 盛大にツッコミを入れてやるが、それで謎が解けたわけではない。


 確かにアスタロッテの言う通りだ。


 絶対服従の契約があるのに、どうしてアスタロッテ俺に嘘を吐けた? 

 こいつは確かに『毒なんて入れてない』と言った。

 だとしたら『毒を入れていない』のは間違いなく事実。


 じゃあどうやって……。


 実は毒以外の方法で……でも、飯食った時、なんかしたがピリッとしたし、あれはやっぱり毒っぽい反応だったよなぁ。

 ……そういえばアスタロッテが畳んだ服を着た時もなんか肌がピリッとしたような?


「おい、アスタロッテ。今なんで俺が死んだんだ? 説明してみろ」

「う、嫌です。できれば……愛の隠し味は秘密にしておきたいなって……てへっ」

「てへ、じゃねえ。主人として命令する。正確に漏れなく説明しろ」


 命令と言われたアスタロッテの胸元の紋章が光る。

 口を全力でへの字口にして耐えようとするが、ひどい変顔をさらしただけで、結局あっさりと口を割る。


「うわーーん、ごめんなさい。毒は入れてないんですけど、私って呪毒の悪魔で、私が触ったものとか、何でも毒物になっちゃうんですぅぅぅ」


 ……なんですと?

 触ったものが何でも毒になる?


「じゃあ、服を着た時、肌がピリッとしたのは……」

「私が畳んだから服が毒物になったんです。間接的接触だったので、ピリッとするくらいで済んだのかな~と」

「じゃあ、間接的じゃなくて……俺がお前の身体に触ったりしたら……」


「――確実に死にますね。えへ」

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