恋愛成就の処方箋3(女性主人公編)

Danzig

第1話

恋愛成就の処方箋3 女性主人公編


同期入社の二人

残業を終えて会社からの帰り道

女性 斎藤 千秋(さいとう ちあき)

男性 沖田 俊(おきた しゅん)



千秋:もう、随分暖かくなって来たね


俊:うん、そろそろ桜が咲くころだね


千秋:桜かぁ・・・今年はお花見行きたいよねぇ・・・


俊:そうだね・・・


千秋:・・・

千秋:そういえばさ、私達、同期入社して5年経つじゃない

千秋:もう女の同期は、私だけになっちゃったのよ

千秋:皆、結婚しちゃってさ


俊:そうだね・・・

俊:男の同期も、転職したりで殆ど残ってないよ


千秋:そうね・・・


俊:うん・・・


俊:そうだ、千秋ちゃん今日、晩御飯どうする?

俊:何か食べて帰る?


千秋:うーん、そうね、行こうかな

俊:うわっ(千秋の声を遮るように)


俊:急に風が・・・

俊:目に砂が入っちゃって


千秋:ちょっと、大丈夫?


俊:あぁ、何とか取れたよ

俊:春の風は突然ふくからなぁ


俊:で、どうする?


千秋:あ・・・いや、今日は辞めておこうかな


俊:そっか・・・

俊:じゃぁ、また明日ね

俊:僕、こっちだから


千秋:う、うん・・じゃぁ・・・


俊と別れて一人になる千秋


千秋:あああああああ

千秋:どうして「行く」って言わなかったのさ、私!


千秋:折角、最初は勇気を出して、行くって言えたのに

千秋:あんな所で、風が吹くなんて・・・


千秋:でも、改めて聞かれたら言えなくなるなんて・・・ホント情けないな・・・


千秋:あぁーあ、俊君との食事が・・・

千秋:仕方ない・・・コンビニで弁当でも買って帰ろ・・・


見慣れない古い神社の前を通る


千秋:ん?

千秋:何ここ・・・神社?

千秋:何か古い感じだけど・・・

千秋:赤い鳥居がいくつも連なってて、幻想的というか・・・

千秋:でも、こんな所に、神社なんてあったかな?


千秋:鳥居がずっと奥まで続いてるのね・・・

千秋:狛犬の代りにキツネ・・・・

千秋:でも、ここで神社の前を通ったのも、何かの縁だし、拝んでいこうかな・・・


パンパン(柏手)


千秋:俊君と友達になって、もう五年

千秋:どうか、今年こそ、出来れば俊君とお付き合いがしたいです。

千秋:俊君に告白出来るように・・・・私に勇気をください

千秋:というか、俊君が私に告白してくれるというのも「あり」です。


パンパン(柏手)



俊帰宅(アパートに一人暮らし)


俊:ただいまぁ・・・

俊:はぁ・・・疲れた・・・


俊:あぁ・・千秋ちゃん・・・


俊:もうちょっとで食事行けたのに・・・

俊:あの時、絶対「行く」って言ったよなぁ。


俊:あああああ、どうしてあの時、聞き返しちゃったんだよ!


俊:それに、千秋ちゃんも、千秋ちゃんだよ

俊:聞き返したら、帰るっていうなんて・・・


俊:折角、勇気を出して誘ったのに・・・・

俊:はぁ・・・自分が情けない・・



俊:でも、千秋ちゃんって、僕の事どう思ってるんだろう・・・

俊:やっぱり、ただの友達としか思ってないのかな?


俊:五年も友達でいるけど、千秋ちゃんの態度を見ても、僕の事嫌ってるわけじゃなさそうだし、

俊:食事とか、遠回しなやりかたじゃなくて、

俊:やっぱり、明日、勇気をだして告白を・・・

俊:つぅ・・・たたた(頭痛)

俊:また、頭痛が・・・


俊:ここ最近、時折この変な頭痛がするんだよ・・

俊:この頭痛がすると、折角盛り上がった気分がなえちゃうんだよなぁ

俊:ストレスかなぁ・・・

俊:もう、今日は薬のんで早く寝よ



千秋帰宅(アパートに一人暮らし)



千秋:ただいまぁ・・・

千秋:はぁ・・・疲れた・・・・


千秋:今日も、俊君と食事に行けなかった・・・


千秋:あぁーあ、もう一度誘ってくれないかなぁ・・・


千秋:私から誘おうと思うと、喉が固まっちゃうんだよねぇ

千秋:なんか、蛇に睨まれたカエルというか・・

千秋:やっぱり、女から誘うってのは勇気がいるよねぇ


千秋:それに、タイミングも悪いのよ、急に風が吹いたりとかさ


千秋:でも、今日の、お花見の話・・・

千秋:あれってやっぱり、もっと具体的に言わなきゃダメかなぁ・・・


白狐:そんなもん、そうに決まってるだろ!


千秋:え!

千秋:なに?声?

千秋:どこから?

千秋:えーーーー!


白狐:まぁ、落ち着け


千秋:お、お、落ち着ける訳ないでしょ!

千秋:何よ、この声!


白狐:俺の声だよ

白狐:俺は狐(きつね)、名は白狐(びゃっこ)

白狐:「びゃっこ」って言ってもトラじゃねぇからな

白狐:あんな猫と、一緒にするんじゃねぇぞ


千秋:狐?

千秋:何で、声だけ聞こえるのよ


白狐:俺は霊だからな、

白狐:まぁ、そのうち、お前にも姿を見せてやるよ


千秋:霊? 幽霊!


白狐:霊って言っても、別にお前を取って食うわけじゃねぇよ。

白狐:俺は、お前が頼むから、わざわざ、来てやったんじゃないか


千秋:私は、幽霊なんかに、ものを頼んでないわよ


白狐:幽霊じゃねぇよ!

白狐:まぁ、細かい事は、面倒だからいいや。

白狐:お前、今日の会社帰りに、神社に寄(よ)って、お参(まい)りしただろ?

白狐:んでもって、「勇気をください」とかって、願掛(がんか)けしただろ?


千秋:まぁ、たしかに、頼んだけど・・・


白狐:だから、来てやったんじゃねぇか

白狐:お前、何とか君(くん)と、デートしたいんだろ?

白狐:だったら、俺が協力してやるよ


千秋:ホント?


白狐:あぁ、そうさ

白狐:だから、大丈夫だ、

白狐:俺が、何とかしてやる

白狐:で、お前、名前は?


千秋:私は千秋・・・


白狐:千秋、お前は、勇気が欲しいんだって?

白狐:でも、勇気なんて、お前次第だからなぁ・・・


千秋:そうなんだけど、何かないの?

千秋:道具とか薬とか・・・


白狐:まぁ、そういうのが、あることは、あるんだが・・

白狐:お勧めはしないぞ


千秋:そんなのがあるなら、教えてよ

千秋:どんなの?


白狐:うーん、「武者玉(むしゃだま)」って言うんだけどな

白狐:ほら、こんなやつ


武者玉を取り出して見せる白狐


千秋:光る玉が、浮いてる・・・


白狐:あぁ、これを使うと、勇気が千倍になる

白狐:今は、これ一つしかないがな


千秋:何それ! 凄いじゃない

千秋:私に使わせてよ!


白狐:ただし、これを使うには、条件があるんだよ。

白狐:使う人間の魂と交換しなきゃいけないんだ


千秋:魂と交換?

千秋:それって死んじゃうって事?


白狐:そういう事

白狐:武者玉を使って、事を成した後に、魂を貰(もら)って天に届ける


千秋:それじゃ、意味ないじゃない

千秋:誰が使うの、そんなもの


白狐:そう言うけどな、昔は割と使われたんだぞ。

白狐:そもそも「武者玉」ってのは、大勢の敵を相手に、戦わなきゃならない武者が使うんだ

白狐:どうせ死ぬなら、沢山の敵を倒して、武勲(ぶくん)を立ててから死ぬって感じでな


白狐:まぁ、だから、告白には、お勧めしないって言ったんだよ


千秋:そりゃ、恋が成就しても、死んじゃったら意味ないしね

千秋:あぁ・・・やっぱり、そんな便利なものは、ないか・・


白狐:そうガッカリするなよ

白狐:俺が長年の経験で、助言してやるからよ


白狐:いいか千秋、やっぱり女から誘うと、男ってのは嬉しいもんだ

白狐:そもそも、男ってのはな・・・



次の日の会社帰り



俊:今日も遅くなっちゃったね


千秋:そうだね


千秋:(心の声)

千秋:俊君、デートに行こう、俊君、デートに行こう、俊君、デートに行こう・・・・


俊:今日はまだ、木曜日か・・・

俊:あぁーあ、今週の週末、どうしようかなぁ・・・


千秋:俊君・・・


俊:何?


千秋:今度の日曜日なんだけどさ、

千秋:私と、デ・・


俊:デ?


千秋:デ・デ・デ・・・

千秋:デ・・ひぃ・・・

千秋:デ・デパートで安売りがあるのよ、行かなきゃなぁって・・・


俊:デパート?

俊:千秋ちゃんって、そういう所で、買い物するんだね


千秋:いや・・・私も、ほら、チラシで見ただけで・・・ははは

千秋:はぁ・・・(ため息)


俊:そっか・・・


俊が意を決したように


俊:それじゃぁさ、千秋ちゃん

俊:週末、僕とあそ・・う(頭痛の痛み)・・


千秋:え?


痛みをこらえる俊


俊:・・・・


千秋:大丈夫?


俊:うん、大丈夫・・・

俊:今日はもう帰るよ、じゃぁ、また


千秋:うん・・・



俊の部屋


俊:ただいま・・・

俊:はぁ・・(ため息)

俊:もう、千秋ちゃん!

俊:もうちょっとだったのに・・・


俊:千秋ちゃんのあれは、絶対「デート!」だったでしょ。

俊:こっちはOKの準備して待ってたのに・・・


俊:あの時の千秋ちゃんの顔、可愛かったなぁ・・

俊:デートしたかったなぁ・・・


俊:っていうか、俺からも誘うと思ったんだけど

俊:急に頭痛がするんだもんなぁ・・・

俊:タイミング悪いよなぁ


俊:やっぱり、もう一度、勇気を出した千秋ちゃんに告白を・・・

俊:うっ、痛ぁーー(前よりひどい頭痛)

俊:何か、頭痛が、だんだん酷くなってくる・・

俊:嫌だな・・・何かの病気だろうか・・


俊:今度、病院に行ってみようかなぁ

俊:今日はとりあえず、薬飲んで、もう寝よう

俊:明日までに治ってるといいけど・・・



千秋の部屋


千秋:ただいま・・・


白狐:千秋、どうだった?

白狐:うまくデートに誘えたか?


千秋:ダメだった・・・

千秋:やっぱり「いざ」って時に、どうしても、縮(ちぢ)こまっちゃって・・・


白狐:そうか・・・

白狐:俺と話している時の千秋は、それほど勇気がないとも思えないけどなぁ


千秋:私も不思議でさ・・・


白狐:まぁ、でも、こういうのは、場数(ばかず)だからな

白狐:次、頑張ればいいさ


千秋:次って言ってもさ、あんまり女から誘うのも・・・

千秋:なんか「飢えてる女」みたいに見えないかなぁ


白狐:そんな事気にしてどうすんだよ

白狐:お目当ての兄ちゃんと、付き合いたいんだろ?


千秋:やっぱ見えるんだ・・・・


白狐:いやいや、大丈夫だって


千秋:・・・うん・・そうかなぁ・・・



数日して

会社に出社した千秋



千秋:おはようございます。

千秋:あれ?

千秋:今日も沖田さん、お休みなんですか?

千秋:もう3日ですよね?

千秋:どうしたんだろう・・・


白狐:千秋、チャンスだ!


千秋:あわわわ、白狐、どうしたのよ突然

千秋:会社の人に聞かれたら・・


白狐:それは大丈夫、お前以外には聞こえねぇよ

白狐:そんな事より、千秋、チャンスだぞ!


千秋:チャンスって何がよ

千秋:俊君は、病気で休んでるんだよ


白狐:だから、チャンスなんだよ

白狐:千秋、お見舞いに行け

白狐:病気で弱っている人間は、落としやすいぞ


千秋:そんな姑息(こそく)な・・・


白狐:そんな事言ってるからダメなんだよ

白狐:お見舞いに行けよ、絶対に行け!

白狐:昼間の方がいいから、会社は早退しろ

白狐:俺も付いてってやるから


千秋:えーー分かったよ



俊のアパート付近の公園



千秋:ごめんね、体調悪いのに


俊:ううん、僕の方こそ、ごめんね

俊:折角、お見舞いに来てくれたのに、近くの公園でだなんて

俊:部屋にあがって貰えればよかったんだけど、

俊:今、部屋がかなり散らかってて、女の子に見せられる状態じゃないんだ・・・


千秋:ううん、私の方こそ、ごめんね、突然・・・


俊:そんな事ないよ、

俊:千秋ちゃんがお見舞いに来てくれて、嬉しかったよ・・・・


白狐:(無声音)今だ千秋、行け!


千秋:俊君、こんな時に、あれだけどさ・・・


俊:え?


千秋:私、俊君の事が好きなの

俊:うわっ(言葉を遮るように)

俊:急に風が・・・


千秋:また・・・


俊:千秋ちゃん、今、何か言った?


千秋:いや、だから・・ひぃ


千秋:・・いや・・なにも・・・


俊:そう・・・


白狐:なるほど、そういう事か・・・


千秋:俊君・・・えっと・・


俊:うううう・・痛い(激しい頭痛)


千秋:大丈夫?


俊:ちょっと頭痛が・・・

俊:このところ酷くてさ、起き上がるのも辛い時があるんだ


千秋:そうなんだ・・


俊:うん、ごめんね千秋ちゃん、折角、お見舞いに来てくれたのに


千秋:何言ってるのよ、私の方こそ、ごめんね

千秋:もう、部屋に帰ったほうがいいよ


俊:ごめん、そうさせて貰うよ

俊:今日は、来てくれてありがとうね

俊:会社の人にも、「迷惑かけてすみません」って伝えておいてくれないかな


千秋:うん、分かった・・

千秋:お大事にね・・・


自分の部屋に帰る俊

一人残される千秋


千秋:あぁーあ、やっぱり告白できなかった・・・

千秋:しかも、俊君に、悪い事しちゃったよ

千秋:白狐! あなたがお見舞いなんて・・


白狐:おい、千秋

白狐:あの兄ちゃん、死ぬぞ


千秋:ちょ、何言ってんのよ

千秋:どういう事?


白狐:お前には、見えないかもしれないが

白狐:あの兄ちゃんには、蛇の怪異が付いている。


千秋:蛇の怪異?


白狐:あぁ、蛇の怪異だ

白狐:あの蛇はな「人恋しくて寂しい人間」に取りつくんだ

白狐:そして、ジワジワと弱らせていって、最終的には殺す。

白狐:殺した後、その魂を冥界に連れ去っていくんだよ。


千秋:そんな・・・


白狐:あの兄ちゃんの体調が悪い原因は、それだな

白狐:それと、

白狐:お前が、あの兄ちゃんに近づこうとする度(たび)に、あいつが邪魔をしているのさ

白狐:自分の取りついた得物を、お前に渡したくないんだろうな


千秋:だから、突然、風が吹いたりしたのか・・・


白狐:そういう事だ

白狐:自分の大事な得物(えもの)だからな


千秋:俊君が得物・・・

千秋:白狐、あなたなら、その蛇を何とかできる?


白狐:あぁ、俺なら問題なく倒せる。

白狐:あいつは、それ程強くないからな


千秋:じゃぁ、お願いよ、白狐

千秋:俊君を助けてあげて


白狐:ただ、あの兄(にい)ちゃんに取りついている今の状態じゃ

白狐:衝撃が、直接、兄ちゃんも伝わっちまって、

白狐:兄ちゃんも、死んじまうよ

白狐:奴を倒すには、まず、兄ちゃんから、奴を引き剥(は)がさなきゃいけないな


千秋:どうやったら、引き剥がせるの?


白狐:千秋が、奴に「こいつは私の得物だ」って見せつけてやればいい

白狐:そうすれば、奴は嫉妬に狂って、お前を殺そうと、あの兄ちゃんから離れる


千秋:でも、見せつけるって、どうやって


白狐:うーん、例えば

白狐:お前が、あの兄ちゃんを抱きしめて「千秋の恋人」だって言わせればいいんじゃないか?


千秋:え?、女の私から?

千秋:そんなの恥ずかしいよ・・・


白狐:そんな事言ってる場合じゃないだろ?


千秋:そうだけど・・・

千秋:でも、それに、あの蛇が邪魔してくるでしょ?


白狐:お前が、奴に負けないくらいの気合で、兄ちゃんを抱きしめてやれば、いけるんじゃないか?

白狐:これは、腕力じゃなくて勇気の問題だからな、女の千秋にだってやれる筈(はず)さ。


千秋:でも、そんな事・・・


白狐:まぁ、お前次第だな

白狐:こうしている間にも、あの兄ちゃんの体力は、どんどん弱っていくぞ


千秋:私にはそんな勇気・・・


暫く考える千秋


千秋:そうだ白狐、私に武者玉を頂戴!


白狐:そりゃ、武者玉を使えば、千秋でも、引き剥がすくらいは、出来るだろうけど・・・

白狐:武者玉を使うって、どういう事か知ってるだろ

白狐:お前の魂と交換だぞ


千秋:分かってる


白狐:分かってるって・・・

白狐:それでお兄ちゃんは助かるだろうけど

白狐:千秋が死んだら、意味がないだろ


千秋:それでも、俊君を冥界に連れて行かれるよりは、よっぽどましよ。


白狐:でもよ、兄ちゃんは悲しむんじゃないか?


千秋:それは・・・

千秋:彼には、ちゃんと説明するよ

千秋:今は、その方法しかないでしょ?


白狐:確かにな・・・


白狐:わかった

白狐:でも、本当に、それでいいんだな?


千秋:ええ、いいよ


白狐:千秋、一つ言っておくが

白狐:武者玉ってのは、それを使う人間の勇気を増幅させるものだ

白狐:だから、元々の勇気がなければ、幾ら武者玉を使ったって、大して効き目はないぞ

白狐:つまり、お前自身がしっかりと勇気を奮い起こさないと

白狐:奴には勝てないって事だ

白狐:やれるのか?


千秋:え・・・・

千秋:うん・・分かった、

千秋:や、やるよ


白狐:わかった、じゃぁ行くぞ


俊の部屋の前まで来る


白狐:ここが、あの兄ちゃんの部屋か?


千秋:うん、ここで間違いないはず


白狐:よし、カギは俺が開けてやる

白狐:千秋、覚悟はいいか?

白狐:俺が「武者玉」入れてやるからな


千秋:うん


白狐:よし、いけ!


パン! 背中をたたく白狐


千秋:よし! いくよ!


白狐が俊の部屋の鍵を開ける

千秋が俊の部屋のドアを開ける


千秋:俊君、入るわよ


俊:千秋ちゃん・・・どうして、痛っ頭が・・(ひどい頭痛)


千秋:俊君!


俊に近づこうとするが、蛇が姿を現し、千秋を近づけさせないように邪魔をする


千秋:う・・近づけない

千秋:もう・・・蛇め・・


白狐:お、正体見せやがったな

白狐:千秋、行け!


千秋:うううう

千秋:そんな事いっても・・・


白狐:何やってんだ、好きな男が持っていかれるぞ


千秋:あああ、俊君!


俊を抱きしめる千秋


俊:千秋ちゃん・・・ちょっ・・・

俊:どうしたんだよ、抱きついたりして・・・


千秋:俊君、あなたは、私の恋人よ、いいね!


俊:え?


千秋:あなたは、私の恋人なの


俊:千秋ちゃん、どうしt・・


千秋:俊君、あなたは、

千秋:私が「死ぬまで」

千秋:あなたは、私の恋人よ


俊:千秋・・


千秋:「恋人だ」って言って!


俊:あぁ・・・


千秋:言って!


俊:僕は千秋の恋人だ!


俊の身体からスッと何かが抜ける


俊:あ・・・体が・・・


千秋:俊君、どうしたの?

千秋:大丈夫?


俊:あれ?

俊:痛くない・・・あの頭痛がまるで嘘みたいに

俊:どうして

俊:これ、千秋ちゃんのおかげなの?


千秋:ま、まぁ・・・


俊:ありがとう


千秋:苦しかったでしょ?

千秋:遅くなってゴメンね


俊:ううん・・・


白狐:おい千秋、こっちも仕留めたぞ

白狐:見ろ、こんなにでかい蛇だ


千秋:そっか、良かった・・って、そんな蛇をこっちに見せないでよ、もう・・


白狐:ごめん、ごめん、ははは


千秋:白狐、あなたって、そんな姿をしてたのね


白狐:へへへ、まぁな


そこには大きな蛇を担いだ白狐がいた


俊:うわぁ!

俊:何っ!

俊:誰!


千秋:大丈夫。

千秋:あれは、白狐っていう狐の霊よ


俊:白狐?


千秋:俊君に取りついていた、あの蛇を見つけてくれて

千秋:退治の仕方まで教えてくれたんだ


俊:あの蛇が僕に・・・あんなに大きい


白狐:そうだぜ兄ちゃん

白狐:もう少しで、あんたは、こいつに殺されるところだったんだ

白狐:でも、その女が勇気をだして、あんたの身体から、この蛇を引っ剥がしたんだよ

白狐:そして、俺が仕留めたって訳さ


俊:白狐さん

俊:ありがとうございます。


白狐:お礼なら、千秋に言いな

白狐:まさに命がけで戦ったんだ

白狐:そうだろ?


千秋:う、うん


俊:え?

俊:どういう事?


千秋:俊君・・・

千秋:実は、俊君に話さなきゃいけない事があるんだ


俊:話さないといけない事?


千秋:うん

千秋:私が蛇に立ち向かえたのは、その白狐がくれた「武者玉」のおかげなんだ

千秋:この武者玉を使うと、どんな強大な敵にも、立ち向かう勇気が湧いて来るの

千秋:そのかわり・・・

千秋:私の魂を、捧げないといけないの


俊:魂って・・・まさか


千秋:うん、私はもう、生きていられないだ


俊:そんな


千秋:でも、俊君を助けられてよかった

千秋:だから、私の命はもういいんだ

千秋:どうしても、俊君を死なせたくなかったの

千秋:ましてや、あんな蛇なんかに、俊君を連れて行かせるなんて

千秋:絶対に嫌だった

千秋:だから、後悔はしてないよ


俊:そんな、

俊:幾ら僕に命があったって、千秋ちゃんがいないなら、同じじゃないか

俊:勝手だよ、千秋ちゃん


千秋:俊君・・・ごめんね


俊:白狐さん!

俊:何とかする方法は、ないんですか?


白狐:うーん・・・

白狐:武者玉が魂と引き換えってのは、俺じゃなくて、もっと上の神様が決めた事だからなぁ

白狐:俺じゃ、何とも出来ないんだよ


俊:それじゃ、僕の魂を、代わりにする事は出来ないんですか!


千秋:俊君、ダメだよ折角助かった命なんだから


俊:何をいうんだよ

俊:こんな勝手なことやっておいて

俊:僕の気持ちも分かってよ


白狐:うーん、

白狐:武者玉は使った人間の魂と交換だからなぁ・・・

白狐:代わりの人間って訳にはいかないなぁ


俊:それなら、僕にも武者玉をくれないか!

俊:僕も武者玉を使う

俊:それなら、千秋ちゃんと同じだろ


千秋:俊君、そんな事しちゃダメ

千秋:それに、白狐は武者玉を1つしか持ってないから、俊君の分はないよ


俊:そんな・・・

俊:僕はどうすれば


千秋:俊君には、これからずっと

千秋:私の分まで、生きて欲しい


俊:千秋ちゃん・・・


千秋:俊君、大好きだよ


白狐:えーと・・・なんだ・・・その・・・あれだ・・

白狐:武者玉ならあるよ

白狐:ほら


武者玉を見せる白狐


俊:白狐さん

俊:それを、僕に下さい。


千秋:ダメだって俊君

千秋:白狐!

千秋:あなた、武者玉は一つしかないって、言ったじゃない


白狐:あぁ言ったよ


千秋:だったらどうして、もう一つ持ってるのよ


白狐:だって、お前、武者玉使ってないもん


千秋:え?


白狐:言葉の通りだよ

白狐:どうしてもの時に、お前に投げつけてやろうと思ってたけど

白狐:使わずに済んだんだよ


千秋:どうして、黙ってたの


白狐:まぁ・・あれだ

白狐:お前たちが、そんなイチャイチャやってるから

白狐:言い出しにくくてな

白狐:悪い悪い


千秋:イチャイチャって・・・


白狐:って事で、兄ちゃん

白狐:そいつは死なないよ


俊:そうか

俊:それはよかった・・・


白狐:千秋、これで、約束は守れたな

白狐:んじゃ、俺はこいつを持って帰るわ


千秋:白狐、あなたのおかげで人生が変えられた

千秋:本当にありがとう


白狐:これから先も上手くやれよ

白狐:じゃぁな


白狐の身体が消えていく


俊:千秋ちゃん、

俊:僕、なんか、夢を見ているみたいだ


千秋:これは、夢じゃないよ


俊:そっか

俊:やっぱり夢じゃないんだ


千秋:ええ


俊:千秋ちゃん・・・ありがとう


千秋:ううん


俊:千秋ちゃん・・・これからもよろしくね


千秋:・・・うん


俊:千秋、大好きだよ


千秋:私・・・も


俊:千秋


千秋:え?


俊:チュ(唇に軽いキスをする)


終わり

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