リープル

@mirumirai

2

 僕は、夢を見ていた。思い出そうとしても、靄がかかって、よく思い出せない。ただ一つわかるのは、それが良くないものだということだった。


 桜田高校、僕が通う学校だ。田舎にあるので、校舎は小さく、生徒総数も少なかった。

 僕は、海馬団地に一人で住んでいた。今朝も、いつも通りに歩いて登校する。緋寄坂は、急斜面で歩くのが疲れる。少し歩けば、時哉川が流れていて、その近くは比較的涼しかった。


「なつかしい.....」


並風海のすぐ近くに、桜田高校は建っていた。

 僕は、靴を履き替え教室へと足をすすめた。ドアを開けると、唯一の同級生が席に座っていた。杜郭治春馬だ。


「よぉ、政司、どうにもないか?」

「久しぶり、春馬。僕はこのとおり、なんともないよ」


 二人の会話が、静かな教室に響き渡る。波の音が、掻き消えるくらいに。

 先生は、朝八時十五分に教室に来る。しかし、今日はいつもよりも早かった。


「成瀬、杜郭治、今日は遠足に行くぞ」


 機雄也、桜田高校唯一の先生であり、僕たちの担任でもあった。

 僕たちは、津島山に来ていた。山にすっぽりと空いたこの場所からは、木々が薙ぎ倒されたことが窺える。ここからは、並風海と高校が一望できた。


「お前たちには、ここでスケッチをしてもらう。何を描いても構わないから、時間だけ気をつけろよ」


 そう言うと、先生は近くの切り株に腰掛けた。

 僕たちは、ここから一望できる景色を描くことにした。ここからだと、篠崎町と燈池のコントラストが、抜群にマッチしている。

 数時間が過ぎた。僕たちは、各々一番気に入った風景を描いた。僕の作品は、燈池から女神が出てくるものにした。


「春馬?どこに行ったんだ?」


 周りを見渡すが、春馬の姿がどこにもない。気づけば、太陽は沈み、夜になっていた。周りが見えなくなり、何かに躓き、転んでしまった。

 誰かが、近づいてくる。


「無様だな、成瀬。俺は、こんな奴に.....」


 姿は見えないが、先生の声であった。足音が、大きくなる。草を踏む音で、自分の真横まできたことがわかった。


「覚えてないだろうが、これは・・だ」


 次の瞬間、僕は自分の胴体を見ることになった。暗闇であるはずなのに、鮮明にそれだけが見える。


「あ、あぁ」


 僕の胴体には、首から先がなかった。痛みはない。だが、衝撃のあまり僕は叫ぼうとした。声帯を震わせる。しかし、声が出ない。意識も朦朧としてきた。


 僕は、死んだのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る