リープル
@mirumirai
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僕は、夢を見ていた。思い出そうとしても、靄がかかって、よく思い出せない。ただ一つわかるのは、それが良くないものだということだった。
桜田高校、僕が通う学校だ。田舎にあるので、校舎は小さく、生徒総数も少なかった。
僕は、海馬団地に一人で住んでいた。今朝も、いつも通りに歩いて登校する。緋寄坂は、急斜面で歩くのが疲れる。少し歩けば、時哉川が流れていて、その近くは比較的涼しかった。
「なつかしい.....」
並風海のすぐ近くに、桜田高校は建っていた。
僕は、靴を履き替え教室へと足をすすめた。ドアを開けると、唯一の同級生が席に座っていた。杜郭治春馬だ。
「よぉ、政司、どうにもないか?」
「久しぶり、春馬。僕はこのとおり、なんともないよ」
二人の会話が、静かな教室に響き渡る。波の音が、掻き消えるくらいに。
先生は、朝八時十五分に教室に来る。しかし、今日はいつもよりも早かった。
「成瀬、杜郭治、今日は遠足に行くぞ」
機雄也、桜田高校唯一の先生であり、僕たちの担任でもあった。
僕たちは、津島山に来ていた。山にすっぽりと空いたこの場所からは、木々が薙ぎ倒されたことが窺える。ここからは、並風海と高校が一望できた。
「お前たちには、ここでスケッチをしてもらう。何を描いても構わないから、時間だけ気をつけろよ」
そう言うと、先生は近くの切り株に腰掛けた。
僕たちは、ここから一望できる景色を描くことにした。ここからだと、篠崎町と燈池のコントラストが、抜群にマッチしている。
数時間が過ぎた。僕たちは、各々一番気に入った風景を描いた。僕の作品は、燈池から女神が出てくるものにした。
「春馬?どこに行ったんだ?」
周りを見渡すが、春馬の姿がどこにもない。気づけば、太陽は沈み、夜になっていた。周りが見えなくなり、何かに躓き、転んでしまった。
誰かが、近づいてくる。
「無様だな、成瀬。俺は、こんな奴に.....」
姿は見えないが、先生の声であった。足音が、大きくなる。草を踏む音で、自分の真横まできたことがわかった。
「覚えてないだろうが、これは・・だ」
次の瞬間、僕は自分の胴体を見ることになった。暗闇であるはずなのに、鮮明にそれだけが見える。
「あ、あぁ」
僕の胴体には、首から先がなかった。痛みはない。だが、衝撃のあまり僕は叫ぼうとした。声帯を震わせる。しかし、声が出ない。意識も朦朧としてきた。
僕は、死んだのだった。
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