他人

@maru_maru56

執着

 メッセージが送れなかった。

 4月1日、新年度の始まりとともに私たちも高校生になろうとしていた。

いつものようにメッセージを送ろうとしてブロックされていることに気がついた。「これからも仲良くしようね」そんな言葉を既読がつかないトーク画面で一人眺める。小学生の時から仲良くしていて中学校でも毎日のように一緒にいたのになんで。今までの思い出に一つ一つ問いかけるように「なんで」が頭を巡った。しかし、理由を本人に聞く術は私には無い。

 何もわからないまま新しい学校への登校が始まった。シワのない制服に身を包み、初めてのバスに乗る。思ったよりあの子のことは思い出さずに1日が終わった。周りの子は新しい生活に胸を膨らませ目を輝かせていた。私も例外ではなく新しい生活には期待していた。でも、ところどころにあの子を思い出してしまった。馬鹿みたいだ。もう終わった関係なのにこんなにも執着しているなんて。これが恋人どうしなら普通に思われるかも知れない。でも私たちはただの友達だ。いや、友達だった。それからも新しい友達ができたりしながらやっぱりあの子を思い出してしまい、だんだんと学校に行けなくなった。弱い人間だ。

 学校に行けなくなってからはよりあの子への想いが酷くなった。授業や人との会話などの気を紛らわす事のできるものがなくなってしまったからだ。一日中「どうして」と一人で答えの返ってこない問いを続ける。あの子は死んでしまったわけでもないのにどうしてこんなに辛いのだろう。いや、死に別れの方が今より気が楽だったかも知れない。今、私が死んでしまえばあの子の記憶に残っていられるかしら。本当にどうしてここまで執着しているのかわからない。でも執着してしまっている。どうしようもないのだ。

 高校生になって半年が過ぎ、中学生の頃仲が良かった男の子と久しぶりに話した。

「そういえばあのことはまだ仲がいいの?」純粋に問う瞳が少し苦しかった。私は今までのことを話した。すると彼は少し面白そうに、「まだ連絡先持ってるから理由、聞いてみてもいい?」「え、あ、うん」曖昧な言葉を返した。きっとあの子は嫌がるかな。でも、どうしても気になった。理由がないと自分の気持ちに整理をつけられないと思った。

数日後、彼からメッセージが届いた。

「もう対応がめんどくさかったんだって。」

もう私はあの子が分からない。

 それから進展なく一年たったある日、夏祭りで君を見かけた。私に楽しそうに好きだと話してくれた男の子とは違う男の子が隣にいる。数年前、私と一緒に夏祭りに行った時と同じ浴衣を着て、縮毛矯正をかけた髪の毛をまとめ、楽しそうに笑っていた。もうそこには私が執着していたあの子はいなかった。過去を忘れ今を歩いている一人の女の子がいるだけだった。変わっていないのは私だけだったのだ。いつまでも過去に囚われ未来を見れずにいる愚か者は。

ありがとう。やっと君を嫌いになれた。あの時声はかけられなかったから今ここで言ってやる、最低なクズ野郎。


こんなことであっさりと執着を捨てられる私も、クズ野郎なのかもしれない。

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