見返り桜1(女性ひとり読み)
Danzig
第1話
花が咲いていない大きな桜の木の下で、男女が酒を呑もうとしている。
娘:さぁ、この盃を受けて下さいませ。
娘:この時期には珍しく、あなたの好きな良いお酒が手に入りました。
娘:まだまだ春は先ですが、この桜の木の下で一足先に、
娘:二人きりの宴をいたしましょう。
娘:今日は私にたんとお酌をさせて下さいませね。
娘:明日で、あなたと離れ離れになってしまうのは寂しいですが
娘:何より、あなたの出世の為のお召し上げ
娘:嫌だなどと言ってはいられませんね。
娘:さぁどうぞ
酌をする女
娘:それにしても、明日はあなたの晴れの日だというのに
娘:今が春でないことが残念でなりません。
娘:村一番のこの桜が咲いていれば、さぞや
娘:あなたの出立(しゅったつ)に花を添えることが出来ましたでしょうに
立ち上がり、桜の木に近寄る女
娘:村を出立(しゅったつ)される方々が、古郷(こきょう)との別れを惜しんで必ず振り返るという見返り桜
娘:この花の満開を待たずして、あなたとお別れをする事になろうとは・・・
男の方へ振り返る
娘:一つだけ、お願いをしてもいいですか?
娘:明日は決して振り返らずに、この村を後にしてくださいませ。
娘:もし、振り返ってしまえば
娘:きっと・・・
娘:きっと私は涙をこらえてはいられないでしょう
娘:目出度い門出に涙はゆるされません。
娘:それに、あなたはお優しい方故
娘:私の涙が、あなたのお心のお邪魔になってしまうかもしれません。
娘:ですから・・・
娘:明日は決して振り返らずに・・・
振り返り、桜を見る女
娘:あぁ、今が春でないことが誠に残念でなりません。
娘:もし、春であれば・・・
娘:この桜が、私の代わりに泣いてくれましたのに
娘:涙を見せられぬ女の代わりに泣いてくれるというこの見返り桜でさえ
娘:私の心を汲んではくれないのですね・・・
娘:せめて
娘:せめて、今だけは・・・・
娘:涙を流してもいいですか
完
見返り桜1(女性ひとり読み) Danzig @Danzig999
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます