第4話

「シシィ、ねぇシシィ」


ふと私を呼ぶ声がする。

誰よ、私の眠りを妨げるのは。


「どなたかしら……眠いわ」


「起きてよ、もう、シシィったら」


目を開けると姉のへレーネ、愛称ネネーがふてくされてる。



「ネネー、どうしたの?」


「シシィ、最近なんか変よ?前は遊び回ってたのに最近は本を読むか寝てるかなんだもん」


大人になると忙しくて本は中々じっくり没頭して読めないし、ぐうたらできるって日はないからね。

子供のうちに満喫しておかないとって思うわ人生二回目だから。


「当たり前じゃない、ママが外に出たら怒りのあまり卒倒しかねないし、なんだか遊ぶのも疲れるのよ」


「変なシシィ、お年寄りみたいな事言って」


「レディが年齢に関することを話題にするのはマナー違反ですよ、お姉様」


「シシィまでマナーの事言わないでよ、うんざりしちゃうわ」


そうでしょうね、未来の皇后にするのにはかなり厳しく躾けられるでしょうから。


「仕方ないわよ、ネネーは綺麗だからきっと素晴らしい方と結婚できるわ」


「そんなことないわ、シシィの方が綺麗でかわいいわ」


「私は普通の金持ちでケチじゃなくて堅苦しくない貴族と結婚したいな、政治とは無縁の」


「どうして?」


「ネネー、世の中の動きがきな臭い時に誰が好んで渦中に入ろうとすると思うの?私はそんなの嫌だわ、それなら身動きが取れないようなことしないで動けるようにしておいてすぐに逃げれるようにしたいのよ」


私がそう言うとネネーは考えこんでいるのか黙ってしまった。


「でもシシィ、私達には人生の選択肢なんてないのよ、結婚した相手に舵をとってもらうしかないの」


「ええ、だからこそ相手は慎重に見極めてお母様にお願いしとかないとね」


「そのことなんだけど、ママはどうやら私を皇帝と結婚させたいと思ってるらしいの」


ほらきた!

私はワクワクする気持ちを抑えながら答えた。


「なんて素晴らしいのかしら、ネネーが皇后になれば世界は平和になると思うわ、本当よ、だってどんなに否定しようとも頭がいいし、優しいし、様々な事柄から美点を見出すことができるんですもの、私と逆だわ、私はバカだし、変わっていて、相手の悪いことばかりが目につくんだもの」


「そんなことないわ、シシィは優しいじゃない」


「姉妹で褒め合いしてもしょうがないわよ、でもね、ネネーは皇后になるべきよ、頑張ってね」


私はネネーにそう言うと微笑んでみた。

そう、あんたが皇后にならないと私が危うくなるのよ

ごめん、だがあんなマザコン優柔不断男とは結婚なんて

絶対嫌、死んでも彼と結婚なんて出来ないわ。

ネネーはうっとり未来を考えているのだろう、私のこんな企みなんて気づかずに。


「シシィだってカール・ルートヴィヒ殿下を夢中にさせてるらしいじゃない?」


「一体どこからそんな話が湧いて出てきたのよ、いいえ、言わないでママからでしょ?それ以外考えられないわ、でも気持ちはわかるわ、ママはパパと結婚したけどパパはあまり家に戻ってこないで好き勝手に暮らしてるでしょ?

もちろん不幸せじゃないわ、二人とも一応お互いを好きだし、尊重してるけどそうね、価値観が合わないというかそんな感じだわ、それに自分の姉妹の中で権力者の妻になれなかったことが結構コンプレックにママはなってるからネネーを皇后にしたいし、私を皇帝の弟の妃にしたいんでしょう」


私はそう言い切るとなんとなく小腹が空いてきた。

窓の外は明るいけれどオレンジ色の光が夜の気配を

感じさせていた。

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