17・舟

「それじゃあ、いかだの為に木材を集めやね」


 おっと、ユキネさんはいかだを作ると思っている様だ。

 いかだを作るんじゃない事を話しておかないと。


「作るのはいかだじゃないです」


「へ? でもウチ等が作れる様な船いうたら、いかだしかないやん」


 まぁ確かにそう思うよな。

 けど、いかだだと島の脱出は不向きなんだよな。


「えと、いかだは波に流されやすくて推進力のあまりありません。島の周辺の波は結構荒いので、いかだを使っての脱出は難しいんです」


「そうなん?」


「じゃあぁ、アンちゃんが言っていたぁわたし達でも作れる船ってなんなのぉ?」


 当然、ベルルさんの様な疑問が全員の頭に過ぎっただろう。

 あるんだよな、根気さえあれば出来る船が。


「丸木舟を作ろうと思います」


「まるき……ぶね……? お嬢様……そのような船、わたくしは聞いた事がありません」


 ユキネさんもベルルさんもなにそれ? って感じで俺の方を見ていた。

 そりゃあ聞いた事はないだろう。

 俺もネットの記事で見て初めて存在を知って、興味本位で調べた程度だしな。

 無論、現物なんて見た事が無い。


「1本の丸太の中をくり抜いて船にするの。それが丸木舟よ」


 俺の調べた範囲だと石器時代頃から使われた船で、大型の船が作られ始めても使われ続けられていたらしい。

 特に驚いたのは、縄文時代の人は丸木舟で普通に日本海を超えて行き来していたそうだ。

 流石に昔の様に長い航海は無理だが、遠くで見える距離くらいならば丸木舟でも行けるだろう。


「丸太の中をくり抜いてって……え? それだけ?」


 んー物によっては加工した物もあったそうだけど……。


「はい、それだけです」


「ちょっ! そんな船で大丈夫なんか!?」


 不安になる気持ちもよくわかる。

 絶対に安全とは言えないが、事実使われていた物には間違いない。


「絶対に大丈夫とは言い切れませんが……ただ、大昔の人はその船を使っていましたのは事実なので実績はあります。私達みたいな素人が組み立てた船より頑丈で安全性は高いと思いますよ」


 まぁその大昔っていうのは転生前の世界の話で、こっちの世界で使われていたかは知らんけどな。


「そうなんですか……先人はすごいですね」


 本当にな。

 石器しかり、灰汁の洗濯しかり、成分がどうのこうのとわからないのに使い道を見つけ出すというのは本当にすごいと思う。

 そういう事を考えると、ある意味昔の方が技術力が上だったのではと思うよ。


「どういった船にするかはわかったわぁ~けどぉ、その船にする木はどうするのぉ?」


 実はそこがなんだよな。

 本来は俺一人でのつもりで作るつもりだったから、その辺りに生えている手ごろな木を使うとしか考えていなかった……。


「え~と……それは……」


 俺、ケイト、ユキネさん、ベルルさんの4人で乗るとなると2・2で分かれて2本の木を削ればいい。

 だが……トモヒロも一緒となると話は別。

 その辺の木だとトモヒロがでかすぎて、船が沈んでしまうのが目に見えている。

 ならトモヒロだけいかだに乗せて引っ張るか?

 いや、女性の力だけでトモヒロが乗っているいかだを引っ張るのは無理があるぞ。

 それこそトモヒロの馬力がエンジンになるから一緒に乗りたいところだ。


「なにかいい方法がないか……」


 俺は辺りを見わたして、いい方法が無いか考えた。

 そして、山の方を見て閃いた。


「……あっ!」


 うってつけの、いいの木があるじゃないか!


「あの木を削って丸木舟を作りましょう!」


 俺は山の頂上に生えている大きな1本の木に指をさした。



「で……山に登らんと、ここで何すんの?」


 頂上の木を伐る事になったが、俺達が向かった先は沢。

 木を伐る為には道具が必要になる。

 その道具を、この沢で手に入れるわけだ。


「木を伐る為に必要な石斧を作ろうと思います」


「ああ、それでここに来たわけか」


「確かに木を伐る為には斧が必要ですものね」


「そういう事」


 俺は落ちていたL字型の木を手に取った。


「これならいいかも」


 まずは握りやす方を選んで柄の部分にする。

 そして、握らない部分に石器を置く為にナイフでみぞを掘っていく。


 にしても、サバイバルでナイフが有るか無いかで相当変わるというのを無人島生活でよくわかった。

 無人島で1つだけ持って行くなら何を持って行くという話で、人それぞれ色んな答えがある。

 ただガチの場合はナイフと答える人が多いとどっかの記事で読んだことがある。

 それが本当なのかどうかはわからないけど、少なくともナイフが無かったら今の生活が大変だった事には間違いないだろう。


「――フッ! うん……こんな感じかな? このみぞの上に石器を置いて蔓で固定すれば石斧の完成です」


「完成って……それ斧ちゃうやん。斧ってさ、こう刃と棒が平行しているもんや。アンちゃんが作ったのってクワやんか!」


 俺も初めてこのタイプの斧を見た時そう思ったな。


「えと、ユキネさんの言っているのは縦斧って呼ばれていて、私達がよく使うタイプの物です。私が作ったクワのような形をしている物が横斧といいます」


 縦斧の方が使い勝手がいいとは思うが、問題は製作時間なんだよな。

 石を刃にする為の磨製石器作業。

 その石がぴったりハマる様に、棒に穴を空ける加工作業。

 1個作るだけで半日はかかるだろう。

 あれだけ大きい木を伐るんだ、石器の消耗が激しいのは目に見えている。

 その事を考えると、圧倒的に効率が悪い。

 なら、どんどんと作れるこの横斧がうってつけなわけだ。


 その事をみんなに説明して、まずはみんなで横斧の制作に取り掛かった。


「大量にこれを作るのねぇ……あれぇ? もしかしてぇこれからわたしが頑張らないといけないって事なんじゃあ……?」


 はい、伐採作業になると人数問題でベルルさん1人で斧作りをしてもらわないといけないから確実にそうなります。


「……」


 俺は何も言わず黙々と横斧作りを続けた。

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