第3章 無人島から脱出
16・脱出に向かって
ケイトが細目で水平線を見ていた。
「今日も見えますね」
無人島に来てから約2週間。
その間、ケイトは定期的に同じ方角で船らしきモノを発見していた。
「……そう」
見かける方角、時間帯がだいたいいつも同じだ。
規則性がある事を考えると、ケイトが見ているモノが生物だとは考えにくい。
となると動いているモノは船だとみて間違いないだろう。
だが何回も通っているのにも関わらず、未だに俺の目には見えない。
その事を考えると、この無人島の位置が船の航路から完全に外れてしまっている。
俺予想が当たっていた場合、たまたま航路から大きくズレた船か、俺達を探している救助の船が近くに来ない限り助かる可能性は相当低い。
この世界に空から捜索できる技術が無いのが辛いところだ。
ただ、それなら長い時間をかければ運次第で助かる可能性はある……が、そんな悠長な事も出来ないのが現実だ。
それは冬の存在。
この無人島が何処まで冷え込むかわからないが防寒対策は必須。
でないと、低体温症で死んでしまうからな。
それに加えて食料が手に入りにくくなってしまうのも目に見えている。
ウェットスーツみたいなものも無いから冬の海に入る事も難しいし、冬の間を越せるほどの保存食を作れるほどの余裕もない。
冬に入ってしまえば終わりと考えるべきだ。
なら、俺達が生きて帰れる可能性が高いのは……。
「……ケイト」
大博打になってしまうがやるしかない。
「はい、お嬢様」
「私、決めたわ」
「決めた……? 何をでしょうか」
「この島から脱出します」
「!」
俺1人で船に乗って助けを求めに行く。
これが今考えられる生きて帰れる可能性だ。
船作りや俺1人が逃げ出したと思われない様に、みんなと話し合う必要があるな。
※
「みんな、お話したい事があります」
昼ご飯を食べた後、さっそくみんなに話す事にした。
「どうしたん? そんな真剣な顔して」
「その感じだとぉ大事な話みたいねぇ」
俺の言葉に3人の視線が集まった。
まさにその通り、とても大事な話だ。
「はい……私は、この島を脱出しようと思います」
「……へっ? はっ? ええっ!?」
「ええぇっ!」
脱出の言葉に2人が驚いている。
同然そうなるよな。
「だ、脱出って……また急に何を言い出すんや」
「本当よぉ、それって本気で言っているのよねぇ?」
「……」
ユキネさんとベルルさんが動揺している中、ケイトは黙って俺の方を見ていた。
「無論、本気です。このまま行動をしなければ私達は命を落とす……そう判断しました」
「命って……ちゃんと食べ物もあるのに、なんでそんな事を言うんや!?」
「ユキネちゃん、落ち着いてぇ。まずはぁアンちゃんの話を聞きましょう?」
「あ、うん……」
「……脱出を決めた理由として2つあります。1つ目は獣人のケイトとベルルさんのみが見える遠くの船の存在です。何回も通っているのにも関わらず、未だに私の目で見える所までは来ない……つまり、この無人島の位置は船の航路から外れてしまっていると考えられます。それだと狼煙を上げようが私達を見つけてもらえる可能性はほぼありません」
「でもぉ偶然近くに来る可能性もあるわよぉ?」
「その可能性もありますが……その偶然が今すぐなのか、はたまた1年後なのか……それは全くわかりません」
神のみぞ知るって奴だ。
「あ~……流石に1年はしんどいよな~」
「ただ、その1年後が2つ目の理由になります。いえ、正確に言えばこれから来る冬に対してですね」
「冬に対して……? ……あっそっか! 寒さやな」
「はい、どのくらい寒くなるのかはわかりませんが……少なくとも防寒対策がない状況で、焚き火のみで寒さを耐える事は無理があります」
「わたしぃ寒いの苦手だからぁそれは困るわねぇ……」
困るですまないっての。
「洞窟を探したり、葉っぱをかき集めて防寒対策をする手段もありますが……冬の問題はそれだけではありません、食料が取れなくなってしまうところにもあります。物資が乏しいですから、冬を越せるだけの保存食を作る事も難しいです」
「……そうねぇ」
「う~ん……アンちゃんの言いたい事もわかったけど、でもどうやって脱出するん?」
「わたくしもそこが気になっていました」
さて、そこが大博打の点だ。
失敗がそのまま死につながってしまうからな。
「私達で船を作ります」
「――船を作る!?」
ケイトは驚きの声をあげた。
滅多にそういった声をあげないのに……よほど驚いたのだろう。
「そう、そして航路の付近まで行って通りかかった船に助けてもらおうと思っているの」
「「「……」」」
3人が口を開けて黙り込んでしまった。
いや、思考が追い付かなくて固まってしまった感じか。
俺も急にそんな事言われたら同じ事になるだろうな……。
「はっ! ……えぇ~と……はっはぁい! 質問!」
我に返ったベルルさんが手をあげた。
「何でしょう?」
「ふ、船ってぇわたし達で作れる物なのぉ?」
ああ、そこの心配ね。
「流石に本格的な物は無理ですが、作れる船の案はあります。まぁトモヒロの力が絶対に必要になりますけどね……」
トモヒロの方を見ると、木に寄りかかって呑気に昼寝をしていた。
通りで静かだったはずだ。
あいつが要なのに……あの姿を見るとちょっと不安になって来たな。
「そ、そう……わたし達でもぉ作れるんだぁ……」
「でしたら、わたくしはお嬢様の提案に賛成です。この状況で冬を越せるとは到底思えませんし……」
ケイトは賛成してくれると思った。
「そうねぇ…………正直、このままだと助からない思いしかないわぁ。うん、わたしもアンちゃんに賛成ぇ」
うんうん。
「このままやと助からん可能性が高いんやね? せやったら、ウチも助かる可能性の高い方にかけたい!」
おお、良かった。
みんな賛同してくれた。
「力を合わせて、みんなでこの島を脱出するで!!」
………………ん?
今、みんなって……言った?
「うん! みんなでぇ頑張りましょう!」
……はいっ!?
もしかして、全員が船に乗って島から脱出するって思っちゃってる!?
それは違う! 早く誤解を解かないと!
「いや、船に乗るのは私ひと……」
「お嬢様、さっそく作業に移りましょう! 1日でも早く皆様と共に助かる為に!」
ケイトが両手で俺の右手を掴んだ。
こんな感情的に熱くなっているケイトは初めて見たんですけど。
「……あっ……うん……そうね……」
い、言えない。
この雰囲気の中、船に乗るのは自分1人だとは到底言えない。
「「「……」」」
そして、3人が黙って俺の方をじっと見ている。
鶴のひとこえを待っている感じだ。
「えと……頑張りま……しょう……?」
「「「お~!!」」」
3人は右腕をあげながら勢いよく立ち上がった。
もはや軌道修正は不可能、こうなったら全員でこの無人島から脱出するしかない。
俺達は船作りと必要な物の準備に取り掛かかるのだった。
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