折れたタチアオイが目指すのは

うり北 うりこ

第1話


 塾へと向かう道。どこの誰の家かも知らない庭の鮮やかな赤のタチアオイ。

 そのなかの一本がぽてり、と茎の半ばから折れて倒れているのに思わず足を止めた。


 他のタチアオイは、真っ直ぐ空に向かって伸びていくのに、たった一つ、そのタチアオイだけが横たわっている。

 同じ花なのに異質な存在。排除されてしまうであろう花。


 あれは、私だ。


 漠然とそう思った。みんなが受験に向かって勉強をしているなか、もう無理だと諦めてしまった。


 頑張っている周りの子達を同じ場所にいて、見上げているだけ。

 起き上がる気もなく、受験という炎に焼かれている。


 同じ花だからその場にはいられるが、いずれは脱落者の印を押されるであろう。

 親には落胆され、そうなると分かっていても私は私をもっと嫌いになるだろう。


 みんなと同じ列に並び、いくつかある別れ道のなかで、列ごとに進んでいく。そこからはみ出してしまえば、異端者とされ世間から冷たい目でみられる。

 それが私の末路だ。



「過去の成功例から、同じような人間を作ろうとしているとしか思えない。コントロールしやすい、使い勝手の良い人間をね」


 世間をそう言って鼻で笑った友人は、高校を中退した。そして、私との縁はそこで切れた。

 彼女は今、どうしているのだろうか。自由なのだろうか。それとも、その自由がこの世の中では不自由なのだろうか。



 私たちは社会に出た時に大人たちから都合の良い、コントロールしやすい人間を目指しているのかもしれない。

 だけど、はみ出す勇気もない。気力もない。

 それなのに、私は直にはみ出すだろう。あのタチアオイのように。



 目指す場所へと伸びていく他の子を見上げ、私のように落ちて、倒れてしまった子を見て安堵する。

 所詮、私はその程度の人間なのだ。



 ふっと、前を見れば列をはみ出した友人がいた。髪をローズピンクに染め、背筋を伸ばして堂々と歩いている。

 その姿が眩しくて、私は脇道へとそれた。見つからないように。


 自分で決めた道だからだろうか、あんなに堂々としているのは。

 列からはみ出してもいいのだろうか。

 私にもできるだろうか。


 突如、湧き出た疑問。それは私の何にもやる気がでない気持ちを、ほんのちょっと前へと向けてくれた。


 私は衝動を押さえることなく、塾へと向かうのを止め、かつての友人を追いかけた。

 何かが変わる。そんな予感とともに──。





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