第8話 まだジジルです

「攻撃魔法師と補助魔法師を分ける基準は得意か不得意かによる。お前の村には魔法師がいなかったのなら知らないのも仕方が無いが、多くの魔法師は力量に差はあれ何某かの攻撃魔法や補助魔法の両方が使える者が多くいる」

 

 これ程の驚きが未だかつてあったでしょうか?魔王が生まれて千数百年、人類は当初攻撃魔法と補助魔法の使い手はハッキリと別れていました。なのに今は違うと……

 

「そんなことありえない!」

 

 驚いた気持ちを思わずぶち撒けてしまいました。だってそうでしょう?攻撃魔法も補助魔法も使えるなんてそんな……

 

「これはここ百年位の話らしいが、儂の曾祖父ひいじい様の時代には使えていなかった。だがその後の時代にはチラホラいたようで年々増えている」

 

 私はグラッと傾く体を地面に手をつきなんとか自分の腕で支えました。にわかには信じられないこの話しをどうにか飲み込もうと自分を落ち着かせていました。

 

「とは言っても儂がまともに使える補助魔法は身体強化のみ。これはそこそこ使えるが他はまるで駄目だ。他の者達もちょっとだけ身体強化とか、ちょっとだけ火魔法、竈門の火種に使えるだけとかその程度だ」

 

 ……それって主とする魔法以外は使い手としては三流以下って事ですか?なるほど、だったら安心……ってそんな訳ないです。全く使えないはずの魔法が使えるようになっているということは、いずれどちらも同じ様に使えるようになるかも知れないということではないですか。

 人類が進化している?

 いやそんな馬鹿な……でも実際両方の魔法を使える者が大勢いる。私は補助魔法しかつかえないのに。そりゃ分身を作る時に攻撃魔法と補助魔法を分けたのだから仕方が無いというか当たり前というか。でも私が人よりも劣っているのか、という気持ちが湧き出てくるのは何故なんでしょうか?魔王なのに。

 

「待たせたかな、飯だぞ」

 

 私がまだ受けたショックから立ち直れないでいる所へエアハルトが帰ってきました。彼はただ待っていただけの私達の前にパンと串肉をおいてくれました。

 

「これっぽっちか」

 

 ネーポムクが文句を言いながらも素早く串肉を取りました。

 

「仕方が無いだろ、俺も金がないんだ」

 

 酷い言われように笑いながら言い返しています。

 流石、勇者、候補……

 

「どうしたロータル、食べないのか?腹空いてるだろ」

 

 私が食事に手を付けようとしないせいかエアハルトが変な顔して見てきます。これは、心配してくれているのでしょうか?

 

「う、うん。食べるよ、ありがとう」

 

 私は食事なんてしなくったって死んだりしませんけどロータルの体は違います。ガリガリで今にも死にそうだから食べなくてはいけません。

 

「気にするな、こいつは自分が補助魔法しか使えないことにショックを受けとるだけだ」

「えぇっ!昼間はあんなに補助魔法のことを力説していたのに?」

「補助魔法が凄い事に変わりはないさ、だけどまさか両方使える人がいたなんて……」

 

 どうせなら私も使えた方が良かったです。

 エアハルトはうーんと何か思い返すかのように唸りました。

 

「俺がこれまで関わった魔法師も半分くらいは両方使えてたな。でもパーティで戦う時は結構キッチリと分かれてたぞ。両方を使うってことはそれだけ魔力を多く消費してしまうってことだからってキツい言ってた」

 

 なるほど、いやでも私は魔力が足りなくなる心配なんてほぼありませんから。魔王なので。

 

「食わんなら寄越せ」

 

 ネーポムクが私の串肉に伸ばしてきた手をすっと避けました。あげるわけ無いでしょう。そのままパクっと食いついてモグモグと噛み締めているとタレで焼かれた芳ばしい肉の旨味が口いっぱいに広がりました。

 

「美味い……」

 

 よく噛んで堪能し飲み込むと直ぐに二切れめを素早く口に含みました。やっぱり人類の食べ物は美味しいです。

 何故だかエアハルトとネーポムクが顔を見合わせて笑っていますが何も言って来ないので大丈夫でしょう。こっちはそれどころじゃありません。どうにかして攻撃魔法を覚えることが出来ないでしょうか?



 お腹いっぱいという訳にはいきませんでしたが食事が終わり眠ることになりました。

 広場では町の中ですが焚き火をして暖を取る事が許されていて、テントのない私達はそれを囲むように横になりました。ここでは魔物に襲われる心配はありませんから見張りも必要ありません。

 ロータルの体は体力が無く一人での旅の途中では何度も回復魔法をかけていましたが、今はネーポムクやエアハルトが傍にいるのでそう簡単には使えません。魔法を使うとしばらく痕跡が残り優秀な人達にはそれを察知する能力がありますから使用すれば私だと気づかれる可能性があります。ネーポムクは間違い無く気づくでしょう。

 つまり今の私は本気の疲労困憊中。ですが考えなくてはいけないことが山積みで、強烈な睡魔に引き込まれるのに必死に抵抗していました。


 魔法師が変わってきている。

 もしかしたらこれが魔王が人類に倒される原因かも知れません。

 魔王が人類に初めて倒された時はただ油断してしまったせいだと思っていました。現に次の数回の対戦は余裕勝ちだったんです。ですがまた倒された。

 これまで魔王は人類に五回倒されていますが、復活してから倒されるまでのスパンは段々と短くなり、魔王の復活までの時間は反対に長くなっています。なんだかコツを掴まれた感じがします。

 もしかしたらいつの日か完全に跡形もなく復活する為の魔力も根こそぎ消滅させられる日が来るのかも知れません。

 いや、まさか。まさかですよね、ちょっと弱気になっているのかも知れません。人として行動して知らない環境に順応しきれず戸惑っていて冷静な判断が出来ていないのでしょう。きっとそうです。今夜はもう何も考えずに休むことにしましょう。それがいい。




「いい加減起きろ。狩りに行くぞ」


 コンと背中を小突かれて意識が浮上しました。

 何とか片目を開けて見れば辺りはまだ薄暗く、他に動いている人影も見当たりません。


「ネーポムク?まだ早いよ」


 再び目を閉じて眠ろうとする私にもう一度、今度はちょっと強めに背中を蹴られました。


「起きないならもう魔法を教えん。早く森に出て狩りをせねば飯にありつけんぞ!」


 ムカつく言い方だがここは我慢すべきなのでしょう。なにせ教えてもらう身ですから出来るだけ従順な方がいい。


「もぅ〜、わかったよ。森へいけばいいんだろ。エアハルトはどうする?」


 ネーポムクの声で起きてしまったエアハルトがポリポリと体を掻きながら寝ぼけ眼で俺も行くと呟いた。どうやら川で体を洗いたいらしくのそのそと動き出しました。

 それから三人で昨夜残しておいた硬いパンを分け合い白湯で流し込みました。これだけじゃ確かに腹が減るので森で何か摑まえたら直ぐに捌いてやろうと決心し門へ向かいました。


 門前には荷馬車や、冒険者らしき数人が開門の時間を待っていました。ネーポムクよりも張切っている人がいるなんて、皆さんよっぽどお腹が減っているんですね。そうエアハルトに話すと楽しそうに笑われました。


「こんな時間から町を出る奴らは大体が商売人だ。ここから次の町まで向う道中に絶対に明るい内に越えておきたい峠があるのだ。そこは魔物がよく出没するところでな。そこさえ越えれば人の往来も多い比較的安全な地域に出るし少し先には川もあるから野宿にも最適なんだ」


 ネーポムクの説明を聞いていると開門を知らせる声がし、皆それぞれ動き出した。門まで来ると見覚えのある男がいた。カルロだ。


「おぉ、昨日の。おはよう、丁度良かった、今日の内にギルドに来てくれ。あの男の調べが済んだから」

「おはよう、そうか。思ったより早かったな。狩りを終えたら帰りによるよ、ところでここらじゃ何が狩れる?」


 エアハルトがカルロから狩り場と獲物、そして川の場所を聞いて町を出ました。なるほど、情報収集は大事ですよね。





 

 

 

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