悪役貴族に転生した元ヒーロー博士は異世界でもヒーローを生み出したい!~乙女ゲー?破滅エンド?ヒーローの力でまとめてぶっ倒す!!

ヒサギツキ(楸月)

ヴァルハラストーリー

第1話 悪役貴族に転生しました

 誰も寄り付かない森の奥地にある山小屋にて、椅子に座り、優雅に紅茶を嗜む紫髪の少年がいた。

 傍らには灰色の髪がきれいな獣人の女の子が控えていて、僕は彼女に淹れてもらった紅茶を飲みながら、物思いにふける。


「もう十年、か……時が立つのは早いな」


 僕が前世で死んで、この剣と魔法の異世界に転生してから、もう十年の月日がたつ。

 科学にたずさわるものとして、異世界や転生など、非科学的なことは否定したかったが、聞きなれない言語にケモ耳を生やした人、極めつけは空想上の生物、モンスターがそこかしこに闊歩している状況をこの目で見てしまっては信じざるを得ない。


 この世界に生を受け、一番最初に見た光景は、僕を抱えた状態で見下ろす性格がきつそうな紫髪の女、僕たちを冷めた目で見守る人相の悪いハゲ親父の姿――のちにこの二人が僕のこの世界での親だと知る。


 この家、バイパー家はいわゆる悪党の一族だ。

 やった犯罪数知れず。

 殺人、誘拐、横領、窃盗、奴隷売買……数えだしたらきりがない。


 僕はその長男、【ザニア・バイパー】として生を受け、そして――、


「八歳の時にメルクと家を出たんだよな……」


「そうでございますね。――あの夜は今でも忘れません」


 うっとりとした表情で昔を思い出しているメルク。

 僕がジーと見つめると恥ずかしさからか、着ているメイド服にシワがないか確認したり、髪を執拗にかきあげたりと忙しくしている。

 美人は何しても絵になるなぁと思いながら、外を見て再び昔を思い出す。


 僕が五歳になったある日、親父が水晶のような形をした不思議な道具を持ってきた。


 これは通称【魔道具】と呼ばれていて、魔力で動く道具らしい。

 魔力は、この世界特有のエネルギー物質で、人間が自らの意思によって操作可能。しかも大気に無数に存在しているという、エネルギー問題を一気に解決できる夢のような物質だ。


 魔力を操作して魔道具に流せと言われたので、事前に教えられていた魔力操作を行った


 その結果は――魔法適正なし。


 魔法とは魔力を体内に取り込んで変換し、現象として体外に顕現させることを言う。

 今回この魔道具によって、その魔法を行使する才能がないと判断された。


 この世界では魔法を使えることこそがステータスだ。

 つまり魔法適性がないとはこの世界において、無価値の人間と言われるも同然だった。

 あの日に見た、使用人や親父たちの冷たい目は、今でも忘れることができない……


 魔法が使えないと分かったその日の夜、たまたま通った親父の部屋から聞こえた会話で、僕はこの家からの逃走を決意した。


 ザニア、売る、十歳、その単語しか聞き取れなかったが、少なくとも僕は十歳になると、どこかへ売られるということだけはわかった。

 悪党がただ売るだけとは思えないし、よくて奴隷、悪ければ獣の餌だ。


 せっかく生き返ったこの命、犬死になんてしたくない!


 だから僕は、逃走の準備を急ピッチで整え。

 十歳になる前に、僕の専属メイドであるネズミの獣人。

 メルクと共にバイパー家から逃げ出した。


「逃げ続けた先で、たどり着いたのがこんな山小屋だったけど、住めば都だな」


「自然豊かなので、食べ物には困りませんでしたね」


 外から見れば、簡素な作りの小屋だが、中はこの二年で大幅に僕が改築したおかげで現代建築と変わらない設備が整っている。

 どうやら僕には魔道具作りの才能があったらしく、前世の科学知識と魔力を駆使して、この世界でも水道やコンロなどを魔道具として再現して見せた。


 生活は順調、町から遠く、不便なこともあるが至って普通の暮らしは送れている。

 送れてはいる、が……、


「研究は停滞気味……さて、どうしたものかな」


「――なるほど、だから過去の資料を見て、物思いにふけっていらしたんですね?」


 ティーカップの傍らには、今までの過去の研究資料がずらりと机に並べられている。

 その中でも特に多く書かれているのは――【魔道具】についてだ。


 魔道具作りの才能があったというのもあるが。

 これを調べれば調べるほど、元の世界で僕が作ったものの再現が……

 いや、それ以上の物を作り出せると確信している。


 もし、あれを再現できれば、僕はこの世界であっても……、


「ヒーローを生み出せる!」


「主様はそればかりですね……」


「何を言う! ヒーローに関することは僕にとって最優先事項だ!!」


 メルクに呆れられるが、これだけは生まれ変わったとしてもやめられなかった。

 前世でも何十人という戦士たちを生み出してきた僕だが、その探求に終わりはない。


 なぜならッ! 敵は強大になり続けるッ!!


 既存の変身アイテムでは通じなくなる日もあった、負けて撤退する日も少ないはない。

 だが、その度に僕が何度もパワーアップアイテムを作成し、ヒーローを勝利に導いてきた。

 そんな誰かを守る彼らを支えることこそが! 僕の最大の喜び!!

 ……だったが、


「――まさか、この世界にヒーローという概念がないとは……」


「似たようなのですと勇者ならいますが、主の言うヒーロー? というものは聞くまで存じ上げませんでした」


 ため息を深くつき、机に突っ伏す。


 この世界にヒーローがいないなら自分の手で作り出せばいい!

 ――そこまで考えたのはよかったが。


 肝心のヒーロー変身用の【魔道具】を作り出すための核となる素材が見つからない。


 ここら一帯のモンスターから出る素材では僕の求めるヒーローほどの強さを発揮できない、よくて現世での戦闘員一人を倒すのが関の山だろう。


 どこかにないものか……

 この現状を、停滞を終わらせる、起爆剤のような出来事は……


 ――そう考えていた時だった。


「み、み、見つけましたわぁぁぁ!!!!」


 小屋の外から、女の声が小屋の中まで響く。

 ドタドタと小屋のドアの前まで音が近づいてきて、突如ピタリと止まった。

 そして次の瞬間、ドアを蹴破って女の子がズカズカと入ってくる。


 金髪をたなびかせ、強気な赤い瞳がこちらを睨む。

 僕と同い年くらいの山奥には不向きだろうドレスを見にまとった令嬢が僕の前に仁王立ちする。


「どうしてこんな森の中にいますのッ! ザニア・バイパー!!」


「えっと……誰?」


 僕の顔と名前を知っているってことは……

 まさか!バイパー家の追ってか!?


「メルク!」


「了解しました、主様」


 メルクは令嬢を壁に押し付け、素早く手元のナイフを抜き、首にナイフを押し当てる。

 何も言わなくてもやってほしいことを分かってくれる優秀なメイドで助かるよ。

 令嬢は視線をさげ、首元に当てられているのがナイフだと認識すると、先程までの強気な表情は一気に青ざめた。


「ひっ!? こ、殺さないで……」


「誰の差し金だ! 目的は、他に仲間は!!」


「わ、わたくし、一人ですわ! も、目的は……」


 ちらりと僕の方を見る。

 やはり僕が目的か……だがたった一人、しかもこんな目立つ奴が僕を殺しに来た?

 ――ありえない、なら何の目的で……、


「あ、あなたに頼みがあってきましたわ!」


「――頼み?」


 びくびくとナイフに怯えながら令嬢はいう。

 このままでは、恐怖でうまくしゃべれないと思い。

 僕はメルクに目くばせをして、ナイフを下げさせる。


 ナイフが下りたことにより冷静さを取り戻し、令嬢は一度呼吸を整える。先程までの強気な瞳が戻り、何かを決意したように意を決して話し始める。


「協力してほしいんですの、わたくしと同じ――転生者のあなたに!」


「僕と同じ転生者? 君が?」


 これは驚いたな、僕意外にも転生者がいたとは……

 僕の反応で転生者だと確信し、頼みがスムーズに進むと思ったのか、ぱぁと明るくなる。


「そう!あなたも気づいている通り、【ヴァルハラ・ストーリー】によく似たこの世界を生き抜くために協力を……」


「――ちょっと待て、ヴァル……なに? 一体何の話をしてるんだ?」


「何って、ゲームですわ! アニメにもなりましたし、わたくしの前世での――」


「アニメ? ゲーム? アルゴンやゲノムの言い間違い……ってわけでもなさそうだね?」


 僕の発言に令嬢は後ろにふらりとよろめく、どうやら期待した結果とは違ったらしい。僕と令嬢の話が嚙み合わず、令嬢に焦りが見える。


「嘘……な、なんでですの! わたくしと同じ世界から来たんじゃないんですの!?」


「君が話した言語には聞き覚えがない、こちらとしても本当にそちらも転生者か疑わしいけどね?」


 令嬢は頭を抱え、うずくまってしまう。

 そしてか細く僕にこう言った。


「――あなた、一体何者ですの……」


 僕が何者か……多分聞きたいのは前世での僕の事についてという意味だろう。

 ここは博士らしく、かっこよく答えるのが礼儀だろう!


 メルクが何も言わなくても準備してくれた白衣を身にまとい、かっこいいポーズをとる。


「僕の前世での名前は、【葉加瀬 政義はかせ まさよし】! ヒーローの変身アイテムを作っていたものだッ!!」


 決まった、完璧だと自画自賛する。

 僕の行動に、ポカンと口を開ける令嬢。

 そして次に発した言葉は――、


「――からかってますの?」


「十分真面目に返答しただろうが!?」


 ――これが悪役令嬢、【バージニア・レイブン】との出会いだった。

 そしてここから、僕のヒーロー研究の発展、もとい物語は大きく動くことになる。

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