3-朝 雨は嫌だよ


 夜中から大雨だった。

 なんとなく気がたかぶるのは俺の生存本能が危機を叫ぶからか。ま、この部屋にいれば雨に濡れることなんてないんだけどさ。

 うろうろしていた俺は、台所の異変に気づいた。毎朝うなりを上げるはずの炊飯器が静かだ。またしくじったな、マナ。


「み」


 いつもマナがピッとしている辺りを踏んでみる。何度もやるうちに、体重をかけたらブーンといい出した。これでいいのか?


「みゃ」


 ふう。まったく世話の焼ける……。


 マナが起きる時間になっても、ご飯はまだ炊けていなかった。首をかしげている。


「時計、ずれてたのかな? 炊けてきてるし間に合うけど……」

「みゅーう」


 おまえがポカしたんだよ、というのは通じていないんだろうな。

 マナは先に俺のカリカリを出す。そして自分の髪の毛を妙に気にしていた。


「湿気がひどいね。この雨じゃしょうがないけど、ふくらむなあ」


 そう言って洗面所でゴウゴウとするのは、ドライヤーという物だ。俺の風呂上がりにもやられるが、うるさくて俺はあまり好きではない。けっしてビビってるわけではない。


 そのうちに炊けたご飯を食べ、お弁当にし、マナは出かける時間だ。


「レインブーツ、久しぶりに出そ」


 大雨用の靴、だそうだ。人間はめんどうだな。服とか靴とか。


「コタもはく? 長靴をはいた猫ー!」


 ぶら下げられて靴に足が触れたので、俺は暴れた。


「ふしゅッ」

「え、怒るの。ごめんてば」


 普通に怒るわ。ぷい、と部屋に引っ込む俺にマナは情けない声を出した。


「コタ、かわりに仕事行ってー。こんな雨、私だって行きたくないよ」

「にゃッ」

「はいはい。じゃあ行ってくるね」


 マナは渋々出て行った。

 無茶ぶりするなよ。濡れるなんて真っ平ごめんだ。


 だって、俺は猫だからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る