2-朝 行くのかよ


 おかしい。

 朝なのに目覚ましが鳴らない。

 マナは目覚ましを掛けそびれたんじゃないのか。この間ご飯が炊けなかったのを俺は忘れてない。あれと同じだったらどうする。


「うにゃ!」

「ぐえ」


 俺はとりあえずマナの首もとに乗っかった。一度起こしてみればわかる。


「なに……なに、コタぁ」

「みゃあ~う」

「寝かせてぇ。今日お休みなんだから……」


 なんだ、起きなくていい日か。じゃあ俺のカリカリを出してから寝直せ。


「にゃお」

「ご飯? そりゃそうか、あうう……」


 俺のしもべ・マナはずるずるとカリカリを出しにいった。ご苦労ご苦労。

 ご飯に食いつく俺の脇に座り込み、マナはニヘラと笑う。敬愛をこめて俺の背中をなでるのは許すが――おい、腹はやめろ!


「ふしゃッ!」

「うえーん、コタが怒ったあ」


 食事中に腹をくすぐる方が悪い。まったく行儀の悪い奴だ。皿からカリカリがこぼれたじゃないか。

 きちんと拾って食べる俺。今後は飼い主のしつけも頑張らないといけないか。


「あ、洗濯回しとこ」


 目が覚めてきたのかマナは立ち上がった。

 家にいる日にやること、いろいろあるよな。掃除とか、買い出しとか。それに俺と遊ぶのもマナの役目だし。風呂に入れるのはやらなくていいんだけどさ。


「今日は少し料理しようかな。作り置きするの。冷食ばっかだと飽きるし」


 おお、意識高いじゃないか。


「お弁当のぞかれて、手作りがプチトマトだけだと恥ずかしいんだよね」


 それ作ってないだろ。誰がのぞくんだ、マナの弁当なんて。


「昨日アライさんがチラ見して鼻で笑ってきてさ、超むかついた」


 ……女同士。

 そこでスマホが鳴った。マナが嫌そうな顔になる。じゃあ出なきゃいいのに、ちゃんと手に取った。


「はい、ハラダです。コグレ君? どうかしました――病欠? 熱? アライさんとワタリさん――あー、二人同時だとちょっと怖いね。皆さん体調気をつけて――うん、とにかく今日はヘルプ行きます」


 電話を切ったマナは仕事モードに切り替わってる。なんだよ、出勤かよ。

 だけど俺を見おろして手を伸ばしてきた。吸われる。


「ああああー! やだやだやだ、コタといるぅー!」


 俺に埋まりながら叫ぶな! 震えるわ!

 だけど俺はがまんしてやった。スリスリとサービスもする。マナもつらいところなんだろうから。


 いつにも増してスーンとなって出ていくマナ。まあ、頑張れ。俺は気楽に眠って待ってるし、気にするなよ。


 だって、俺は猫だからな。


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