せっかく異世界に転移したのに魔女として迫害されたので、自分だけの楽園を作りたいと思います

@teki-rasyu

第0話 美しい少女、人生の幕を閉じる

 人生で初めて人に殺意を覚えた。


「はぁ…はぁ…はぁ……いったー」


 森の中、1人の美しい少女が美しい汗を流して、ひと時の休息を取っている。

 だが、痛めた腕を押さえ、美しい容姿とは裏腹に汚い言葉で文句を垂れる。

 うーん……客観的に見て、今の私は美しくないか。


 何故、自分がこんな目に遭わないといけないのか沸々と怒りが湧いてくる。

 ここに来てから何もかもがおかしくなった。


 近くの村に訪れて、いろいろな話を聞こうとしただけなのに、石を投げられたのだ。

 まるで異物を排除する生物の本能、親の仇を討とうとする子供のようだった。


 何はともあれ、やるべきことは1つ。

 スマホを取り出して、内カメラを起動する。

 うん、顔に汚れはついてない。傷もない。

 顔に石が当たらなかったのが幸いだ。

 この美しい顔に傷でもつけば、一ヶ月は落ち込める自信があった。


 傷が出来ていないことを確認できたから、汗で崩れた髪を整えてスマホをしまう。

 美しい私はこんな時でも身だしなみを整えるのだ。


 しかし、こんなことをしてる場合ではないのだ。

 周囲に人がいないことを確認してホッと胸を撫で下ろす。

 追ってが来ていない今、人のいない遠くの場所へ逃げないといけない。

 草むらを掻き分け、出口のない迷路に足を踏み入れる。


 ここがどこなのかは知らない。

 だけど、確実に言えることがあった。

 ここは『異世界』なのだと。






─────────────────────




 容姿端麗、眉目秀麗、才色兼備。

 そんな言葉さえ生ぬるい美しい少女がいた。

 名は神楽舞桜かぐらまお

 この世界の主人公にして、世界の中心と言っても過言ではない存在。


「あ、神楽ちゃん、また明日!」

「はい、また明日」


 ……流石に過剰評価すぎたか。

 自分が美しいことには変わりないが、世界の中心にまでは至ってない。

 でも、人望があるのは自覚している。

 現に見ず知らずの人から挨拶をしてくれたのが証拠だ。

 綺麗な顔で生まれて良かったと常々思う。親に感謝しないと。


 靴を履き替えようと急いで昇降口に向かう。

 今日は日課の地下アイドル鑑賞をしなければならないのだ。


 美しい私は可愛い女の子も大好き。

 自分とベクトルが違う女の子は目の保養にもなるし、口説けば可愛い反応を示す。

 ふふ、今日はあの子に会いに行こうかな。

 推しの赤面する顔を思い浮かべるだけで、足に風船がついたように軽くなる。


「か、神楽様」

「ん?」


 校門から出る直前、何者かに呼び止められた。

 振り返ると、小さな少女がいた。まだ幼さが残る童顔と、肩まで伸びた甘栗のような茶髪。

 自分と同じリボンをしていることから同級生のようだ。


「どうしたの?」

「こ……これを受け取ってください!それでは!」


 名の知らない少女は手紙を押し付け、どこかに行ってしまう。

 様付けをしていることから、私のファンの1人だろう。


 渡された手紙を眺める。

 経験則で言うなら、この手紙は連絡先か愛文のどっちか。

 紙の大きさからして今回は……連絡先。


「……フッ、思った通り」


 速攻スマホを取り出しRINE IDを入力する。

 そして、御礼の連絡と後日遊ぶ約束を取り付ける。

 今日だけで3人目。


 まだ1ヶ月しか経ってないけど思う。この女子校を選んでよかったと。

 制服も可愛いし、何より顔面偏差値が高く、自分好みの女の子が多く在籍している。

 それだけで楽園だ。

 しかも、追い討ちと言わんばかりに、スキンシップも過剰だ。

 そのせいで、クラスの半数には手を出して、全員とセフレになってしまった。

 私は悪くない。私を誘った彼女達が悪いのだ。


「地下アイドルに会った後は、さきちゃんにお呼ばれされていて、後は……あ!」


 歩みを止め、最近出来た、もう1つの日課を思い出す。

 私としたことがスッカリ失念していた。


 踵を返し、急いで校門前まで戻る。

 学校の中に要はない。だけど、地下アイドル以上に大事な日課があったのだ。

 いつも通り近くの電柱に身を隠す。

 校門前で待てば、クラスメイトからナンパと言う名のスキンシップをされるからだ。

 気配を殺し、ターゲットが来るのを待つ。


 ……来た。


 時間通りにその子はやって来る。

 スラッと伸び手足に美しい顔立ち。星よりも綺麗な金髪を靡かせ、纏う空気は王女と見紛うほど花を咲かせる。

 同じ1年生とは思えない気品さと、オーラがあった。


 彼女の名前はアリス・フォルテ

 何やら王族の娘なんだとか。

 厳密に言えば、彼女の血筋を辿れば、王族に行きつくだけで、彼女の父は王ではない。

 でも、それは些細なことだった。

 彼女気品さの前には、どんな戯言も意味を成さないだろう。


 まあ、美しさだけだったら私も負けていない自負はある。

 気品さは……まあまあ有るかな?

 つまり何が言いたいのか。

 そんな美しい女の子がいれば、世の中の男や女は黙って見ていないってことだ。

 あんなに美しいのに付き人は1人もいない。

 危険な目に遭うかもしれない。

 だったらどうするか…。


 【彼女の帰り道を護衛する】


 それが私のもう1つの日課。

 彼女に気づかれぬように尾行する様はまさにス̶ト̶ー̶カ̶ー̶SPのようだ。

 不審な人物と出会っても、すぐに対処出来るよう警戒心を強めた。


 しかし、彼女が曲がり角を曲がったところで異変に気づく。


 いつもと帰り道が違う。


 気づけば知らない住宅街にいた。

 周囲を見渡しても、見慣れない街並みで迷子になった子供の気分だ。

 いつもの帰り道じゃないことに、ただならぬ不穏な空気を感じた。

 明らかに人気のない道に入ったことで、私は慌てて走り出す。

 ただの気まぐれで済まされるが、私はそうは思わない。


 何か嫌な予感がする。


 彼女の後を追って曲がり角を曲がった。

 変なトラブルに遭ったんじゃないかって不安で頭がいっぱいだった。

 でも、その不安は杞憂に終わる。

 彼女は曲がったすぐの場所で立ち尽くしていたからだ。


 ホッ……良かった。変な人に絡まれなくて。

 でも、ここに何の用が…。


 その時だった。

 彼女が勢いよく振り返り、私の胸に飛び込んで来る。

 思いがけない行動に一瞬思考が止まったが、段々と高揚感で心臓が音を鳴らす。


 おや?おやおやおや?これはもしかして……OKってことかな?

 野外プレイも嫌いじゃないけど、少しリスクがあるからあまり好んでやりたくないのだけどね。

 だから、一旦近くにあるホテルに入るように促すか。


 だが、彼女を抱きしめようとしたところで、違和感に気付いた。

 お腹辺りに温かいものが流れて来たのだ。

 何だろうと手を当てたら、ビチャッと手に液体がつく感覚があった。

 えっ?と頭で理解するより先に、体が力なく倒れた。


 一体……何が?


 ジンジンとお腹に痛みを感じ、手で触れる。

 おへそとは違う、大きな穴があるのがわかる。

 地面に滴る血の池を見て、嫌でも理解する。刃物で刺されたのだと。

 何が起きたのかは理解出来たが、何故そうなったのかわからない。


「可愛いわよ……舞桜」


 えぇ……どういうこと?

 私と彼女は初対面で、今初めて……面と向かって?話して?いるはずだ。


 薄れゆく意識の中、最後に聞こえた言葉は…。


「やっと……やっと私の物に出来た。私の……私の可愛い舞桜」


 あぁ……この人、私よりヤベー人だ。


 私自身、少しはヤバい奴って自覚はあった。

 女の子を口説いて、ヤルことやって、確実に関係を築く。

 私がして来たことは、まだ若気の至りで済まされる。

 しかし、これはその比ではない。

 死にゆく私の体は、この王女様の皮を被った狼にどう扱われるのだろうか?

 高揚した彼女の顔を見るに、碌でもない使われ方をされるのだろう。

 でも、この子になら、何をされてもご褒美だと思うことにする。


 美しい私は美しい子に殺される運命だと受け入れる。

 それが1番の幸福なんだと願うよ。

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