好きだった人:砂
仲仁へび(旧:離久)
第1話
一年前まで好きだった。
陸上部にいた先輩。運動場で、一生懸命に走っているあの人。
けれど、今はもう好きじゃない。
恋が冷める音は、どんな音かと聞かれたら、それは音もなく崩れていく砂の音だと思った。
実際の音はないけれど、かすかにサラサラと流れ落ちる音が、聞こえてしまう。
先輩の諦めた声が聞こえてきた時、それが恋が冷める時だったと思う。
「馬鹿だったんだ」
彼は言う。
「馬鹿な夢を見ていたんだ」
そして否定する。
「俺のやっていた事は無駄だったんだって分かった」
私は悲しくなった。
あんなにもがんばっていたのに。
毎日夕暮れまで走りこんでいたのに。
他ならない先輩がそれを「馬鹿だ」と否定していて、悲しくなった。
一年前、事故で引退した先輩はーー陸上部だった先輩はすっかり変わってしまった。
もう走る姿を見ることはない。
前だけを見つめていたまっすぐな目も。
頑張り続けていた情熱もどこかに消え去ってしまった。
好きだった人は、もうどこにもいなくなってしまったのだ。
先輩に憧れて、陸上を始めた私は、いつももう存在しない人の背中を追いかけながら運動場を走っている。
『この乾いた土のトラックが、この恋のようにサラサラと今すぐ崩れ落ちてしまえばいいのに』
って、そう思いながら。
好きだった人:砂 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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