【朗読あり】隣の空き部屋

武藤勇城

↓本編はこちらです↓

隣の空き部屋 1

 今の住所に引っ越してから七年が経ちます。


 今まで、三度の引っ越しを経験しました。生まれ育った実家を出たのが二十歳過ぎ。追い出されるように家を出て、仕事場も兼ねたマンションへ。ここが人生で一番高い物件でした。仕事場、というか店舗も兼ねており、相応の広さが必要でしたので、当然と言えば当然でしょう。鉄筋コンクリート造りで、一階が店舗用、二階と三階は居住用になっていました。結婚もして、公私ともに充実していたような気がします。


 二度目の引っ越しは、その店舗を引き払った時です。子供が出来ても平気なように、広い部屋を探しました。予算を少しオーバーしていましたが、妻のたっての希望で三LDKの物件へ。五階建てだったか、六階建てだったか。引っ越しに便利な一階を選びましたので、何階まであったのか覚えていません。妻と二人で暮らすには手広すぎて、やや持て余し気味。三部屋のうち一つはほぼ使わず、物置になっていました。近くに食品や日用品を扱うスーパーが三店舗あり、生活する上では大変便利な場所でした。


 三度目の引っ越しで今の住所へ。妻と離婚して独り身になったので、無駄に広くて高い部屋を引き払って、自分の生活空間だけ、二部屋の安アパートへ。木造で、築年数もそれなりに経過しています。二部屋共に畳張りの和式の造りです。以前の場所の半分以下の家賃になり、生活するだけならグッと楽になりました。結婚って、思ったよりもずっと、ずっとお金が必要です。子供がいなくてもそうなのですから、もし子供が生まれていたら、滅茶苦茶大変だったろうと容易に想像出来ます。今は自分一人、本当に気楽なものです。

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