第30話 友達
――お風呂。
実家で引き篭もり生活してたときは、面倒で入らないこともあったが、こっちの世界に来てからは毎日入っている。
もちろん、『レムリア・ルーゼンシュタイン』という推しの体を不潔にするわけにはいかないというのもあるが、毎日入るのは、日本の快適お風呂文化に触れたせいで、やたらお風呂好きになったアオイさんにより離れに設置された、大浴場の快適さが大きい。
屋敷の者なら誰でも使用可能で、ラズリーだけじゃなくて、門番のレナスさんや調理場のリリーナさん達とも入ったりするので、なんだか、家族で銭湯に行った事を思い出してほっこりするのだ。
「……レムリアに近すぎるわ。離れなさい」
「お断りします。というか、アオイさんの方が近いんじゃないですか?」
……たまに例外はあるが。
「言っておくけど、今回の屋敷の損害、安くないわよ。給料が出るとか言っていたけど、貴女に払えるのかしら?」
「……何年かけても払います」
「あの、屋敷に魔法撃ち込んだのは私なので、うちのお金でなんとかしようかと思うんですけど」
「……貴女がそれでいいならいいわ。では、貴女のお小遣いは30年無しね」
「容赦なさすぎませんか!? ていうか、私ってこの屋敷の主ですよね!」
左にはエミル、右にはアオイさんという、両手に花状態なのに、なんだか全然嬉しくない。
というか、空気がピリピリしていて、心底居づらい。
「貴女に反省させる為でもあるわよ。私が障壁を張らなかったら、屋敷ごと崩壊していた可能性だってあるのだから。いい加減、裸見られたぐらいでで動揺する癖直しなさい」
「アオイさんは、間接キスぐらいで照れるくせ……大変申し訳ありませんでした。2度と言いませんので、直ちにそのベアクローをやめてください、頭グシャっていきそうです……」
「……やっぱり怪我してる」
無言のベアクローから解放され、頭を押さえている私に、エミルが話しかけてくる。
「怪我なんて大袈裟な……こんなのいつもの事だよ?」
「……やっぱりもっと、体を見せてください。どこか、怪我しているんじゃないですか?」
「え、あの、ちょっとエミ……ひゃう! さ、さすがにそれは……!」
「……警告するわ。今すぐ離れないと、その奇麗な顔を吹っ飛ばすわよ」
「……やれるものなら、やってみてください。私『たち』、レムリアが怪我したって聞いて、ちょっと怒ってますから」
エミルの背後に、人の形をした水の塊と、羽根の生えた妖精のような少女が現れる。
水の精霊ウィンディーネのスイドウさんと、風の精霊シルフのシルフちゃんだ。
ちなみに、なぜシルフちゃんだけ普通の名前かは、本当に分からない。
「……どうやら、勇者と言われて調子に乗っているようね。いいわ。その小賢しい精霊もまとめて、躾けてあげるわ」
「……調子に乗ってる? 違います。さっきも言ったように、私はちょっと、怒ってるだけです」
「怒ってる……? あの、エミル。そろそろ聞かせてくれない? 私が屋敷に魔法叩きつけた後も、体見せてくださいって言いながら、私の服を脱がせにきたわよね」
まあ、さすがにこれ以上公衆の面前で肌色晒すのは恥ずかしかったので、こうやってエミルと、護衛という事でアオイさんと一緒にお風呂に入っているわけだが。
「外で遊んで怪我してきた子の状態を見るのに、一番手っ取り早い方法ですから」
そういいながら、私の隅々まで体を見てくる。
正直言って、滅茶苦茶恥ずかしい。
「……やっぱり、怪我はないようですね。とりあえず、安心しました」
「安心……もしかして、私が怪我で療養中だから、心配してくれてたの?」
「……心配してくれてた?」
私の言葉を聞き、そのまま近づいてくるエミル……いや、近すぎ!
だから、『ヤミヒカ』世界のキャラは、なんでこう距離感がおかしいんだ。
「……レムリア」
「は、はい……はい!?」
エミルに抱き着かれる……これだけでもかなりの衝撃だが……
「……友達の心配をするなんて、当たり前じゃないですか」
「…………え?」
それ以上の衝撃が飛んできた。
「……どれだけ心配したと思ってるんですか。本当ならすぐにでもここに来るつもりでした。でも、無事だから、孤児院にも迷惑がかかるからと言われ、ずっと我慢していたんです」
「エミル……」
……ありがとう、エミル。
私、今とっても嬉しい。
心配してくれた事……そして、『友達』と呼んでくれた事。
本当なら、友達って本当!? 言質取ったよ! とか色々言うところなのだが、今はそんな気にもならない。
エミルの気持ちが嬉しくて、とても温かいから。
でも……今はそれより……
「レムリア……?」
「レムリア! ちょっと、しっかりなさい!」
……エミルの抱き着き、もう鯖折りと同レベルの殺人技だから、早く力の加減を覚えてほしいな。
「レムリアに怪我させるなんて、どういうつもり!?」
「ちょっと加減に失敗しただけです! それに、レムリアが危ない事に巻き込まれて怪我するのを防げなかった、アオイさんにそんな事言う資格はないです! やっぱりレムリアは、うちに連れ帰ります!」
「言っている事が無茶苦茶じゃない! それに、今怪我させてるのは貴女でしょ!」
「さっき、レムリアの頭潰そうとしたアオイさんに言われたくありません!」
……あ、私を孤児院に連れ帰るって、そういう意味だったのか。
(とりあえず、二人とも、もう少し仲良くしてほしいな。どっちも私の、本当に大切な人……ううん、友達だから……)
私は薄れゆく意識の中で、心の底から願っていた。
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一度は書いて見たかったお風呂回(*´▽`*)
ただ、ちょっと絡みが少なかったので、またどこかで書きたいですねー。
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