第28話 聖女で姉で賢聖姫
「……なるほど、なるほど。マオちゃんは、うちの弟のお師匠様してたってわけだ」
「あ、はい。ユーリさ……」
「……」
「う、うん! そうなんだ、ユーリ!! ですぞよ!」
「そうそう、いい感じだよマオちゃん」
……危なかった。
ユーリは、余所余所しいと過激なスキンシップをしてくる。
危うく、また甘噛みされ……
「……もう少しで、思いっきりこねくり回すところだったよ?」
「何を!? ていうか、どこを!?」
「お、知りたい? 教えてあげるから、とりま服を脱いでもらって……」
「このお茶美味しい! さすがユーリのおすすめだね!」
うん、深堀は危険だ。
そう思いながら、とにかく話題を変える為に、思いっきりお茶を飲む。
ちょっと熱いが、私とユーリは、なぜか対面ではなく、一つのソファーで隣同士になっているので、この話題のままだと、ユーリは確実に脱がしにくる。
そんなことさせるわけにはいかないので、とにかくお茶会の空気に戻すことが、今やらなければならないことだ!
(とはいっても、これからどうしたものか……)
一番の手は、隙を見つけて逃げ出すことだ。
おそらくだが、相手がユーリだろうと、視認することすら難しいアポカリプスによる最大速度なら逃げ切れる。
だが、最大速度はアポカリプスを複数使用するので、すぐ出せるわけではない。
かといって、最大速度でなければ、ユーリの魔法が飛んでくる可能性が高い。
ユーリは『賢聖姫』。
補助魔法も、治癒魔法も、攻撃魔法も使える大魔法使いなのだ。
(もしユーリが落雷系の魔法を使えたら、飛んだ瞬間に迎撃される。ユーリの手の内も分からないし、強行突破は危険。今は様子を見るしかないよね……)
「……逃げようとしてるっしょ?」
「うん。噴煙を起こせばなんとかならないかな~って……え?」
「みんなー。ここに魔王の力を使える子がいるから、全員でメチャクチャにしちゃおっか! 今日は大人の時間だぜぃ♪」
「嘘です嘘です! ユーリとのお茶会楽しいなー! もう帰りたくないかも!」
「そーそー。そーいう態度だったら、あたしも楽しくお茶会するだけだから♪」
うう……同時にふたつのこと考えられないせいで、何かが抜ける癖直さないと。
アオイさんにもボロクソ言われるときあるし。
「……さて、そろそろ本題いこっか」
お茶を飲んだあとにカップを置き、真面目な目になるユーリ。
「……う、うん」
……やっぱ魔王のこととか聞いてくるよね。
とりあえず、適当にはぐらかすためにも、話の主導権を握るべきだよね。
「えっと、何から話した方がいいかな……?」
「とりあえず、そのおっぱいの話しよっか。あと、触っていい?」
「はい、おっぱ……違いますよね! あと、お触り厳禁です!」
一応、私のじゃないんで!
「ちぇー。気が乗らないけど、とりまその魔王の力について話してみて? その力、魔王の力っしょ?」
……急に直球で来た。
うーん、とりあえず適当にはぐらかして……
「ちなみに、勇者と一緒に戦った人の末裔は、なーんとなくだけど、それが魔王の力って分かるんだよねー。まあそれ以前に、うちの屋敷の結界ぶち抜いた時点で、魔王の力確定だけど。だから、これが魔王の力とかありえないっしょー系は、通用しないかんね?」
……適当にはぐらかすのは無理。
となると、これは私の固有魔法で、魔王の力によく似た力らしいです、だからそう思ったのでは系で……
「あと、固有魔法説もやめといた方がいいよー? あたしが知らない固有魔法だったら、それ調べるために問答無用で王宮に直行―ってなっちゃうから」
……固有魔法説も無理、と。
あとは……
「……魔王の力です」
「素直でよろしい♪」
逃げ道なんてないじゃない!
「んー、じゃあマオちゃんに聞くけど、マオちゃんは魔王ってことでいい?」
「えーと、そうのような、違うような……」
「なるほど、魔王ではあるけど、今は魔王候補って感じか」
え、それだけでバレるの?
ていうか、察しが良すぎるというか……
「ということは、魔王の本命は、別の場所でいくつか感じる魔王の力っぽいかなー」
「……え?」
「別の意味なら思いっきり気になるし、なんならこのまま私の部屋に連れていきたいくらいだけど。ところでそろそろ我慢の限界だから、せめて悪戯していい?」
「真面目な話から、一気にふざけた会話しないでください! それより、魔王の力を別の場所でも感じるって本当ですか!?」
「ありゃ、それは知らなかったか。じゃあもう教えちゃうけど、こっちは魔王の力はいくつか感じてるんだよね。ぼんやりだし、場所とかも分からないけど、少なくとも今この瞬間、マオちゃんを含めて10個以上感じてる。まあただ、最近どんどん減っているから、本当に意味ふめーって感じだけど」
そう言いながら、ちょっと困った顔をするユーリ。
「魔王の力を別の場所で……」
『ヤミヒカ』では、魔王の力が複数あるというような話はなかった。
もしそれがあるとしたら、可能性はふたつ。
完全に『ヤミヒカ』とは違う世界になったか、もう一つは、私の知らないストーリールートに入っているということだ。
あとでアオイさんから聞いたが、ヴラドの目的も、私の知る『実は平和を望み、魔王の復活を止める為に人間側につく』とは少し違った。
人間と魔族の頂点となる存在として魔王の力を持つ人間を作り、絶対なる王として君臨させることで平和を目指す、その人間が魔王として覚醒した場合は勇者と人間と協力し、魔王を倒して今の平和を維持する。
平和という目的は同じだが、より深い理由が足されることとなった。
目の前の、ユーリのすっぴんの性格もたぶん同じだろう。
トールくんのストーリールートで何かをすると、このユーリが出てくるのかもしれない。
そして、この魔王の力が複数確認されているという内容も同じように、私の見たことがないルートではないだろうか。
(私が見たことがないルート……それってつまり、グッドエンドのルートに入ってるってこと!?)
「……胸元さらに出して、下もギリギリにしてみよっか」
だとしたら朗報だ!
正直最近、もうゲームのルートに戻ることすらできないぐらい崩壊しているとか思ってたし!
こうしちゃいられない!
このことを、アオイさんに伝えないと!
「あ、マオちゃん。その状態であんまり動くと危ないよ?」
ユーリに迎撃されるのは覚悟で、ここを飛び出す!
早速、私は立ち上がり……
「ほら脱げちゃった♪」
……上半身ほぼ全脱ぎ、下半身もほとんど見えた着崩し姿をユーリに披露した。
「……い、いやぁぁあああああ~~!」
いつもはここでアポカリプスを連打するところだが、魔王モードで力の制御ができているせいか、不本意ながら何度も全裸を見られることで少し慣れてしまったのか、体を隠して悲鳴を上げるぐらいに留まる私。
「なっ、え……なんで!? 服着てましたよね、私!」
「んー、最初あたし流の着崩ししてたらさ、ちょっと欲望に負けちゃって。半脱ぎ状態にしちった♪」
「しちったじゃないですから!」
「……大丈夫だよ、マオちゃん!」
「え……」
実は見えてなかったとか?
「改めてマオちゃん体は、あたしの好みだって分かったから!」
「いや、それのどこに大丈夫の要素があるんですか!」
(とにかく服を直して……え?)
服を直す私の足元に、、小さな球体が転がってくる。
パイナップルみたいな形の小さなもの……これってまさか……!
「ユーリ! 伏せて!」
「え?」
爆発音と共に、球体から、凄まじい勢いで煙が発生する。
(これは……煙玉? 良かった、爆発する系じゃなかった)
見た目が、パイナップルみたいな小さなもの……完全に手榴弾なので、これはアオイさんの地球技術再現グッズの一つだろう。
つまりこれは、味方の救援だ!
「こっちだ! お嬢ちゃん!」
(スコールの声……助かった! これで脱出できる!)
そのままユーリから離れて、アポカリプスで跳躍。
煙幕が効いているのか、迎撃魔法も飛んでこない。
「残りも全部投げろ! このまま撤収だ!」
私の後ろで、スコールたちが最後の締めをしてくれる。
さすがスコール。
味方になると、本当に頼りになる。
……そして同時に、「あとで説教な?」っていう顔が本当に怖いなぁ。
そのままスコールたちと合流し、私は屋敷へと戻るのであった。
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「行っちゃったか~」
マオちゃんが逃げていった方向を見ながら呟く。
「目標確保の手際の良さ、引き際、マオちゃんの仲間にとんでもないのがいるなー」
敵に回ったら……いや、敵に回るんだろうが、本当に厄介なことになりそうだ。
「そして、もうひとつの問題はこれだよね」
煙を発生させた球体を拾いながら呟く。
「……魔力も感じないただの道具なのに、煙を出すとかありえないっしょ」
一応、うちの屋敷の者に調べさせてみるが、たぶん無駄だろう。
一目見ただけ、技術の根本が違うのが分かる。
「とりま、警戒だけはしとくかー。魔王の力を持つ人間が現れたわけだし」
マオちゃんは見た目魔族っぽいが、魔族ならあんな、魔力を全身に流してくれと言わんばかりの服や装飾品、呪術的要素もある髪型にしなくても、魔法を使いこなせるはず。
つまりあれは、最大限の魔法を使うために必死に姿を変えている、魔力が弱い人間だ。
「魔王の力が勝手に変化させてるのか、何かの魔道具を使っているか分からないけど、ついに魔王の力を使う人間が現れたちゃったかー」
人間から見れば裏切り者なのかもしれないが、魔力至上主義の世の中では、出てきて当然だろう。
ご先祖様の本が正しいなら、魔王とはそういうものだろうし。
「ん……? ここは……」
「あ、おはよートール。可愛い女の子と一緒に鍛練は楽しかった?」
「は、はぁ!? オレ別にそんなことしてねぇし! ていうか、なんでオレ家に……」
そう言いながら、きょろきょろするトール。
そして、大騒ぎの屋敷と、あたしが鍛練のことを知っていたことで色々と察したのか、真面目な顔になる。
「……もう行ったのか?」
「うん。行っちゃったよ」
「……そっか」
そう言いながら立ち上がり……
「師匠! オレ、ぜってー強くなるから! 誰よりも! 師匠よりも!! だから、待ってろよ!」
思いっきり叫びだす。
「……ふーん?」
「な、なんだよ?」
「今まで誰かを師匠とか呼んだことないのに、マオちゃんのことは師匠って呼ぶんだー?」
「た、たまたまだよ! あいつには師匠なんて言ったことないし……え、マオ?」
「あーあ、呼んであげないとかカワイソー。マオちゃん傷ついてるかもなぁ。ほんとにトールは、女心が分かってないよねー」
「傷ついてる……そ、そんなの関係ねえよ! あいつは、俺が倒すべき相手だからな! それより、マオって名前なのか、あいつ?」
「さーね。自分で聞いたらー?」
「なんだよそれ! 教えろよ!」
必死の表情で叫ぶトール。
あの朴念仁かつ鍛練にしか興味がないトールくんをここまで誑すとか、やってくれるなぁマオちゃん。
(まぁ、あたしも思いっきり誑されちゃったけど♪)
『ユーリ! 伏せて!』
あのときの言葉が、私の中で心地よく響く。
あの表情、押し付けられた胸からなる強い心臓の鼓動。
あれは間違いなく、あの道具が煙を出すだけのものとは知らず、ただ私を心配して、守る為だけの行動だ。
敵であるあたしを庇う……顔と体が好みなだけかと思ったけど、まさか性格まで完全に私好みとは。
(……トールには申し訳ないけど、マオちゃんは、あたしのものにしちゃおっと♪)
次はもう、容赦なく体を隅々まで触らせてもらって、そのままあたしの部屋に連れ帰ろう。
「無視すんな馬鹿姉貴! 早く教えろ!」
とりあえず今は、馬鹿呼ばわりする弟への制裁と、マオちゃんを捕まえるための魔法とかを用意することから始めるとしよう。
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