自分の代わりに誰か追放されたらしい
@umikemusi
追放された男
「あんたなんか追放よ!」
甲高い声がギルド中に響く。周りの視線が次第に集まってきており少し居心地の悪い空気になる。
発言元の女、バネッサはそんなことは意にも介さず言葉を続けた。
「今までお荷物のあんたがこの勇者パーティにのうのうと居座れたのはあんたがウチのパーティのリーダーであるティムの幼馴染であるというだけなんだから!今まではみんなもティムの優しさに免じてゴブリンの一匹も使役できない無能テイマーのあんたの存在を許してきたけどもう限界!王都から優秀なテイマーが来たからあんたなんてもうお払い箱よ」
そう長台詞を捲し立てた彼女は、少し溜飲が下ったのかスッキリとした表情だ。
「い、いきなり追放だなんてひどいよ。今までだって頑張ってパーティを支援してきたのに。今更追放なんてされたって僕はもうどこにも行く場所がないし、お金もあまり残ってない。せめて今年の冬まででいいからパーティにいさせてよ……」
バネッサに責めたてられ、針の筵となっているルードルはたまらずそう反論した。
「ルードル、私たちも慈善活動で仕事しているわけではないの。王都から特命で君と同じ役割を果たせる人が派遣された以上、君をこれ以上このパーティに置いておくことは端的にいって金の無駄でしかないの。わかる?」
ベチュニアがそう説明しても諦めきれないのかルードルは懇願するようにこう言う。
「だからせめて冬まででってお願いしてるよ!僕たち故郷からずっと一緒に旅してきたよね。このままだと僕は冬を越せなくて野垂れ死だ。君たちは役に立てなかったとはいえずっと一緒に旅してきた僕が死ぬかもしれないと言うことになんとも思わないのか!」
「いい加減うるせぇよルードル。テメェはもうイラねぇつってんだよ。とっととこのパーティから出てけよ、寄生虫が」
「畜生ッ、チクショウ!」
そんなバーバリの最後の一言に、ルードルは顔を真っ赤にして泣きながら走り去っていった。
私は柱の影から話しかけるタイミングを見計っていたが、これは何というか……非常に入りにくい。
そんなことを考えていると先程から困り顔で特に何も言っていなかった男、ティムと目があう。
ティムは仲間たちに軽く確認をとり離席しこっそりこちらに近づいてきた。
「初めまして、僕は一応あの勇者パーティのリーダーをやっているティムだ。よろしくね。君は……おそらく王都から派遣された新しいパーティメンバーの人だよね。仲間にも君のことを紹介したいけど見た通り今はちょっとピリついていてね。本当に勝手で申し訳ないのだけど顔合わせは明日の朝にしてもらっても良いかな?」
軽く頷くと「ありがとう」と言い、彼はパーティメンバーのところへと戻っていった。
そんな感じで、勇者パーティに転属になった最初の一日は終わろうとしている。
初日からこんな状況では先が思いやられるどころの騒ぎではないが、だからといってどうする事も出来ないので一度思考を放棄して宿に戻って寝ることにした。
私の名前はロアル・ギーストーン
自己紹介はおろか本日一言も喋っていない悲しい男である。
▲
次の日、前日約束したギルドの席に30分ほど前に来てみたもののまだ誰もいないようだ。
この町に来てから日も浅く、いたずらに時間を浪費する気にもなれなかったので少しギルドを回る事にした。
冬が近く石造りのギルド庁舎の内部は少し肌寒い。この町がある地域は王国内でも有数の豪雪地帯で冬季の移動は命懸けとなるらしい。
ふと燃料特有の硫黄臭がしたのでそちらを見てみるとギルド職員が灯油ストーブをつけようしていた。
あの灯油ストーブもこの町特有のものである。
というのも他の町では油は高級品であり、庶民はわざわざ暖房用の燃料として使おうなんて思わず、少しお金持ちであればとっとと魔導ストーブを買って済ましてしまうのだ。
では何故この町では油が公共施設にまで行き渡っているのかというと、立地が特殊とのこと。
この町は山鯨と呼ばれる巨大生物の化石の上に立っており、少し地面を掘るだけで湧くように鯨油が産出するのだ。鯨油の取引はこの町の収入の多くを占めており、またこの油のお陰で豪雪地帯にもかかわらず冬も寒さとは無縁らしい。
しかし勿論良いことばかりではなく不便な事もあると聞いた。その代表例が井戸が掘れなく水源が確保しにくいのだ。
幸い、水源自体は、町の近くに山脈があること、この地域が豪雪地帯であること、という条件が重なって雪解け水でそれなりの川があるので町が干からびてしまうことはないのだとか。
そんな行きの乗り合い馬車の中で知り合った、この町出身の商人の話を思い出しながらギルド庁舎を歩いていると、ある男がギルド職員から大量のゴールドを受け取っている光景が目に入る。
これが知らない男であれば気にもしないが、男の顔には見覚えがあった。
それは昨日パーティから追放されたルードルその人のものである。
彼のことはよく知らないが、一応無能さが原因で追放された男なのだ。
そんな彼が中堅パーティ一ヶ月分相当のゴールドを一日で稼ぐなど誰がどう考えても怪しい。
なので少し探りを入れてみることにした。
「おはよう、そこの君。いい朝だね」
「あっ、はいおはようございます!ところでどちら様でございましょうか?」
「私は……そうだな、君の同業者と言ったところかな。おそらくだが君はモンスターテイマーだろう?同業者がそんなに多額のゴールドを儲けているんだ。誰だって多少の下心を抱くものだろう?」
そう悪戯っぽく笑うと、ルードルは気を良くしたのか自身にあった出来事を話し始めた。
「恥ずかしいことなんですけど僕、昨日ずっといたパーティを追放されてしまったんですよ」
「それはお気の毒に」
あくまで他人事のようにそう告げる。
「それでですね、少し頭に血が昇ってしまって、僕を追放したパーティメンバーを見返してやる!って夜中に一人でオークの巣に突撃しゃったんですよ。それも随伴モンスターなしで」
「それはまた無茶を。話を聞いている限り君はタダでは済まなかったとおもうのだが?」
「はい、おっしゃる通りです。僕はオークの群れにボコボコにされかかりました。そして本当に殺される!ってところで頭の中に声が響いたんですよ。『無条件テイムスキルを取得しました。無限強化スキルを取得しました』って」
「スキルとは、なんとまた眉唾な……だがしかし君が生きてここにいる事もまた事実、すまない話を遮ってしまって。だがとても興味深い話だ、続けてくれ」
「ええ、それでその音が頭の中に響いた瞬間、自身の新たな能力の全てが手に取るように把握出来たのです。そして僕は巣穴の天井に張り付いていたホブバット一羽を使役、強化し二十匹以上のオークを倒せと命じました。」
「それでそのホブバット一羽でオークを全て倒したと」
「そうなんです。でも勢いでオークを全て倒したものの後処理の仕方が分からくて、とりあえずギルドの人に相談したんです。そしたらとても驚かれまして、なんでもオークの群れを倒すには最低でもそれなりの熟練者のパーティがしっかり対策してなんとか倒せるかどうかくらいらしく、僕が嘘をついてると思われたんです。」
まあ、無理もない。
正直言ってモンスターを連れていないテイマーはほぼ戦闘訓練をしていない一般人と変わらないのだ。ギルドの職員の反応は容易に予想できる。
「それで早朝に現場確認や後処理をしてもらい、僕が嘘をついていないことが認められたので、賞金が貰えました。それを受け取っていたらあなたが話しかけて来て今に至るというわけです」
「ふむ、俄かには信じがたい話だな。ギルドの職員と同じようなことを言うようで申し訳ないがそのスキルとやらを実演してくれないだろうか?これでもテイマー歴はそれなりに長いほうでね。何か分かる事があるかもしれない」
「いいですよ。建物の中でブラックを飛ばすわけにもいかないので外でやりましょう」
ブラックというのは恐らくテイムしたというホブバットの名前だろうか?
どうやらルードルはテイムしたモンスターに余り名前を付けない方が良いという、テイマー界隈では割と常識である事をしらないようだ。
と言うのもいちいちテイムモンスターに名前を付けて愛着をもって接していると、テイムモンスターが消し炭になったり、ゴミのように蹴散らされたりした時、毎回ショックを受けていては判断力が鈍り、仲間全体を命の危険に晒すような自体を引き起こしかねないからだ。
加えていざとなったら自分の命や任務の達成の為にテイムモンスターを捨て駒として使わないといけない判断を下す必要があるのだ。
とは言っても常識というだけで、特に規制があるわけでも無し、個人の自由だ。何か信条的なものをもっているかもしれないので特に指摘しないことにした。
そんなことを考えながら外へ移動していたところ、前方から突然声がかけられる。
「あらあら、これはこれは無様にも追放された間抜けで無能なルードルじゃないの。一人じゃロクに戦えないくせになんでまだギルドなんかにいるのからしら。無能は無能らしく物乞いにジョブチェンジしたらどうかしら?」
「ば、バネッサ……」
ルードルは先程の明るい表情から一転、恐怖で足がすくんでしまっていた。
しかし手元のお金が入ったの袋のことを思い出し、少しだけ語気を強めて言い返す。
「う、うるさい。もうパーティメンバーじゃないんだから僕がどこで何をしていようが関係ないだろう。僕はもう一人で戦ってお金を稼げるようになったんだ」
そう手元の袋を掲げると、パーティメンバーたちはかなり驚いており、特に女性陣は目に見えて苛立っていた。
「なんなのよ!そんな量のゴールドをあんたが一日で稼げるはずないじゃない!不正、不正よ!ギルドに報告してやるんだから!」
「不正じゃない!これは僕がギルドから得た正当な報酬だ。ギルドにかけあってもムダだ」
「あんたの言葉なんかに信用できるわけないじゃない。とりあえずその不正に手に入れたお金を手放しなさいよ!」
そう言ってバネッサは力づくで奪おうとヅカヅカとルードルに歩みよる。
ちらりとティムの方を見ると彼はあわあわしているだけで何も出来そうにない。
パーティメンバーの人間性を知るいい機会だったので沈黙を保っていたが、これは流石に止めに入らねば。
「まて、その辺にしておけ。この大金は確かにこの男がギルドから受け取っていた。私はその光景を見ていたから間違いはない。ギルドの職員に聞いても同じ解答が返ってくるだろう。このままではそちらが盗みの罪に問われるぞ」
「ッ、なんなのよアンタ!私たちが勇者パーティだと知っても同じ事が言えるの!」
「バネッサ、この人は……!」
「いい、ティム。自己紹介ぐらい自分でさせてくれ」
そう言い、私はルードルを庇うように前に出る。
「私の名はロアル ギーストーン しかないモンスターテイマーであり、勇者パーティの強化のために国からの特命で派遣されたものだ」
予想通り、効果的面でありバネッサ達はたじろいでしまい何も言えなくなっている。
しかし自身の後ろにいる人間のことを考えると少し気が重かった。
「すまなかったな、名乗りもせず情報を引き出すような事をしてしまって。君の境遇を鑑みると、君には私に対し怒る権利がある。私に出来ることがあれば言ってくれ」
「いえ、いいんです。思うところがないと言えば嘘になりますが、元はと言えば僕が無能だったからパーティを追われたんです。あなたを恨むのは筋違いだ」
そうルードルが言うと、反論出来る口実を見つけたのか再び女性陣が騒ぎ出す。
「そうだよルードル、コッチはテメェの無能でさんざん足を引っ張られているんだ。謝礼がわりにその袋寄越せよ」
そうバーバリが理不尽なことを言い始める。
擁護しようと口を開こうとしたところ、ベチュニアから静止が入った。
「待ってください、ギーストーンさん、でしたっけ?これは昔からの問題です。あなたの様な新参者には口出ししないでいただきたい
の」
「それこそ論点がずれていると言うのもの。身内のことだろうが何だろうが犯罪は犯罪だ」
「あんた今自分のしていることわかってる?あんたと私たちはこれからパーティを組むのよ。これ以上そいつを庇うようならこれから先のパーティ生活が楽しみね。優秀といっても所詮はテイマー、ルードルみたいに可愛がってあげる」
「ふむ、確かにそれを人質に取られるとこっちも辛い。この仕事は失敗する訳には行かない以上、こんな事で同僚との関係が崩壊する訳にはいかないかな」
そう言うと私は小切手を取り出し、あるメモと共にルードルにこっそり渡す。
それを見たルードルは一瞬申し訳無さそうな顔をした後、バネッサに素直に袋を渡した。
「これで過去の因縁とやらは精算されたわけだ。私は話すことは好きだが中身のない話は嫌いでね。手っ取り早く金で解決させてもらった。少し情けない格好になったかもしれないが、私のプライドなど仕事の正否に比べれば安いものだよ」
バネッサはつまらなそうに袋を弄りながらもこれ以上踏み込んでくることは無いようだ。
ルードルはこちらに一礼をしたのちギルドを去っていった。
しかしながら話を聞いた限り彼は規格外の能力に目覚めている可能性があるかもしれない。
ここで彼の能力についての情報を逃したのは、後々響いてくる恐れがある。
そんな不安を頭によぎらせながら、私は勇者パーティの面々との初のミーティングに臨むのであった。
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