言い訳彼氏。
さんまぐ
第1話 言い訳彼氏01。
私には言い訳彼氏がいる。
言い訳にしておけばいい彼氏。
別に付き合っていない。
恋愛感情はない。
親同士が知り合いで、昔から頻繁に会う。
片道1時間。
適度に離れた場所に住むその家はちょっとした外出で、テーマパークに遊びに行く感覚だった。
多分親は友達に会えて堂々とお酒が飲めるから行きたかったんだと思う。
行っている間は「勉強しなさい」も「お手伝いしなさい」もなくて、ご飯を食べて親達がお酒を飲んでいる間の空き時間はアイツと遊ぶ。家だと少しの時間しか出来ないゲームも何時間でも遊べるからアイツも私を歓迎してくれている。
恋愛がしたい訳でもしたくない訳でもない。
ただ学校でいいなと思った相手が居ても知られたくない。
面倒ごとはごめん。
ただそれだけで、いつの頃か、多分小学生の頃からアイツの存在を出すようにしていた。
「華乃ちゃんは好きな男子いないの?」
「居ないかなぁ。面倒いし、男の子はアイツだけで十分かな?」
匂わせているのはわかっていた。
だが1時間離れたアイツを追う物好きはいない。
遠く離れた場所に匂わせでアイツ呼びができる男子がいる。
それだけで十分だった。
そう言えば、同い年だが同学年ではないと知った時には驚いた。
同じ干支だったからてっきり同じ年に入学すると思ってランドセルの話をしたら、アイツは一年遅れて入学するらしくて、何か事情があるのかと思って心配したら誕生日が4月の前と後で学年が変わるとその時知った。
中学になると会う機会は減る。
親達は相変わらず頻繁に会っては酔っ払って帰ってくる。
それでもクラスの男子より身近に居たのは、親から話も聞いていたし、アイツが小学生の頃は親のスマホで連絡を取っていたし、アイツが中学になってスマホを持つようになって連絡を取っていたからだ。
アイツも中学になると部活だなんだと更に会わなくなる。
だが年4回くらいは会うので、やはりクラスの男子より身近な存在だ。
身近は身近で週一で連絡は取っている。
それは義務的なモノでもないし、用事があるからメッセージは送り合う。
簡単な所では「漫画の新刊出てたよ?買った?」、「マジで?買ってない!あんがと」なんてやり取りだったり、「コンビニで新作アイス出てたけど食った?」、「食べてない」、「美味かったよ」なんてやり取りだったりする。
家族みたいなモノだった。
それを覗かれた時には、友達から「恋人同士じゃん」と冷やかされたが、それはそれで良しだと思い、言い訳彼氏にしてしまった。
恋愛とは面倒くさい。
純愛とストーカーの違いが私にはわからない。
テレビで見たお弁当屋さんの看板娘に恋した男が看板娘に会う為にお弁当屋さんに通い詰めて結ばれる話だと、コメントしてたタレントさんは「純愛ですね」と言っていたが、別の番組なんかではストーカー被害の話で、コンビニ店員さんが一目惚れされて毎日通われて怖くて店を変えたけど、また男が客としてきた話には「男は勘違いすんなよ」なんてコメントが付いていた。
違いがわからない。
純愛とストーカーは受け取り手の問題一つで変わるあやふやなモノ。
あまりわからないが、わかる事は需要と供給は難しい。彼氏が欲しい女と彼女が欲しい男が目の前にいてもカップルにはならない。目の前にいるからといって、ペアを作ってもうまくいくモノではない。
「モテたい」って言葉も好きな相手からモテたいのであって、不特定多数からモテたいわけではない。
私は中2の夏にそれを実感した。
接点なんてたいしてない男子が、ムードもへったくれもない告白をしてきた。
しかもダメ元ではない。妙に自信溢れる顔つき。酷評する気はないが、陰キャ族なのに自信満々な事に引いた。
引いたし諦めないでしつこい辺りに気が遠くなったのは熱中症だけでは無いだろう。
自分を安売りする気もないし、高値をふっかける気はない。だがだからと言ってこの男にワンチャンあると思われている事にはショックを受けた。
机に入れられていた汚いルーズリーフ。
せめて可愛らしい封筒と便箋なら良かったが、何度も書き直されて汚いルーズリーフが折り畳まれて入っていて、書き直された文面は「放課後、渡り廊下に来てくれ」のみで、何というか無碍にしたら呪われそうな圧をルーズリーフから感じて、仕方なく顔を出したら現れたのはこの男だった。
断っても「でも」「なんで」としつこい。
何を言っても「付き合ってよ」の一点張り。
押し問答だし人に見られればロクでもない事になる。
もしかしたらコイツはそれを狙って既成事実を作ろうとしているのかと思った。
そんな時、私は知らなかったが、アイツとのことは結構な噂になっていて、「よその学校に年下彼氏が居るのは本当なのか?」と聞かれた。
言われた時は意味がわからなかったが、すぐにアイツだと理解をして「そうだ」と答えてしまった。
意味不明だが男子は「それなら仕方ない」と引き下がり、告白はなかった事になった。
ルーズリーフは学校のゴミ箱に捨てて誰かの目に留まり、トラブルの種になっても困るから帰ってビリビリに破いてから捨てた。
ゴミ箱からは怨念みたいな物を感じて怖かったし。なんかその上にゴミを捨てるのも怖くなった。
その事をアイツに愚痴ったら「華乃ってモテるんだな」と返ってきた。
「モテるって…告白なんて初めてだよ」
「そうか。俺なんて浮ついた話はないからすごいや」
「それで言い訳に使ったんだけど…」
「別に良いんじゃない。俺たちには接点ないから問題ない」
こうして私には言い訳彼氏が出来た。
そして冬にはトドメが刺された。
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