第32話

 馬車が二時間ほどして止まった。

 人の足では、半日かかりそうなくらいの距離だろう。

 概ね、高原の三姉妹カフェから王都と同じくらいか。


「到着したようだ。ここからは覚悟が必要になるが、大丈夫か?」

「可能な限りは努力します」


 なにが待っているのかわからない。

 安易に大丈夫とは言えなかった。

 だが、ようやく開いたカーテン越しの景色を見て、驚かされた。


「え⁉︎ 高原の三姉妹カフェ?」

「そうだよ……」

「ここに視察ですか?」

「ある意味そうだよ……」


 いったいなんのために……。

 国王陛下も一緒に来ているのだから、ただごとではない気がする。

 まさか、サーラお姉様とエマお姉様がなにか失態を犯してしまい、連帯責任で私も罰せられるなんてことも……。

 だが、すでに家族関係は完全に絶たれていることも国に提出済み(お姉様たちに勝手にされていた)だし、私が責任を負うことはない……はず!


 なにがなんだかわからないままだが、馬車を降りて一度深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

 久しぶりの高原。空気が美味しい。

 やはりこの場所が一番落ち着く。


「フィレーネ⁉︎」


 高原の三姉妹カフェの入り口を勢いよく開け、怒声のように荒げていたのはサーラお姉様だった。


「あんた……! いったいなんの……って、この馬車は⁉︎」

「お久しぶりです、サーラお姉様」


 サーラお姉様は、馬車を見たとたんに私に対しての口調が変わった。

 おそらくこの馬車が王族貴族が利用するものだと知っているからなのだろう。


「なんの用で来たのかしら……?」

「それは私から説明しよう」


 国王陛下が馬車から降り、なぜか禍々しい雰囲気を出していた。

 サーラお姉様はニヤニヤと笑みを浮かべている。


「なにごとでしょうか? え? 国王陛下⁉︎ フィレーネ⁉︎」


 驚いた表情を浮かべながら、エマお姉様も出てきた。


「な、なんでフィレーネと国王陛下が一緒に……」


 それは私にもわかっていない。

 高原の三姉妹カフェに視察に来るだけで国王陛下までも同行するだろうかと今になって疑問になった。


 しかし、国王陛下がとんでもないことを告げるのだった。


「高原の姉妹カフェの二名をこの場から追放処置とする」


「「「え⁉︎」」」


 私までお姉様たちと一緒に大きな声を出してしまった。

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