第20話

 二度目の売り上げ報告をしに王宮へ行った。

 いつもの応接室でお菓子を堪能して待っている。

 私自身がこうやって飲んでいると、つくづくお菓子も早く用意しなければなと思う。


 ところで、今日の飲み物は気になった。

 コーヒーのような香りはするのだが、色が普段と違う。

 さらに、白い模様が描かれているのだ。

 いつも対応してくれる使用人に尋ねた。


「これはなんという飲み物ですか?」

「カフェラテと言います。エスプレッソにミルクを混ぜたものです」


 長らくカフェをやっていながら、私はエスプレッソという言葉を初めて聞いた。

 カフェラテについても詳しく教えてもらった。


「――と、いう流れで、ミルクを注ぎ、注ぎ方の工夫でこのように絵を作りあげて提供することもできるのですよ」

「おぉぉぉ……すごい」

「もしよろしければ、フィレーネさんのお店でやってみてはいかがでしょうか?」


 思いも寄らない提案をされ、私の好奇心が急上昇する。


「良いのですか⁉︎」

「もちろんです。特にフィレーネさんのお店は民間人も気楽に利用できるお店でしょう? カフェラテやラテアートの技術は王宮に留めず広めたいと、……料理長は言っていましたし望まれていました」

「料理長とは、まさか王宮で仕えているお方ですか?」

「そうですよ」


 まさか、国の中で一番の技量を誇ると言われている伝説の料理長に、カフェチェルビーが知られているなんて驚いた。

 飲食店は当然として、カフェや飲み物を提供する人たちだって知らない人はいないはずだ。

 お姉様たちは、いつか注目を浴びてサインを貰うとか言っていたっけ……。

 いずれ……、会えるなら会ってみたい。王宮専属料理長に。


「料理長は大変お忙しいですからね。私も王宮で仕えているため、このようなラテアートの技術を伝授されまして」

「ぜひ、使用人さんからご教授願いたいです!」

「……私で良いのですか?」

「もちろんです! 料理長の腕前も凄いのでしょうが、私は使用人さんが毎回用意してくださる飲み物とお菓子に大変満足しています。このカフェラテも大変美味しかったですし」

「それは嬉しいですね」


 私がそう言うと、使用人はニコリと微笑み、本当に教えてくれたのだ。


 味だけでなく、見た目から楽しめそうなラテアートカフェラテ。

 これはやらない手はない。


「ありがとうございます!」


 簡単な作り方を教えてもらっていると、応接のドアが開いた。


「今日はずいぶんと楽しそうだな」

「あ……申しわけございません! ラテアートについて夢中で聞いてしまっていて……って、え⁉︎」

「ほう。ついにフィレーネ殿も我が王宮一番の職人技を導入してくれるか!」


 前回と同様、レリック殿下が入ってくるのかと思っていた。

 だが、顎に白髭を生やし、頭に分かりやすく王冠を被っているのは間違いなくこの国で一番偉い人だと思う。


「こ、国王陛下……でしょうか?」

「うむ。いつも息子が世話になってる」


 私はユメでもみているのではないだろうかと疑ってしまう。

 いくら王子のレリック殿下と知り合ったとは言っても、こんなに易々と国一番の偉い人が登場してくるだなんて思ってもいなかった。

 どうして国王陛下が来てくださったのだろう。

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