第19話【姉妹Side】

「なんでおかわりなんてするのよ。あの偉っそうな男!」

「落ち着いてください。きっと、お茶があまりにも美味しかったから、飲みたくなってしまったのでしょう」

「遠目で見ていたけれど、部下に分け与えてしまうからこんなことになってしまうのよ」

「あれは毒見ですよ……」

「困ったわね」

「はい……」


 第二回、緊急会議。

 これ以上聖なる力を注ぐことはできない。

 この日、一般の客に提供しているものと全く同じ条件で出すことになる。


「今のところ、クレームは、ないわよね?」

「はい。どのお客様もしっかりと2,000ゴールドを払って帰られています」

「と、いうことは私の想定が正しかったのよね。このまま堂々と出しましょう!」

「大丈夫でしょうか……」

「問題ないでしょ。幸い国王が座っている場所は、店内で一番外の景気を楽しめる特等席だし安心しなさい」

「は、はい!」


 エマは、サーラの言葉を信じて堂々とした態度で国王に提供した。


「大変お待たせいたしました。コーヒーと紅茶です。どうぞごゆっくりお過ごしください」

「うむ」


 エマは深くお辞儀をして厨房へ戻っていく。


 再び毒見役の護衛が口にしてから国王がカップを手に取った。

 一口飲むと、一度カップを起き首を傾げた。


「……ふむ」

「いかがなされましたか陛下?」


 毒見役が心配しながら尋ねた。

 国王は近くにエマとサーラがいないことを確認してから小声で話す。


「おぬし、小声で正直に答えよ。これを飲んでみてどう思った?」

「……不味いかと。最初のお茶も、以前王宮で用意していたお茶よりも味が劣るかと思いました」

「そうか。私の勘違いではなかったようだな。カフェチェルビーからもらったお茶があまりにも美味しすぎて味覚がおかしくなってしまったのかと思ったが……」

「いえ、間違いではないかと。むしろ、王都商会会長が営んでいる店の豆と似ているような気がしてなりません」

「ふむ……。味覚に関して右に出る者なしと言われたお主が言うのだから可能性はあるかもしれぬな。それで2,000ゴールドか。これは少々調査したほうが良いのかもしれぬ。土地柄の場代を込みにしてもこの金額ならばそれ相応のものでないと問題だ」

「いかがいたしますか?」

「今日のところは知らぬ顔で美味かったと言い、請求どおりに支払っておけ。警戒されて証拠を隠蔽されても困る」


 国王は、さっそく高原の姉妹カフェを疑いはじめた。

 このあと、国王はエマとサーラに対して、『美味かった』とだけ伝えた。


「「ありがとうございます!」」


 もちろん二人は大喜びだった。

 国王一行が帰り、当日の営業も終了した夜、二人はどっと疲れて椅子に座りテーブルに顔を乗せた。


「あぁー疲れた!」

「でもサーラお姉様の言った通りでしたね。やはり、どんな安物でもここで飲めば美味しく感じるものなのですね」

「そうよ。だって、お茶は聖なる力も入っていたし。そのあとに安物を飲んでも美味しかったなら、どっちも一緒ってこと。これだったら、もう聖なる力も入れなくたっていいわよね」


 会議の結果、今後提供していく飲み物も、高原で収穫した美味しいコーヒーと紅茶ということにし、誤魔化すことになった。


「助かります。聖なる力って、使うとそれなりに疲れますものね」


 実のところ、聖なる力を込めたとしても、フィレーネとエマ、サーラではまるで味が変わる。

 愛情を込めていなければほとんど意味がない。

 エマとサーラは、任務としてやっているだけだから味の変化はほとんどないのだ。


 つまり、ただ聖なる力を込めただけでは、飲んでいる者たちからすれば、安物の飲み物となんら変わらない。

 このことを二人は知らなかった。


「明日からは楽に営業できるわね」

「サーラお姉様のおかげです。ありがとうございます! でも、こうなってくると、フィレーネは本当に邪魔者以外のなんでもありませんでしたね」

「ほんっとそう! あの子だけ一生懸命に、『美味しくなーれ』とか言いながら聖なる力を使っていたけれど、馬鹿馬鹿しい。全く無意味なことって教えてあげたいくらいよ」

「もう良いのではないかと。自己満で幸せを噛み締めている幸せ者なのですから。そのかわり、後に痛い目を見るかと思いますけれど」

「エマもなかなか言うわよね」

「当然です。フィレーネには今後痛い目にあってもらわないとスッキリできません」

「放っておいて問題ないでしょう。最悪の場合、奴隷商人に捕まって売られたとしても、別になんとも思わないし」


 二人がフィレーネに対する恨みは計り知れない。

 だが、フィレーネはカフェチェルビーで毎日楽しく過ごしていることなどまだ知らなかった。


 高原の姉妹カフェは、翌日から聖なる力すら込めない飲み物を提供することになり、客足はさらに終息へとまっしぐら。

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