第8話

 王宮にある豪華な客室で一晩過ごし、カフェをオープンさせる家に向かった。

 なぜか大勢の人たちと一緒に。


「しばらく警備を担当しますソニアと申します。こちらの者たちは主に掃除を担当する使用人です。よろしくお願いいたします」

「カフェのためにここまで至れり尽くせりよろしいのでしょうか?」

「はい。全てはレリック殿下の指示です。開業に向けて、必要なことがあればなんなりとお申し付けくだされば」


 人がいてくれたほうが色々と助かる。

 お金がないから全て一人でやろうと思っていたため、これは本当にありがたい。

 後日お礼をしなきゃいけない人がどんどん増えているから、しばらく私は節約生活だな。

 その辺に生えている草を食べて生きていこう。


 一番時間がかかるのは収穫である。

 家の掃除は後回しにして、来てくださった全員で裏庭の雑草を除去することに集中させてもらった。

 綺麗になったところから、種などを植えていく。

 ソニアさんが不思議そうな表情をしながら私に問いかけてきた。


「これから育てるのですか? いちから……」

「はい。ここの土は高原の土よりも質が劣ってしまうかもしれませんが、それでも二週間ほどあれば収穫できるかなと思います」

「ん……? んん?」


 企業秘密のため詳しくは話さなかったが、論より証拠。

 待っていてもらうしか方法はない。

 誰も見ていないタイミングで祈りを捧げ、作物には頑張ってもらおう。

 欲を言えば葉っぱを食べるような害虫が寄ってこないように、てんとう虫などがいてくれたら良いのだが、高原とは環境がまるで違う。

 こればかりはどうしようもできないが、ここでできる限りのことはやっておきたい。

 今日は丸一日、裏庭のメンテナンスと種植えで終わってしまったが、想定していた十倍以上のペースでここまでこれた。


「協力してくださりありがとうございます! おかげで明日からは店内の準備に取り掛かれそうです」

「私も楽しみになってきました。早くオープンできると良いですね。さて、では帰りましょうか」

「はい。お世話になりました」

「いえ、フィレーネさんも帰るのですよ」

「はい?」

「今日も王宮で食事とお風呂、ベッドの準備は万全ですよ」


 私はその場で、ぽかーんとしてしまった。


 ♢


 王宮とカフェを行き来する毎日。

 営業に必要な備品や、上の部屋で生活するための道具などを購入する費用は、全てレリック殿下が建て替えてくれた。

 ますます営業を成功させ、来る人たち全員に満足してもらわなきゃというプレッシャーものしかかる。


 これで準備は整った。

 とにかく設備投資にお金がかかった。

 もちろん私は最低限のもので良いと言ったのだが、それではダメだとなぜかレリック殿下が拒否をしてきたのだ。

 その結果、私が注文した物がひとまわりもふたまわりもオシャレで高級な物を仕入れる羽目に……。

 カップひとつひとつが大変立派なものになってしまっていて、三姉妹カフェよりもクオリティが高いんじゃないかと思ってしまう。


 私にできることは、ひたすら祈り続け、種や茶葉たちに愛情を注ぐこと。

 ますます頑張らなきゃと、張り切っていたら、予定よりも早い十日目で収穫できるまでに育ってくれた。


「本当にこんなに早く育ってしまうのですね……」

「ソニアさんたちが掃除や買い出しを手伝ってくれたおかげです。本当にありがとうございます!」

「いえ。むしろ驚きです」


 毎日一生懸命頑張ってくれたソニアさんと使用人たち。

 お礼の意味も含めて、明日はこのままカフェをプレオープンしてみようかと思う。

 もちろん、最初のお客さんはソニアさんや使用人、そしてこの場所を提供してくれたレリック殿下だ。

 レリック殿下は忙しいだろうからダメだったら作った紅茶を王宮に持っていくことにしよう。


 いつものように王宮へ帰り、このことをレリック殿下に話したら、もちろん行くと言ってくださった。

 久しぶりのカフェだし、私も楽しみだ。


 ……と、思っていたのだが。

 どうしてこうなった……。


「あの……。なぜ国の偉い方々が次々と……」


 カフェ店内は明らかに貴族と思える格好をした人たちで埋め尽くされている。さらに、その貴族たちが一人の女性に頭を下げている。

 どうやら王妃らしい。


 もちろん誰が来ようとも同じ物を提供し、満足してもらいたい。

 だが、普段から豪華な食事や品の高そうなものを召されている方々に通じるかどうか……。

 いささか心配だが、私は張り切ってプレオープン初日、コーヒーと紅茶を順番に淹れて提供した。


 本来ならば王妃に対して最初に提供するべきだと思うが、カフェでは、順番などは対等に行う。最初にオーダーしてくれたお客さんへ紅茶を提供する。

 収穫したての茶葉をカップに入れ、熱湯を丁寧に注いでいき完成した一杯。

 それを笑みを浮かべながら飲んでくれて、とても嬉しい。


 続けて王妃に提供する。


「美味しい……。そして、なんなのでしょうかこの感覚は……」

「ありがとうございます。ソニアさんたちがいてくれたからこそ、早く開業できました」

「息子が手伝うよう指示したそうですね。この美味しさなら納得ですわ。あなた、素晴らしいです!」


 王妃にお褒めの言葉をいただけるとは嬉しい。

 しばらくしてレリック殿下も来店され、紅茶を提供した。


「これだ。この味だ。間違いない。私がもう一度飲みたかった紅茶はこれだ」

「レリック殿下のおかげで、このような素晴らしい場所でカフェを営業できました。本当になんとお礼を言ったら良いか……」


少し店も落ち着いてきたため、手伝ってくれている方たちにも提供した。


「なんというか……、疲れが吹き飛ぶような感覚があります」

「ど、どのような茶葉を使われているのでしょう。信じられないほどの美味しさが……」


 これならば、カフェ営業もうまく軌道に乗ってくれそうだ。

 一般営業は明後日からの予定だが、前よりも一層ワクワクしてきた。

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