第5話 フィーネとクレープ
佐藤フィーネは美少女である。モデルの様にすらっとしたスタイルに、芸術品のような美しい顔、おまけにかつてはファンタジーの中だけの存在だったエルフとなればみんな注目するのも無理はないというものだ。
「すっげえ、あの子マジモデルみたい……」
「あれがニュースでやっていたエルフか、生で見たけどそこらへんのアイドルより可愛くね?」
「ああ……エルフにののしられたい。あやよくば踏んでほしい……」
すれ違う男性のほとんどが彼女をみて感嘆の声をあげ、俺を見て「なんでおまえのようなやつが……」とばかりに舌打ちをする。
それを見て俺は……
「ふはははは、うらやましいだろ。悔しいだろ。もっと妬むがいい!!」
とちょっと調子に乗っていた。いや、だって、こんな風に羨望の視線でみられるのはめったにないしな。
「何をぶつぶつ言っているのよ……」
「いや、フィーネみたいな美少女と一緒にクレープをたべに行けて幸せだなって実感しているんだよ」
「ふふん、私に見たいな美少女と隣を歩けることを感謝しなさい」
得意げな顔で笑みを浮かべているが耳が可愛らしくぴくぴくと動いている。そして、ぼそりとエルフ語で『わーーー、神矢に美少女っていわれた!! クラスのみんなにお化粧ならった甲斐があったわね』とつぶやいているのが聞こえ俺は思わずドキリとする。
そんな会話をしながら俺たちはクレープ屋の前にたどりついた。そこには何人もの学生たちがならんでおりあーでもないこーでもないと雑談している。なぜかはわからないが今日はカップルが多いな……
そんな中、フィーネは様々な味のクレープの食品サンプルを眺めながら楽しそうに耳をぴくぴくとさせている。
「うふふ、昔っから学校帰りにクレープっていうのにあこがれていたのよね。何味にしようかしら」
「うーん、そうだなぁ……無難にイチゴと生クリームのやつとかおすすめだぞ」
昔って高校入ってまだ二か月くらいしかたっていないだろと内心でつっこみをいれつつ、俺はメニューを眺める。
懐かしい……異世界へ行く前は雫ねえさんと放課後にクレープを食べに行ったものだ。高校生だった彼女はすでにバイトもしており、おごってくれたのである。
そのことを思い出して……ずきりと胸が痛む。
「だけど、なんでそんなにクレープを食べたがってたんだ? ミスドとかほかにもいろいろあるじゃん」
「それは……その……放課後仲の良い人と食べるクレープってすごい美味しいって聞いたことがあるのよ……」
「まあ、女子って甘いもの好きだよなぁ……」
なぜかもじもじとしながらなにか言いたそうに、こちらを見つめてくるフィーネ。いったいどうしたというのだろうか? 俺がきょとんとしているとなぜか唇をとがらしてエルフ語でぼそりとつぶやく。
『いい加減思い出しなさいよ、ばか』
いや、思い出すって何を思い出すんだよ……俺は困惑しながらも、クレープを注文する順番が回ってきた。
「それでフィーネは何にする? 俺のおすすめは……」
「イチゴホイップ。ホイップ多めでお願いするわ」
「え……」
フィーネの言葉に俺は驚きの声をあげる。だって、それは俺の大好物であり、雫姉さんとよく二人で食べていたトッピングのものだったから……
「どうしたの? 神矢」
「……何でもない。じゃあ、俺はカスタードとバナナにしようかな」
クレープを見て、懐かしい実らなかった初恋の痛みと、フィーネの本当に嬉しそうな笑顔を見て嬉しさを同時に感じ、相反する気持ち抱く自分に驚きながらも笑顔で店員に注文をする。
「じゃあ、この二つでお願いします」
「はい、ありがとうございます!! そういえばお二人さん、よかったらこちらはどうでしょうか? 今ならなんとカップル割をやっているんです!!」
「「カップル割!?」」
俺とフィーネの声がかぶる。あわてて看板を確認すると、「カップルっぽいことをした二人にはそれぞれ50円引きと、写真撮影サービスをします」と書いてある。
だから、カップルが多かったのか……
「なあ、フィーネどうする?」
高校生にとっての50円はまあまあ貴重である。うまいぼうも五本買えるし、やすい飲み物も買える。カップルっぽいことといってもせいぜい一瞬手をつなぐくらいだし……と思ってフィーネに確認とろうとすると、彼女は顔を真っ赤にしてエルフ語でぶつぶつとつぶやいていた。
『カップルっぽいことって……やっぱり子作りよね……え? こっちの人はこんなところでするの? 進みすぎじゃないかしら……』
このエロフなにいってんだ? そして、無茶苦茶緊張してる表情でフィーネが俺を見つめてきた。まるで俺が何かを言い出すのを警戒しているかのように……
なんで俺はクレープを食いに来たのにこんなことになっているのだろうか……
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