第6話 発端

 仕事の帰りに友だちと駅前の飲み屋に行った。友達と言っても、高校の頃、学校サボっていた頃にどこかのゲーセンで知り合ったくらいの連れだった。

 女二人で席に座ってお互いの仕事の愚痴を言ったり、最近夢中になっていることなんかを話して飲んでいると、男の二人連れが店に入ってきた。

 二人は私たちの席から離れたところに座って飲み始めた。そのうちの一人が、私の片思いだったと思っているあの副島くんに似た雰囲気の子で、誠実そうな風貌で静かにその連れと飲んでいた。ときどき私と目が合って困ったが、それは私がその子を見ているからだ。

 その子と話しができたときは嬉しかった。その子は静かな子だったが、その子の連れの子がやんちゃな感じの子で、その子が私の連れに声をかけてきたのだった。

 いつもの私なら、かっこつけて知らん顔してるところだったが、その日は酒が回っていて、よくしゃべった。

 私たちはその男の子たちとその後も時々会うようになって、そのうち、その副島君似の子とつきあうようになった。

 私もその子も若かった。

 すぐに子どもができたのがわかって結婚した。

 父は私の結婚について、少し戸惑った顔をしたが、私のことを今まで育ててきたなんて自覚がないから、反対することもしないまま、結婚を認めた。

 私たちは市内のアパートを借りて新しい家族を作り、まあまあ普通の生活をしていたと思う。

 一人目の子が生まれた頃、旦那が仕事を辞めた。職場の上司とけんかしたって言ってた。私たちはなんとか父の援助を受けながら生活を続けた。

 二人目の子が生まれるひと月前、私たちは離婚した。若い二人のこんな結婚生活がうまく行くとは思えなかったが、やっぱりだめだった。

 大きなお腹をさすりながら待っていたけど、旦那が夜になっても帰ってこなくなった。どこかに女がいるらしいとは思っていたけど。

 だから、あけみは父親を知らない。


 父の援助はもうなかった。

 父の会社は倒産していたからだ。私は子どもたちを保育所に預けながら仕事をしていたけど、会社が倒産して事務の仕事がなくなり、別の仕事を探した。

 新しく見つけた会社は大きな工場で、そこでパートの仕事をして生きてきた。しばらくは私もその会社で二人の子を養ってきたが、女一人で生活して行くにはさすがに現実は厳しかった。

 上の子は男の子だったが、児童相談所が入ってきて、施設に預けることになって、小学校の高学年になった頃に手放した。

 私のことを学校で担任に言ったらしい。母親からの暴力があると。

 そうしたらすぐに児相がやってきて、子ども二人を私から引き離した。

 何回かの面談の後、あけみだけは私のところに帰って来たが、息子の方は絶対に帰らない、と言ってそのままどこかの施設に入った。よく泣かせていたから仕方がないと思う。


「なあ、このままここに寝ててもしょうがないからさ」

 ある日あけみが私の部屋に来たときにいつもと違ってまじめな声で話し始めた。

「うちもこのままじゃ、ちゃんと働けないし、娘たちの面倒も見れないんだよね」

 私はあけみがこの後何を言い出すのか分かった。

 私もどこかに預けられるのだと自分の身を哀れんで、あけみの話の続きを聞いていた。

 エアコンのリモコンはもう私の手の届かないところに置きっぱなしになっている。じっとりとしめった布団に寝かされたまま、私は私のこれまでの人生を怨んでいた。

――いいことなんて一つもなかった。



ところで

ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございます。

近況ノートでもお知らせしていますが、「序章」を物語の冒頭につけました。

物語の性格をかえる章だと思います。

ぜひ、その冒頭の部分をご覧になってください。

そして、引き続き、このお話の最後までおつきあいしていただけますよう

よろしくお願いいたします。  筆者。

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