私の世界
私と雄馬の家からほとんど距離の無い所だったので、すぐに着いた。
ここに来るのはいつ以来だろう。
滑り台とブランコ、それに鉄棒と砂場があるだけの小さな公園。
保育園の頃は世界の中心かと思うくらいだったのに、こんなにちっぽけだったんだ。
思わず笑顔になる。
「懐かしいな」
雄馬の言葉に私もっゆっくり頷く。
「そうだね。三人で遊んでた頃はもっと広いように感じてたのに」
「だな。今だから言うけど、あの頃は途中から俺も健一もお前をどうやって笑わせようか、ってそればっか考えてたよ」
「・・・そうなんだ」
私が保育園で仲間はずれにされた時。
それから私の世界は変わり始めた。
それと共に、色々な事から目を背けるようになった。
そんな時、健一と雄馬の二人と遊んでいるときだけは幸せだった。
人形遊びも二人はずっと付き合ってくれたし、ごっこ遊びでも私をお姫様にしてくれた。
小学校に上がり、いじめられるようになってからも、この公園でよく一緒に遊んでくれた。
ボール遊びや鬼ごっこ。
それにごっこ遊びも変わらずに付き合ってくれた。
時には相談にも乗ってくれ、いじめっ子たちとやり合ってくれたりもした。
「有り難う。あの頃があったから僕はやってこれた」
そう言うと私は砂場近くのベンチに腰を下ろし、雄馬も続いた。
「この砂場やベンチで良くお姫様ごっこやったな。お前がお姫様で俺たちが王子と悪役」
「だよね。男のくせにお姫様なんてメチャ恥ずかしかったけど」
「お前だから違和感なかったんだよ。俺や健一だったらキモかった」
「ホントだよ」
私は笑いながら言った。
「久々に一緒に来れて良かった。今度は健一にも声かけようよ」
だが、私の言葉に雄馬は返事をしない。
目の前の滑り台をじっと見て・・・いや、滑り台の向こうのずっと先の何かを見ているようだった。
「どうした、雄馬?」
その様子に私は不安を感じて思わず聞いた。
雄馬はそのまま何かを考えていたようだったけど、やがて苦痛に耐えているかのような表情で言った。
「俺なんだ」
え?何?
私はポツリと聞こえたその言葉の意味が分からずに雄馬の顔をのぞき込んだ。
「裏サイトの清水と山辺の奴。アパートから出てくる写真」
ポツリポツリと話す雄馬の言葉は氷の粒のようにヒンヤリとした感触で私の耳に、心に飛び込んでくる。
「・・・なんで」
思わずそうつぶやいていた。
正直、行為自体は私のアップした画像が決定打だったし、あの画像によって山辺さんは大きなダメージを受けたものの、正直それによって関係を深める切っ掛けになった。
なので、行為そのものに恨みを持てる立場でも無い。
だが、それを行ったのがよりによって雄馬・・・
「どうして?」
純粋な疑問だったが、雄馬はそれを批判と受け取ったらしい。
泣きそうな表情で俯いた。
いつもクールで落ち着いている雄馬が、今はまるで子供のように頼りなく心細そうに見える。「過ぎたことだし、今更あの話しも忘れられそうになってる。だからそれはいいよ。責めるつもりは無い。ただ・・・なんでお前が。それが分からないんだ」
雄馬はしばらく黙っていたが、やがて何かを決心したように顔を上げると私の顔を見て言った。
「お前の事が好きだから」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
好き?
「それは・・・友達として・・・」
「違う」
雄馬は私の目を真っ直ぐ見ながらハッキリと言った。
「いつからかな。多分小学校4年くらいの頃だと思う。運動会の時、転んでけがをした俺にお前が濡らしたハンカチで傷を拭いてくれた事あっただろ?あの時のお前がものすごく綺麗に見えた。あの時のお前の姿が夢に出てきた。朝起きて心臓がドキドキして・・・そこが多分初めて意識したんだと思う」
4年の運動会。
そうだ。
確かにあの時、私は雄馬の膝にぬれたハンカチを当てた。
かなり擦りむけていたし、それで走るのはばい菌も入ると思って。
でも、あのときの雄馬は何故か酷く無愛想だった。
正直嫌われたのかと心配になったけど、翌日からは元の雄馬に戻っていた。
あの時、そんな事が・・・
「あれからずっとお前の事を・・・好きだった。お前を友人じゃ無く好きな相手として守ってやりたいと思ったんだ。でも・・・お前、清水の事が好きだったんだろ?それが受け入れられなくて。だから清水を・・・お前から離したくて」
話しを聞きながら、身体から力が抜けていく。
そうだったんだ・・・
今までの色んな事がつながっていく。
一時期様子が変だったことも。
「こんな事を話して、お前と今までの様に友達で居られないのは分かってる。でも、どうしても言いたかった。もう会えないから・・・」
「え?ちょっと待って。会えないって・・・」
「俺、来月引っ越すんだ。親父の転勤で」
「そんな!急すぎない?」
「どうも親父が仕事ででかいミスやらかしちゃったみたいで。その責任を取るために飛ばされたらしい。だから最近家もバタバタしてて。でも、仕事人間だった親父が今はすっかり家庭一色になってるからお袋は喜んでるし、まぁ悪くないよ。ただ・・・その前にお前に気持ちだけは伝えたかった」
雄馬は話しながらその口調に嗚咽が混じってきていた。
そして泣き始めた。
雄馬。
こんな私の前で泣かないで。
私、そんなにさらけ出されるような資格のある人間じゃ無い。
なのに、どうして・・・
私は絞り出すように言った。
「・・・ごめん」
「いいよ。ダメなことは分かってた。男からこんな告白されたってキモい・・・」
「違う」
私はキッパリと言った。
雄馬は私の強い口調にポカンとしていた。
「違うよ」
私は雄馬を見ながら心臓が居たいくらいに酷く高鳴るのを感じた。
でも、言わなくちゃ。
今、絶対に言わなくちゃ。
その衝動に突き動かされるように言葉を吐く。
「僕・・・いや、私も雄馬に伝えたいことがある」
そう言って携帯を取り出し、画像を見せる。
自撮りしたウィッグとメイクをし、ワンピースを着た私自身の姿を。
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