落花

「お疲れ様。昭乃ちゃん」

清水先生が何かしゃべっている。

私はぼんやりと無造作に落ちているチェックのシャツとTシャツを見ていた。

胸やお腹に鈍い痛みがある。

あちこちに噛みつかれたせいだった。

下腹部には尿臭と共に生臭い匂い。

男性であることを示すそれが、自分の中から出た物とは思えないほど汚く感じる。

たまらなくベタベタしてとても臭い。

清水先生から焼き付けられた呪いのよう。

でも良かった。ペンダントだけは無事だ。

「意外と凄い反応するんだね。先生つい興奮しちゃった・・・ってか、そんなにショック受けなくても良いじゃ無い。先生、悲しいな。って言うかむしろ感謝してよ。学校の教師と初体験できたなんてシチュエーション中々ないんだから・・・ってそんな余裕ないか」

先生の言うとおり、私は全ての言葉が耳を素通りしていた。

「シャワー使わないの?そのままじゃ臭くない?って、今更だけど」

私は首を振ってノロノロと手を動かし、シャツを着る。

一秒でも早くこの場を離れたかった。

「でも、私はまだ消化不良なのよね。どう?良かったら続きしない?・・・って冗談よ!そんなに怯えなくてもいいじゃん」

清水先生は笑って続けた。

「ま、あなたもまさに恐怖と喪失の時間を送って結構なダメージになったでしょうし、お仕置きはこのくらいにしてあげる。良かったわね、あなたが子供で。もしあなたが大人だったら、私は容赦しなかった。あなたに言った言葉全てを脅しで無く多分ホントにやっていたわ。でも・・・」

そう言うと清水先生は、私の正面に座ると能面のような表情で言った。

「二度目は無いから。覚えときなさい」

私は必死に何度も頷いた。

清水先生の顔はまるで人形のようだ。

人形のように可愛らしく、恐ろしい表情だと思った。

多分、私はこの顔を二度と忘れることは出来ない。

それから清水先生の車に乗り込み、しばらく車を走らせると突然車を止めた。

「はい、お疲れ様。降りて良いから」

私はこわごわと清水先生の顔を見ながらシートベルトに手を当てた。

「良いって言ってるでしょ?これで終わり。あなたへのお仕置きはおしまい。降りなさい」

私はまるでモタモタしていると清水先生の気が変わるのでは、とでも思っているかのように急いでシートベルトを外しドアを開けると車を降りた。

「今回の件、くれぐれも他言無用ね。お利口な昭乃ちゃんはもちろんしゃべったらどうなるかは分かるよね?じゃあまたね、昭乃ちゃん」

え?

今、何て・・・

その言葉の意味を聞く間もなく、清水先生の車は走り去っていった。

だが、その言葉の事もどうでも良くなった。

この場所は山辺先生のアパートの前だった。

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