嫌悪

こうして三人で机を並べて弁当を食べたが、いざ話してみるとやはり薄いカーテン一枚、とでも言うような妙な違和感を感じた。何とも言えない気持ち悪さとでも言おうか。

届きそうで届かない。

結局、ほとんど話しも盛り上がらないままに何となく食べ終わり、何となく二人はそれぞれ教室を出て行った。

一人ぽつねんと机に座り、申し訳なさと自己嫌悪で一杯だった。

二人は大切な友達なのに。

こんな自分との時間をいつも楽しそうに過ごしてくれる人なのに。

その時、ハッと気づいた。

だからなんだ。

大切な二人だから違和感を感じるんだ。気持ち悪いんだ。

二人に気持ち悪さを感じているんじゃ無い。

二人と話している時の嘘つきの自分が気持ち悪いんだ。

二人に対して男子として話している自分が気持ち悪い。

そう思うと、自分がどう振る舞って良いのか分からなくなった。

週末、先生と話しているときのような口調で話したい。

自分が本当はグラビアアイドルなんて少しも興味が無いことを話したい。

ジャケットじゃ無くワンピースが好きなことを。

馬鹿笑いなんか本当はしたくない事も。

恥ずかしいから本当は体に触って欲しくないことも。

綺麗なリップを見つけた時、体がカッと熱くなって胸が高鳴ることも。

二人に長すぎだと言われたこの髪も本当は肩まで伸ばしたいことも。

それでも三人でいる時間が楽しい事も。

でもやっぱり二人には女子として見てもらいたいことも。

そんなことを全て話したい。

健一と雄馬なら分かってくれるんじゃ無いか。

自分を女子として・・・

衝動的に教室を出て廊下を走りながら二人を探した。

少しの間走りながら探し回っているうち、自分が急激に冷静になってくるのが分かった。

いや、無理だ。

万が一、拒否されてしまったら・・・

その言葉が呼び水になったかのように、昔の記憶が浮かんできた。

保育園の時の一人で遊んでいた頃。

他の女子に人形を使わせてもらえなかったため、木の枝や小石を王子様やお姫様に見立て、遊んで居た事。

小学校に上がって、私をからかうクラスメイトの目、声。

そして・・・私に男なんだと言うママの別の生き物になった時の姿。

 それらの声や目、姿が健一と雄馬に重なった。

嫌だ。嫌だ。

絶対に嫌だ。

でも・・・気持ち悪い。苦しい。

一体どうしたらいいの?

先生・・・助けて。

体にまとわりつくような疲れを感じて壁にもたれていると、横から「鈴村?」と声をかけられた。

 

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