第10話 勝っても負けても面倒だから無視しよう

「で、どうするんだ?」

「その前に質問っていうか、確認しときたいんだけどね」

「おお、なんだ。なんでも聞いてくれ」

「じゃあ、聞くけど……王位継承の儀って何をするの?」

「ん? 言ってなかったか?」

「聞いてないよ」

「そうか。ならちゃんと説明するか。いいか、王位継承の儀ってのはな……」


 ガイルさんにどうすると聞かれたけど、俺自体はドンガ国は初めてな訳だから王位継承の儀なんてどんなことをして、どんな風に優劣が競われるのかは全く知らない。だから、その辺りをガイルさんに確認すればガイルさんの中では既に俺達に話したつもりでいた。


 もちろん、そんな事実はないから改めて……ではなく初めてガイルさんから王位継承の儀について説明してもらう。


 王位継承の儀と言ってもそこはドワーフ主体の国なので競うのは当然、鍛冶師としての腕となる。そしてその競う内容がまんま競技内容となる。


 先ずは基本となる数打ちと言われる大量生産品の均一性を競うのが一つ目の種目となり、次に鋳造技術を競い、最後に自身の持てる全ての技術を使って最高傑作となる刃物の切れ味は勿論のこと、刃文の美しさ、鞘を含めた装飾まで含めた全てを競う。


 ガイルさんから説明された内容は以上だけど、これだけの内容を一日で終わらせることは先ず物理的に無理となり、少なくとも一週間は必要になるだろう。となれば、国民もその様子を肴に楽しむこととなり、必然的に大きな祭りとなる。


「まあ、だいたいのことは分かったけど、ガイルさんは王位継承権はいらないんだよね」

「ああ、そうだ。今さら、兄上の邪魔になることをするつもりはない」

「だよね。じゃあさ、俺が言ったようにガイルさんとお兄さんだけじゃなく、国民であれば、誰でも参加可能にして国民全員を巻き込むのは問題ないのかな」

「まあ、大丈夫じゃないかな。兄上は俺とシロクロ着けられれば気が済むだろうからな」


 ガイルさんからある程度の説明を聞いた上でガイルさんに改めて王位継承権に未練がないことを確認し、その王位継承の儀に国民であれば誰でも参加可能とすることに問題がないかを確認する。


「でもさ、ガイルさんはお兄さんに負ける気はないんでしょ」

「当然だ! なんだ? コータは俺にイカサマしろとでも?」

「いや、そんな訳じゃないけどさ。もしだよ。もし、ガイルさんが勝っちゃったら、もの凄く面倒なことになると思うんだけど。そこはどうなの?」

「そうか。コータは俺が勝てないと思っているんだな」

「いや、違うからね。違うけど、ガイルさんが勝っちゃったらさ、あのお兄さんが黙っていられるとは思えないんだよね。絶対に王位をガイルさんに譲ろうとしてくると思うよ」


 お兄さんはガイルさんと決着を着けられればそれでいいハズだとガイルさんは言うが、俺は勝つにしろ負けるにしろ絶対に面倒なことになると断言する。その理由としてはガイルさんが勝てば、お兄さんはガイルさんに王になれと迫るだろうし、ガイルさんが負ければガイルさんがイカサマでワザと負けたと言って素直に喜ばないだろうと話すがガイルさんは不思議そうに言う。


「ん? いや、だからその為に最初に王位継承とは関係ないと明示するんだろ?」

「それで、お兄さんが納得したとしてもだよ。いざ勝負が始まって優劣が決まった後に事実上のトップである王座に素直に座っていると思うかってことだよ」

「……まあ、確かにな」

「だからね、しつこいくらいに絶対に王位は関係ないってこと。勝敗に関係なくお兄さんから玉座を謙るって言わないように契約なりなんなりで縛っておかないと絶対に面倒なことになるからね」

「……やっぱり、そう思うか」

「うん、思う。俺に聞くってことはガイルさんも一筋縄じゃいかないって思っているんでしょ」

「ああ」

「でも、それを回避するとなれば、ガイルさんが負けるのが一番簡単なんだけど、ガイルさんはもちろんそんなことはしたくないだろうし、お兄さんもガイルさんがそんなことをしていると分かれば、絶対に許してくれないよね」

「ああ」

「どうする?」

「どうすりゃいい?」

「あほくさ」

「「え?」」


 俺とガイルさんがお兄さんのことでああでもないこうでもないと話しているとアオイがと言ってしまう。


「アオイ、あほくさはないでしょ」

「いやいやいや、十分にあほくさだろ」

「そうは言ってもさ。仮にも一国の王を相手にするんだから」

「だからって、今からそんな先のことをああだこうだ言ってもしょうがないだろ」

「そりゃ、そうだけど……」

「だからな、もしあのオッサンが何か言ってきたとしてもだ。全部、撥ね除ければいいだけの話だろうが」

「そんな単純な……話なのかな?」

「そうだぞ。単純にすればいいだけの話だ」


 アオイの言うことも確かにそうだなと思えて来たので、俺もお兄さんのことは気にしないことにする。もし、面倒なことになってもガイルさんを置いて出ればいいだけだしね。


「コータ、お前……顔が悪いぞ」

「もう、ガイルさんまで」

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