第3話 誰のこと?
そんな訳で時間を元に戻し、丘の上から関所を見下ろし、「そろそろいいかな?」とガイルさんに一応、了解を得ようとしたけど、ガイルさんは「知らん」といった感じで全てを諦めたようだ。
「変なの。でも、一応断ったからね。じゃ、タロ行ける?」
『任せて!』
「よし、じゃ行こう!」
『うん!』
タロはその場で一瞬しゃがんだと思えば、丘の上から勢いよく飛び出し、一瞬で関所の前に降り立つ。
「うわぁ!」
「ま、魔物だぁ!」
「に、逃げろぉ!」
「あれ、どうしたんだろ?」
「このバカ!」
「え?」
タロが関所の前に降り立った瞬間に並んでいた人達や衛兵までも腰を抜かして座り込んでしまっているのを見て俺が不思議に思っているとガイルさんから怒られる。
先ずはこの状況をなんとかしないとと思い、タロから降りて衛兵の側に近寄ろうとするが俺が一歩近付けば、衛兵は腰が抜けたままなのに一歩後退る。
「え? なんで逃げるの?」
「ヒッ!」
俺はそんな風に腰が抜けたままの状態で器用に後ろに下がる衛兵の姿がなんとなく楽しくなり、ゆっくりゆっくり一歩ずつ近付けば、やっぱり一歩ずつ下がる。
「え、ナニコレ。楽しいんだけど! 痛ッ!」
「人で遊ぶんじゃない!」
ガイルさんは俺の頭にゲンコツを落とした後に「すまんな」と衛兵の一人に手を貸し立たせれば、衛兵は「ああ、ありがとう」と礼を言ってからガイルさんの顔を見るなり平伏してしまう。
「なんだよ、ガイルさんも人のこと言えないじゃん」
「いや、俺の場合は……」
「失礼しました! ガイル様!」
「「「え?」」」
衛兵はもう一度ガイルさんの顔と名前を確認すると「お許しください」と更に平伏し、周りにいた衛兵も慌てて平伏する。そして、同じドワーフ種族の人達も慌てて同じ様に平伏する。
「ちょっと、ガイルさん。何したの?」
「いや、俺は……」
「おい、お前! ガイル様に失礼だぞ!」
「そうだぞ! 王弟であるガイル様に対し失礼が過ぎるぞ!」
「こんな魔物を従えるとは如何にも怪しいヤツだ! ガイル様、先ずはこちらへ」
「あ~もう、いいからお前達も落ち着け!」
「ですが……」
「頼むから、ここでは騒ぎたくない。頼む!」
「ガ、ガイル様……分かりました。分かりましたから、顔を上げてください」
衛兵は俺達から……主にタロからだけど……ガイルさんを守ろうとなんとか勇気を振り絞って立ち上がれば、俺達を捕らえようと動き出す。そんな衛兵達にガイルさんは頼むから落ち着けと頭を下げれば、衛兵達も構えていた槍を下ろす。
「では、ここでは目立ちますので……」
「ああ、すまんな」
衛兵の一人がガイルさんを関所の内側へと案内するが、俺達は放置なのかなと思っていたが「お連れの方もどうぞ」と案内された。
「ふぅ~よかったよ。もしかしたら騒乱罪とか不敬罪とかで、そのまま捕縛されるかと思っちゃった」
「それもよかったかもな」
「いやいやいや、ガイルさんがちゃんと説明しなかったからだよね」
「俺のせいか?」
「そうだよ。ガイルさんが王弟なら王弟だって言っといてくれないと」
「いや、それとタロの行動は関係ないと思うのだが?」
「い~や、違うね。もしガイルさんのことが分かっていたら、流石にあんなことはしないよ」
「そうか?」
「うん、だって絶対に面倒なことになるじゃん!」
「……ま、そうだな。だが、こうなると分かっていたのなら、もう少し考えてもよかったんじゃないのか?」
「……そうだね」
衛兵を先頭にガイルさんと並んで歩きながら、ガイルさんのせいだからと愚痴ってみても分が悪い。今はタロもいつものサイズになって俺の横に並んで歩いているが、先を歩く衛兵とは別に俺達の後ろを警護するように歩いている衛兵は「信じられない」とタロを見ながらブツブツと呟いている。
「では、中へお入りください。皆様もどうぞ」
「ああ」
衛兵の詰所らしき建物の中の食堂っぽい部屋と通され、椅子に座る。
「では、ガイル様にお尋ねしますが、今回の来訪目的をお願いします」
「なんだ俺に尋問か?」
「そうですね。そう捉えられても構いません。ガイル様は数年前に他の方々に何も言わずに出奔なさったことをお忘れですか?」
「……忘れてはないが」
「で、あれば目的を仰ってください」
「……ここでは言えん」
「そうですか。では、陛下の前でならお話しして頂けますか?」
「兄は関係無いだろ!」
「何を言いますか! 陛下と王位を賭けての勝負を放棄して出奔したのはガイル様でしょ! その為に陛下が皆からなんと言われているかご存知ないでしょうね!」
「は? どういうことだ!」
「やはり、ご存知ないようですね。では、直接陛下にお訪ね下さい。あなた方もガイル様のお供として入国を許可します」
「おい!」
「何も話さないのであれば、これ以上のお話は必要ありません。陛下の前で十分な説明をお願いします」
「……」
衛兵はそれだけ言うと、俺達を立たせ部屋から追い出せば「ガイル様をよろしくお願いします」と頭を下げる。
俺はガイルさんの肩をポンと叩き「じゃ、急いだ方がいいね。タロ!」と言えば、タロも『任せて!』とまた大きくなれば、アオイはさっと乗り込み自分の前をポンポンと叩き俺を待つ。ガイルさんはその様子にハァと大きく嘆息するが「慣れるしかないのか」とぼやき、カリナは「なるべく抑えめでお願い」と言う。
俺は脳内マップで王都の場所と方向を確認してから、タロに「あっちだ」と指を差せば『分かった!』と言うなり一気に加速する。
「だから、ゆっくりって頼んだじゃない! あ……ウプッ」
そんな様子を見ていた衛兵はさっき王城へ『王弟帰る』と伝令を走らせたのだが「伝令は遅れるかもな」と独り言ちる。
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