第6話 デッカい釣り針だった

 部屋の中には俺とタロ、それにメイドのお姉さんに子供が揃って部屋に入ってきた姫さんをジッと見る。そして姫さんはと言えば、そんな風にタロを中心に寄り添っている俺達を見てあらぬ誤解をしてしまったのにはビックリだ。


「どこをどうしたらそうなるのかな」

「だって、部屋の中にはコータがいて、その横には優しそうな奥さんに子供でしょ。どこからどう見たって幸せな家族じゃない」

「あのな、十二歳の俺にどうしてこんな子供が出来るのかな?」

「え……えっと、それは……どうして?」

「ハァ~とりあえず中に入ってもいいの? 王女様なんでしょ? 独身の男の部屋に入って傷物にされたってならない? 大丈夫なの?」

「何言ってるのコータは。私達はまだ十二歳でしょ。そんなことにはならないって」

「ふ~ん、そう。で、貴族での婚約は何歳から有効なのかな?」

「そんなの産まれた時からにきまっているでしょ。あ……」

「はい、アウト! お姉さん、部屋から追い出して」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 私達、友達なんでしょ!」

「友達だよ。でもね、男女が監視も付けずに同じ部屋にいるのはダメだよね」

「え~ちょっとくらいいいじゃないの」

「それで傷物にされてもないのに『私は大恩人に嫁ぐの』とか?」

「そう、それで私は窮屈な王家から……って、何を言わせるのよ」

「あ~こわ。お姉さん、お願いします」

「え? いいんですか? 相手は王女様ですよ?」

だからです。王女様相手にこちらが何を言っても無駄になるでしょ。いいから、お願いします」

「でも「お願いします!」……後から、文句は言わないで下さいよ」

「言いませんから、お願いします」

「分かりました。ソフィア様、コータ様もこう言ってますし誰もいない場所で会われるのは軽々にされない方がよいかと思います」

「もう、分かったわよ。じゃあ、クリフを呼んで来るから待っててね。それなら、問題ないんでしょ」

「ええ、問題ありません」

「もう!」


 メイドさんが部屋の扉を閉め、外に出てから気が付いたんだけど、この子『アリス』って呼ばれていたよなと。『アリス』ってことはひょっとして女の子なの? 俺って女の子と密室にいる状況を自分で作っちゃったの? え、そうなの? どうなの? と考えていると部屋のドアがノックされ返事をするとメイドのお姉さんが入ってくる。


「コータ様、アリス様と一緒に「ノーカンだよね?」……そのが何を言っているのか私には分かりませんが」

「その前にそのお子さんは「女の子ですよ」……そうなんだ……」

「女性と密室に二人っきりになるのは感心しませんね。先程、ソフィア様にもコータ様がそう仰っていたのに」

「ぐっ……」

「ですから、私は何度も念を押しましたよ? 本当にいいんですかと」

「う……」

「ふふふ、どうしましょうか。ここには誰も証言してくれる方がいませんよ?」

「わんわん!」

「そうですね。確かにタロ様は見ていたのでしょうが、証言が出来るハズがありませんものね」

「わんわん、お話出来るもん!」

「「『え?』」」


 やっぱり、このお子様は女の子だったのかと項垂れてしまう。そしてメイドのお姉さんはそれをネタに俺を揶揄うように迫ってくる。


 俺はどうするのが正解なんだろうかと考えていた時に証言できる人として、アリス嬢がタロが喋れると暴露してしまう。


「えっと、アリス様。それはどういうことなんでしょうか?」

「だってしゃべれるもん」

「ですが、タロ様は見ての通り大きい犬……本当に犬なんでしょうか?」

「ここだけの話しにしてもらえますか」

「うん、する!」

「アリス様……分かりました。いいでしょう」

「ありがとうございます」


 俺って客なんだよなとメイドのお姉さんの態度は腑に落ちないが、ここは身の潔白を証明するのが重要だと言い聞かせてタロにお願いする。


「タロ、頼む。俺の身の潔白を証明してくれ!」

『いいよ~』

「え? じゃあ、さっきのはやっぱり……」

「やっぱり?」

「あ……すみません」

「えっと、それはいいけど、『やっぱり』ってのはどういうことですか?」

「あの、さっきこのお部屋にご案内した時にお礼を言われましたよね。その時に気のせいなのかなと思ったんですけど、なんだかず~っと頭にこびりついていたので、悪いと思いましたが、お嬢様を材料にカマを掛けてみました」

「え~」

『凄いねお姉さん』

「うふふ、ありがとうございます」

「わんわん、お話しよう」

『いいよ~』


 とりあえずアリス嬢とどうとかいう話は流してくれたが、タロの秘密がバレてしまった。


「どうしたんですか?」

「あ~タロが話せるのってどうなのかなと考えていたんだけど、いいのかな?」

「何がですか?」

「え? だって、見た目が犬なのに話せるのは普通じゃないでしょ」

「まあ、そうですよね。でも、魔物の中には人の言葉を話せるのはいるみたいですよ。例えば、永く生きているドラゴンとかが有名ですね」

「ドラゴン……永く生きているね」

「それにタロ様は普通に犬と言うには無理がありすぎですよ。絶対に犬じゃないですよね」

「分かります?」

「分かりますよ。それに鑑定スキルを持っている方の前では隠し通せないですよ」

「鑑定スキル……それってどうやったら誤魔化せるの?」

「さあ? 私には分かりかねます」

「え~」


 タロが犬じゃないってことがバレバレだと言われたことにショックを受けていると部屋のドアがバン! と勢いよく開かれるとそこには姫さんとクリフさんが立っていた。


「連れて来たわよ! これでいいんでしょ!」

「お嬢様、もう少しお淑やかにお願いします」

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