第2話 離れたいのに

 タロにばかり戦わせてるのが面白くないのか護衛騎士の人達の視線が冷たい気がする。そういや、魔法が使えるとか言っていたなと思いだし、タロの背後から近付くゴブリンに向かって右手を突き出し、それを左手で支えながら呟いてみる。


「『石礫ロックバレット』……」

 ヒュンと音がしたと思ったら、タロの背後から迫っていたゴブリンの額に小さな穴が空き緑色の液体を吹き出しながら倒れる。


「おう、出来た! ふふふ、これで俺も魔法使いだ!」

「おい、一匹倒したくらいで何を喜んでいるんだ! まだいるだろうが!」

「もう、ちょっとくらい余韻に浸らせてくれてもいいじゃないか。はいはい、分かりましたよ。でも、一匹ずつってのは面倒だな。そうだ! 『地図マップ』に敵性を赤色で表示出来るかな」

『肯定します』

「じゃあ、お願い」

『……』


 視界に広がる地図に赤い光点が表示されたのを確認すると「目標固定ロックオン出来るかな」と言えば『肯定します』と返って来たのでお願いすると襲っていたゴブリンやオークの額にレーザーポインターの様な赤く小さな点が表示される。


「よし、じゃあ行くよ。『石礫ロックバレット』!」

 ヒュヒュヒュッと音がすると、赤い点を撃ち抜きその場に倒れるゴブリンとオークの皆さん。


「え? どういうことだ。まさか、お前がやったのか?」

「うん、タロにばかり働かせるのもと思ってね」


 騎士達は自分が戦っていたハズの魔物が次々に倒れていったのを不思議に思いながらも隊長だけは俺の仕業と認識したのか確認してきたのでそれを肯定する。そして、離れた所にあった赤い光点も気になってはいたが、それをタロが気付いてくれた。



『ねえ、コータ。拾って来た方がいい?』

「ああ、そうだな。頼むよ」

『うん、分かった』

「あ、おい、ちょっと待て! どこにやった!」

「まあまあ、ちょっと待っててよ。この事件の犯人らしきヤツを拾ってくるだけだからさ」

「はんにん……なんだそれは?」

「えっと、なんて言えばいいのかな。この襲撃を企んだヤツ?」

「何! それはどう言うことだ!」

「それを俺に聞かれても……」

「そうだな済まない。許せ」


 タロが俺から離れ、どこかに行ったのを隊長が止めようとしたのを俺が制してタロが拾ってくるのを待ってくれるように頼むが、『襲撃犯』がいたことの方が問題だったみたいで隊長が慌てる。さっきから、「だからなのか」「どうして」「どこから漏れた」とか呟いている。


 隊長が思考に耽っていると馬車の扉が開き中から片眼鏡モノクルを付けた白髪頭の老紳士が降りてくる。見た目から執事と思われる。


 紋章が入った黒塗りの上質な感じの箱馬車にいかにもな執事に護衛騎士の団体とここまで見事なテンプレならば、次に降りてくるのは……。


 見た目執事な老紳士が馬車の中に右手を差し出し、誰かが降りてくるのをエスコートしている。するとフリーズ状態から帰って来た隊長が「姫様、なりません!」と降りてくるのを止めようとするが姫様と呼ばれた女性……いや、女の子はそれを制して馬車から降りてくる。


「私達を守る為に戦ってくれたのです。お礼くらい言わせて下さい」

「ですが……」

「サーシャ、姫様の言う通りに」

「分かりました」


 お礼を言いたいと言う女の子に隊長は何か言いたそうだったが、執事さんがそれを制する。


「護衛騎士の皆様、守っていただきありがとうございます。お陰で私はこうして無事でいられます。本当にありがとうございました」

「あ~姫様……そんな」

「「「……」」」


 隊長だけでなく他の護衛騎士も姫さんの感謝の言葉に胸を熱くしているようだ。そして、俺はと言えばいつここから抜けられるのだろうか、タロが早く帰って来てくれと願っていると姫さんは俺の前に立っていた。


 今の俺の身長は分からないが、視線が同じ高さであることからおそらくそれほど変わらないのだろう。であるならば、俺の今の身長は百五十センチメートルくらいだろうか。そんなことよりも今、目の前にいるのは正真正銘のお姫様なんだよな。ふわふわな巻き毛に白い肌、そしてキリッとした目鼻立ちに青い瞳にどことなくいい匂いが鼻腔を擽る。


 そんな匂いを思いっ切り嗅ごうとしていると「姫様、なりませぬ!」と俺の前から姫さんが消えた。見ると隊長が姫さんを守るように俺と姫さんとの間に立ち、その背に姫さんを隠している。


「サーシャ、なんのつもりですか」

「いけません姫様。この子供は油断なりません」

「ですが、私を守る為に一緒に戦ってくれたのですよね。なら、一言くらいお礼を言いたいのです。そこをどいてください」

「いいえ、どきません。さっき、この小僧は鼻をいっぱいに膨らまして姫様の匂いを胸いっぱいに嗅ごうとしていたのです。そんな輩に近付ける訳にはいきません!」

「あら……」


 どうやら隊長には俺がしようとしたことがバレていたらしい。これはまいったと後頭部を右手でガリガリと掻いていると隊長の背後から顔を覗かせている姫さんと目が合った。


 姫さんは心なしか頬を赤くしていたようで、俺がしようとしたことが恥ずかしかったのかなとか思っていると執事さんが「サーシャ姫様の前です」と言えば、隊長が悔しそうに姫さんの前から離れる。


「改めまして。私はトガツ王国の第三王女でソフィア・フォン・トガツと申します。この度は私達の護衛騎士にご助力下さりありがとうございました」

「いえ、お……私は単なる通りすがりなだけで大したことはしていませんので、そんなお礼を言われるほどでは……」

「そうだ! お前は私が声を掛けるまで黙って見ていたんだ! そうだな?」

「ええ、まあ、そうっちゃそうだけど、助けたのも事実でしょ。なのにその言い方はどうなのさ」

「ぐぬぬ……」

「そうですよサーシャ。最初はどうであれ助けて下さったのは事実です。本当にありがとうございました」

「いえいえ、じゃあお礼も受け取りましたのでお……私はこのへんで……」


 ちゃんと姫さんからのお礼も受け取ったし、これ以上ここにいたら隊長がいろいろと爆発しそうなので、ここから離れようとしたところでタロが何かを引き摺りながら帰って来た。


 引き摺ってきた何かを俺の前に置くと褒めて褒めてといった感じで俺の顔をジッと見ているので、ムツゴロウさんばりに「よ~しよし」と思いっ切り頭を撫でて、じゃあとその場を離れようとするが「お待ち下さい」と今度は執事さんに声を掛けられる。


「失礼ですが、助けていただいた上に言葉ばかりのお礼だけで済ませる訳にはいきません。まずは貴方様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「えっと、私の名は『コータ』と言います。そして『タロだよ』です」

「「「……」」」

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