異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
@momo_gabu
第一章 旅立ち
第1話 どうしてこうなったのかな
どうしてこうなった?
俺こと『
「おい、ボーッとするな! まだ片付いていないんだぞ!」
「は~い」
「気に入らん! これの始末が付いたら覚えてろよ!」
そんな俺に小言を言ってきたのは護衛隊の隊長らしき女性だ。声の感じから女性らしいと思える。見た目は百七十センチメートル超えの細マッチョな感じだけど、残念ながら鎧にフルフェイスの兜で全身を隠されている為にボディラインを拝むことは出来ない。隊長らしいと思ったのはさっきから、この
どうして俺まで戦っているんだろうか?
時は少しだけ遡る。その時は確かに俺は日本にいたはずだった。だったというのは、ここはどう見ても日本ではないらしいと思えるからだ。
なぜ、日本じゃないと言えるのか。だって、日本というか地球では太陽は一つしか見えなかったハズだ。だけど、俺の見ている空には太陽らしき眩しいくらいに光っている天体と、その横に二つほど惑星が見えるからだ。
それに目の前に広がっているのはだだっ広い草原と、遠くには山が見えるだけで電柱や道路標識とかの人工物が全く目に入ってこない。ついでに言えば、第一村人にも会えていない。
「まったく、どういうことなんだ? 確か俺は……」
俺はこうなる前に自分に何が起こったのかを思い出す。思い出そうとしている顔をさっきからベロベロと舐めてくるのは犬だったハズのタロだ。
そう、俺はデスマーチがやっと終わったので久々の定時帰りで帰宅すると『ワン!』と柴犬のタロが嬉しそうに飛び付いてくる。
「そうか、お前の散歩もサボり気味だったな。よし、すぐに用意してくるから待ってろよ」
『ワン!』
俺はくたびれたスーツからジャージに着替え散歩道具を手に玄関を出る。
「タロ、お待たせ」
『ワン!』
「待て待て、今リードを付けるから。よし、出来たぞ」
『ワフ!』
タロは俺が子供の頃に飼い始めたからもう十五歳を超える老犬だ。なのに未だに散歩と言えば俺をグイグイと引っ張るほどの力がある。
「いつの間にか俺より年上になっちまったな。タロ」
『オン!』
いつもの散歩コースを回りもう少しで家に着くというところでタロがピタッと止まる。
「どうしたタロ? 帰るぞ」
『ワン!』
「ん? 何があるんだ?」
『ワフ!』
「お、おい、ちょっと待て!」
タロが急に走り出したものだからリードを持つ俺も一緒に走るしかない。
「おい、タロ。どうしたんだよ。タロ!」
『ワンワン!』
タロと俺の前には横断歩道にしゃがみ込んでいる幼児がいた。
「おいおい、なんでこんなところにいるんだよ。親はどうした……おい、タロ!」
『ワン!』
「見てしまったからには俺が対処するしかないよなぁ」
タロが幼児の場所まで引っ張り、俺もしゃがんで幼児を抱っこする。
「あぅ~」
「『あぅ~』じゃないよ。お前、どこから来たんだよ。ん? 嘘だろ……」
『ワフ!』
そこで俺の意識は途切れてしまい、気が付けばこんなところにいたと言う訳だが、誰からなんの説明もないままなのでここがどこなのか、俺はどうなったのか、これからどうなるのかすら分からない。
おまけに今も顔をベロベロと舐めているのは雰囲気からタロと分かるが、見た目はどう見ても老犬だった柴犬のタロではない。
顔はオオカミみたいにシュッとした顔付きで体は銀色の体毛に覆われている。と、見た目は普通にオオカミなんだが大きさが違う。どう違うかと言えば、タロが座った状態で体高が二メートルを超していることだろう。
「これってどういうことなんだ? ここはどこなんだよ?」
『ここは女神イーシュが治める世界です』
「え?」
俺の視界の隅っこにチャットウィンドウみたいに文字が流れて表示された。
「え? なに? どういうこと? なにが表示されているの?」
『現在地を表示します』
「ふぇ?」
今度は視界いっぱいに地図が表示され青い光が点滅している。
「もしかして、これが今の場所ってことなのかな?」
『肯定します』
「もしかして、俺がどこって尋ねたからなのかな」
『肯定します』
「えっと、誰がどうやって文字を流しているのかな?」
『……』
「これは答えてくれないんだ」
『肯定します』
「あっそ。じゃあ、俺がなんでここにいるのかは教えて貰えるのかな?」
『あなたは地球……日本にて交通事故にて死亡しました。その際にそこにいるタロ殿からあなたが死亡したのは自分の責任なのでなんとかして欲しいと頼まれました』
「えっと、タロが?」
『はい。タロ殿もあなたと一緒に死亡しましたが、本来ならばタロ殿が引っ張った際にあなたがリードを離してしまいタロ殿が幼児を救った後にトラックに撥ねられて死亡する予定でした』
「それが俺がリードを離さなかった為に予定外で死んだ……そういうことなのね」
『肯定します』
「でもさ、それならそっちで生き返らせてくれてもよかったんじゃないのかな?」
『それは無理でした』
「え? どうして、俺はここにいるよね?」
『既にあなたの体は荼毘に付されました』
「え? もう焼かれたの?」
『はい。遺体検分から火葬場まで早かったですよ』
「あ~アイツか……」
『はい。あなたの妹が全ての手続きを素早く済ませましたよ。お通夜とかすっ飛ばして、火葬場へダイレクトでした』
「おうふ……」
視界の隅で流される文字を追っているだけなのに目眩がする。それにしても、仲は確かによくないがダイレクトに火葬場に運ばれたと聞いて泣きたくなる。
『ワフ!』
「ありがとうな、慰めてくれるんだな」
『ワン! 気にするなコータ』
「ああ、ありがとうな……ん? 今のはお前かタロ?」
『うん、ボクだよコータ』
「喋るの?」
『うん、喋れるみたいだね』
「あ~そうなんだ」
『嬉しいな!』
「……」
タロは俺と話せるようになったことが嬉しいようでさっきからシッポがブンブンと土埃が舞うくらいに振っている。
「あれ? ちょっと待って! 俺の体は焼かれたんだよな? なら、今のこの体は? あ! よく見ると小さい……」
『お答えします。あなたの体はなく魂だけの存在だった為に器である肉体はこちらで用意いたしました。また、こちらの世界に対応する為に魔力回路も内蔵しました』
「魔力回路?」
『はい。ここでは地球の様な電力に頼った文明ではなく剣と魔法の世界なのですが、体内に魔力回路がないと魔法の発動は出来ません』
「へ~ってことは俺も魔法が使えるの?」
『肯定します』
「でも、体が小さくなったのはどうしてなのかな」
『この世界であなたの年齢でやり直すには無理があるということでこちらでの十二歳の平均的体型で構築しました』
「ふ~ん、なら俺は精神年齢は二十六歳の実年齢が十二歳ってことなんだ」
『肯定します』
十二歳の体にしたと言われ自分の両手をグッパーしてみるが、とりあえずは思い通りに動くし指は五本ずつあった。
「異世界と言っても身体的には変わりないのか。じゃあ、ここも……よかった。ちゃんとあった。ほっ」
一通りの説明を受けた後に改めて自分の格好を見直す。鏡がないから確かなことは分からないが、髪は明るい茶髪で肌は黄色ではなく白っぽい。この分なら瞳の色も違うのかもしれない。そして、着ている服装は少し生地が厚めの生成りの長袖シャツに深緑色のズボンに革の編み込みブーツに革ベストに肩掛けカバンと所謂冒険者の格好に見える。
カバンの中には革袋に入った金貨、銀貨、銅貨が数枚ずつ入っていたけど、貨幣価値は分からない。
「よし、まずは人がいるところに行こう。ここにいても安全とは限らないしな」
『分かった。乗ってく?』
「いいよ、先ずは歩いてみるよ。観察しながら歩きたいしね」
『うん。疲れたら言ってね』
「ああ、ありがとう」
俺とタロは立ち上がり歩き出す。
「でも、どっちに行けばいいんだろうな」
『ねえ、コータ。あっちの方から音が聞こえるよ』
「あっちから? どんな音?」
『えっとね、カンカンとかキンキンとか』
「それって金属音じゃないの。もしかして誰かが戦っているの?」
興味本位からタロの案内で音がする方へと向かうと街道へと出たようで、そこで見たのは三台の馬車を守るように取り囲む騎士っぽい人達とそれを襲っている緑色の小人と豚面の大柄な何かだ。
「えっと、もしかしてあれは襲われているのかな」
『肯定します』
「緑色の小人はひょっとしてゴブリン?」
『肯定します』
「じゃあ、あっちはオークとか?」
『肯定します』
「うわぁ~ラノベのテンプレ展開じゃないか。ここは見つからないようにしないと。ん?」
見つからないように茂みの陰から見物していたんだが、騎士っぽい人がこちらを見て何かを叫んでいる。
「うわっ! 見つかったみたいだけど、何を叫んでいるんだろ?」
『全言語理解スキルを習得しました』
「え? 「そこの! 見ていないで一緒に戦え!」……え~」
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