5年前に行方不明になった彼女から連絡が来た

サンドリヨン

第1話 再開

 5年前に行方不明になった彼女から連絡がきた。


「今度会えない?」


 その頃の私は病院の待合室で茫然自失となっていて、あぁ、これは夢なんだなと、だれにも言えない納得をした。


 それから一日経っても、二日経っても夢は覚めないで、トークアプリに一つの通知がついたままだった。


 また一つ、通知がついた。去年喧嘩別れした親友だった。


「今から会えない?」


 似たような二つの通知に思わず笑ってしまう。


「いいよ」


 そっけなさそうに返事を返す。集合場所を決めて、クマを隠すように軽くメイクをして部屋を出る。集合の10分前に着くように早足で歩く。昔からそうだった。どんなに堕落をしてもこういった習慣は消えてくれない。あの頃は何にでも生真面目で、人が規範からズレているのが許せなかった。でも、だからこそ、そんなしがらみを物ともしない彼女に惹かれたのだろう。日常のなんでもない場面には何時も彼女の影がある。こんなにも彼女の事を考えているのに会いたいという気持ちが湧いてこないのはなぜなのだろう?


 考え事をしていると、人にぶつかってしまう。相手のバッグからポーチや財布が飛び出てしまう。急いで拾わないと。そして彼女と出会った時もこんな感じだったなと思い出す。


「ご、ごめんなさい」


 荷物を拾いながら謝る。相手がどんな人なのかを確認するのも怖い。私は怒られることが死ぬよりも嫌いだった。


「陽菜?」


 相手の次の句を待っていると、予想もしない言葉が帰ってきた。そうやって私の名前を呼ぶのは音信不通になったはずの彼女だった。


「……ゆま」


 彼女の名前を呼ぶ。


 どうしてここに。そう思ってから一つの仮説にたどり着く。今日、私を呼び出した親友の仕業ではないかと。


「やっぱり陽菜だった!」


 そう大声で叫び私を立ち上がらせて抱きしめてきた。周囲が何事かと、私たちを見ている気がして恥ずかしい。


「ゆまも柚希に呼び出されたの?」


 依然として抱きしめてくるゆまを押し戻しつつ、仮説を確かめるために聞く。


「そうだよ。びっくりした?陽菜が全然返信をくれないから柚希に呼び出してもらったの。」


 お節介な親友を恨めしく思う。


「さすがの私でも驚いたよ。それと連絡くれたのに無視してごめんね。なんだか幽霊からのメールみたいで怖かったから。」


「ほら!見て!」


 真剣な眼差しで、私の顔を両手で挟みながら言う。


「めっちゃ生きてるでしょ!」


 花が咲いたみたいに笑う彼女を見て綺麗になったと感じた。


「それよりも陽菜の方が幽霊みたいじゃん!こんなにげっそりとして!」


 それもその通りだった。ゆまがいなくなってから何も食べる気がせず、柚希に無理やりご飯に連れていかれない限り、一週間の内、ご飯を食べる日は半分に満たなかった。痩せこけた自分の体を見て余計にゆまとの差を感じさせた。


 話を上手くはぐらかしつつ店に向かう。神様のいたずら気取りの柚希をとっちめなくては。

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