第7話 続・後輩とWEB小説

社畜の朝は早い。朝食は、食パンをトーストにしてジャムを塗ってジャムトーストにしてカフェオレを飲みながら食べる。朝食を食べながら読むのは経済新聞ではなく、スマホでWEB小説を読む。


これから、デスマに向かうのだ、朝の時間くらい気分良く読書をしたいものだ。

最近、読んだWEB小説に主人公がアイドルとと恋仲になる恋愛小説を読んだ。

現実では決してありえない設定なのがいい。リアルでこれをやったら恰好のスキャンダルの餌食になってしまい共倒れになる。これ、完全に作者の願望だよな。だが、そこがいい。


学生の頃はよく、異世界移転生や召喚といった異世界ハイファンタジーや

現実世界を舞台にした現代ローファンタジーを好んで読んでいた。


だけど、歳を重ねて今の会社で働き出した頃から落ち着いたラブコメや恋愛小説を好んで読む様になった。可愛いヒロインが数多く登場してくるラブコメ小説を日々、仕事で疲れた心を癒やす、癒やしとしての心のオアシスにしている。だから、このような素晴らしい作品を生み出してくれる作者様には感謝しかない。



そもそも恋愛はいくつになっても心に抱くカ関心事だから当然ラノベとしても需要がある。


WEB小説のジャンルではハイファンタジーが多くを占めている。最近では、追放モノが主流となってランキングはこのジャンルが上位を占めていた。正直、もう、お腹いっぱいだ。

もっとラブコメ作品があっていいと思う。来い!ラブコメブーム!



朝食を食べ終え癒やしの時間もそろそろ終了かというところでスマホにメッセージが入る。それは、未来たんからで、簡易メッセージで「おはよう、」と表示される。

メッセージを開いてみると『おはよう、佐藤さん。今夜、佐藤さんの家に夕食を作りに行こうと思うんだけどいいかな?』とあった。


「大丈夫、住所送るから今夜一八時頃に来て欲しいな」とメッセージを返信する。

メッセージに即、既読がつき、ピコンと返信がくる

『やったー!今夜はご馳走にするね。何か作って欲しい料理はある?佐藤さん、今日もお仕事頑張ってね。応援してるよ!』とあった。俺は「肉じゃがが食べたい」と返信すると心の中でガッツポーズをとる。心の中は幸せ絶頂で幸福に満たされる。

今日は、残業なんてしてられないな!定時に帰って未来たんから夕食を作って貰うんだ!

こうして、通勤準備をして家を後にするのだった。


            ***


「先輩、おはようございます。」


「ああ、おはよう……」

ダメだ、顔の緩みが直らない。今日の仕事を乗り切れば未来たんの手料理が待っていると思うとニヤケが止まらない。

「先輩、なにニヤケてるんですか?気持ち悪いですよ。」と春風からジト目を向けてくる。

「さては、朝から官能小説でも読んできたんですか?そういうのを読むのは夜だけにした方がいいですよ。」

「バカ!誰かに聞かれたらどうする!」

変な誤解をされたらどうしようとビクビクする。「必死に否定するってことは読んできたんですか?」

「読んでないわ!健全なラブコメ読者だっての!」

「ほんとかな~」ニヤケて揶揄からかって小悪魔な笑みを浮かべてくる。

コイツ、ムカつくな。

「そうだ、先輩!昨日、教えて貰ったWEB小説読みましたよー!」


「おお、読んだか。どうだった?」

朝からよくそんな元気が出るな。オラにも元気を分けてくれ!!

でも、自分が布教したものを即読んでくれるのは素直に嬉しい。俺が、ラノベオタクに染めてやるからな。


「はい、面白かったです!正直最初は、異世界転生とか、召喚とか意味分からなかったですね。最初から現地主人公でよくない?って思いましたね。あ、でも魔法やスキルはいいですね。わたしも、あんな魔法やスキルを使ってみたいです!」

まあ、異世界転生や召喚には、思うことは、あるけど、あれは、読者を引きつけるロジックが仕掛けてあるから一概にも否定出来ない。現在では転生や召喚ブームは終息して追放モノのブームがきているがな。

「そういえば、春風はゲーマーだったな。でも待て、あれはフィクションだから実際には無理だろ」


コイツは純粋で感化されやすいいいんだろう。そこは小学生のごっこ遊びまでにしておけ。


「ん?なにやってるんだお前?」春風は、手の平を正面にカ掲げて、「むむむむ~」と

まるで魔力を右手に集中させるように唸っている。

こいつは、もしかして魔法を使おうとしてる?

「漆黒の業火で焼き払え『ファイアボール』」と呪文詠唱して魔法を唱える。が、何も起こらなかった。


「うーん。もう少しでできそうだったのにー」

「いやいや、できるわけないだろ!」

ラノベやアニメの中じゃあるまいし、できるわけないだろう。もしかして、コイツはいい歳して中二病なんじゃないか?


「ところで、先輩は書かなくていいんですか?」


「え?なにを?」春風はいったいなにを言っているのだろう。何を書けっていうんだ。


「何ってWEB小説をですよ。小説を読む人って自分でも書いてみたいって人が多いじゃないですかー?」


「いや、俺は、もういいんだ...文才無いし俺の書く小説なんて面白くないからさ」


俺は、小説はもう書かない。入社したばかりの当初、日々の鬱憤を晴らす為に小説を書き始めた。大手小説投稿サイト『小説を書こうよ』にろくな執筆経験も無く勢いだけで書いた小説を投稿した結果、コメントで酷評されてしまい心が折れ、挫折した。


それでも、今度こそはと次回作を投稿するもPVは伸びず、書籍で勉強して挑戦しても結果は変わらなかった。


そんなこんなで数年が過ぎていった。その間に高校生作家が書籍化デビューしたり初心者が書いた小説が人気になったりと、先を追い越されていく日々。

自分だけがその場に取り残され、足踏みする。

クソっ!俺の方が小説を面白く書けるのに.....

自責の念に駆られ唇を噛み気付けば小説を書くのが嫌になり、書くことをやめてしまった。今では楽しく消費型オタクライフを満喫している。



「先輩、一ついいこと教えてあげますよ」


「なんだよ」

説教か?努力は必ず報われるってか?そんな言葉は聞きたくない。


「やめてしまってもまた書けばいいじゃないですか。スキルなんて、後からついてきますし大切なことは諦めないで続けていくことなんですよ。知ってますか?才能っていうのは諦めなかった人達だけが持つ力なんですよ」



「春風.…お前ってヤツは…って朝礼、始まるぞ。」

気付くとぞろぞろと社員が出社していていて部長が朝礼を始めるところだった。


「わあ、いけない!先輩が長話するからいけないんですよ!」


「うるせー」


もう過ぎたことだと、踏ん切りがついたと思っていた。午前の仕事中アイツの言葉が胸の奥をくすぐっていた。



            


















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