第14話 日替わり彼女制度
「“人を挿すには穴一つ”......か」
「“人を呪わば穴二つ”って言いたいの? カズ君」
「いえ、違います。『どんなにモテる男でも、ち○ぽは一本しか無くて、させる穴......おま○こは一つだけだから、相手をちゃんと選びなさい』という意味の
「初めて知ったよ、そんな卑猥な諺......」
葵さんが呆れ顔で俺を見つめてくる。
現在、中村家で夕食を終えた俺らは、リビングにてテレビを視ながら寛いでいた。
この場には俺と葵さんの他に、千沙と陽菜、真由美さんが居る。雇い主は『今日は疲れたから、もう寝る』と言って、少し早めの就寝時間を迎えた。
決して夕食時に起こった、葵さんの拒絶が原因によるふて寝ではない。
......はずである!
「今の和馬にはぴったりの言葉ね」
「兄さんが作りましたからね」
俺と葵さんの会話に入ってきたのは、陽菜と千沙だ。
そう、俺がこんな造語を口にしてしまうくらい、俺は参っていたのだ。
俺はリビングの壁に掛けてあるカレンダーを見やる。
そこには今月の日付が一覧化されており、日付ごとにメモできるスペースが設けられていた。
その各日付の空欄箇所に、とあるシールがそれぞれ貼られてある。
単色の丸型シールだ。
色は青色、赤色、黄色の三色である。
この三色のシールはそれぞれ俺の彼女当番を誰が担うかを示すシールだ。
例えば青色は葵さんを示すシールで、そのシールが十五日の日付に貼られていたら、当日は葵さんが俺の彼女ということになる。
去年から行われてきた日替わり彼女制度だが、こうして改めて眺めていると、なんかその制度がシフト制バイトのように思えて仕方がない。
まぁでも、俺を彼氏にする日を三姉妹で話し合って決めているんだ。
文句を言っちゃいけない。三股彼氏は黙って首を縦に振るしかしちゃいけないんだ。
その制度は良いとして、問題は......
「俺、気づいたらもう高校三年生だよ。いつ卒業できるんだろう......」
「「「......。」」」
俺の言葉に、三姉妹から返事が来ない。
真由美さんは呑気に淹れた茶を啜っているし。
ちなみに卒業とは二つの意味がある。通っている学校を卒業する意味と、ベッドの上で初体験を迎えて卒業する意味だ。
俺が言ったのは、言うまでもなく後者である。
そう、この場に三姉妹の母である真由美さんが居たとしても、俺はそんな卑猥な意味を含んだ言葉を発してしまうのだ。
先方も気にしてないし、むしろ早く孫の顔が見たいとか言っちゃってる始末である。
え? 自重? 切羽詰まった男にそんなの無いね。
「あんた、いつも早く童貞卒業したいとか言ってるけど、する気がまるで無いじゃない」
と、少し強めの口調で責めてきたのは陽菜だ。
俺は全くもってその通りなのだが、とりあえず否定しておいた。
「おいおい。童貞卒業って決めつけるなよ。高校卒業的な意味があるかもしれないだろ」
「無いわよ。あんたの言動で、そっちの意味合いで卒業したいなんて言ったことないでしょ」
癪だな。
それじゃあまるで俺が四六時中エッチなことばっかり考えている男みたいじゃないか。
四六時中エッチなことしか考えてないから否定できんけど。
「兄さんって本当に意気地なしですよね」
すると、今度は我が妹から辛辣な言葉が飛んできた。
「こんなお誂え向きの彼女が三人も居るって言うのに」
「自分でお誂え向きって言うんじゃないよ」
さて、そもそもの話だが、なぜ“日替わり彼女制度”などというトチ狂った制度が作られたのかと言うと、これは意外なことに中村家の大黒柱である、あの雇い主が設けたからだ。
その制度が設けられた経緯は至ってシンプル。
親は子の幸せを願う者。
その子たちは同一の人物が好き。
なら娘たち三人の交際相手をその男に全部任せちゃおう。
その男が俺である。
道中色々とあった交際までの道のりだったが、そこら辺は割愛させてほしい。
重要なのはその先、交際相手たちとの肉体的な関係だ。
「あのね、毎回言うけど、俺だって好きで童貞じゃないのよ。でもさ、誰を一番に決めるかなんてできっこないって」
「はいはい。それはもう聞き飽きましたよ」
「ね。去年から同じこと言ってるじゃない」
「わ、私も同意かな」
あ、葵さんまで......。
そう、俺らは去年から付き合っている。
が、肉体的な関係――いわゆるセッ○スをしたことが無い。
で、なぜ誰が一番かを決める必要があるのかというと......。
「それにしてもあの人も酷な条件付けたわねぇ」
と、今まで静かにしていた真由美さんがぼやいていた。
人妻が言う“あの人”とは言うまでもなく雇い主のことだ。
この日替わり彼女制度を作った張本人である。
去年、俺は中村家三姉妹全員とほぼ同時期に付き合うことになったのだが、雇い主がこれを認めるのにある条件を出した。
『うちの娘三人と付き合うのはかまわないけど、高橋君が童貞卒業するのに選んだ人が正式な奥さんね』
などと、とんでもないことを言い出したのだ。
これがどれだけヤバい発言なのかは言うまでもない。
たしかに親は子の幸せを願う生き物だ。それと同時に、不貞な者に娘たちを抱かせたくない。
パパが娘たちの処女膜を守るぞ、と言わんばかりの制度だ。
おかげさまで彼氏さんは交際相手が居るのに、童貞卒業ができないままである。
俺は三人を平等に愛したいんだ。でもセッ○スしたい。したいけど、おち○ぽは一本しかなくて、初体験は一回のみである。
しちゃったら、俺らの交際関係の中で誰が一番かが決まってしまう。
きっとそれが決まっても三姉妹は仲良しだから関係は変わらないだろうが、この約束事がこの先チラついてしまうに違いない。
だから俺は三股もしているのに童貞のままなんだ。
おかしな話があったもんだ。
「真由美さん、なんとかして雇い主を説得してくださいよ」
「私が説得しようと、もうそういう意識があなたたちの中にあるでしょう? なら結局意味が無いじゃない」
そうだけどさ......。
「それにそういうことは自分でちゃんと考えて行動しなさいな。他人任せにしないのぉ」
「ぐッ。すごい正論」
「正論だもの」
そう、いくら理解ある三姉妹の親でもそこは譲ってくれないのだ。しっかりと自分たちで考えろという。
考えた結果、俺は卒業しない方がいいのではないか、と思ってさえいる。
別にセッ○スするなと言われてないんだ。シてもいいけど、表向きでも誰が一番か、だけは決めとけよ、と言いたいのが、雇い主の思いである。
それに困ったのは、このもどかしい気持ちだけではない。
彼女たちの態度だ。
「でもいい加減、和馬とシたいわね」
「同感です。もうちょっと過度なスキンシップして誘惑しますか」
「うっ。心苦しいけど、私もこのまま未経験で大学を卒業しちゃいそうだし......」
俺に童貞を卒業させようと、彼女たちがハニートラップを仕掛けまくるのだ。
三姉妹がいくら仲良しでも、女という生き物なことに変わりない。
別に誰が誰を嫌いとかはない。
シンプルに和馬さんの一番になろうと自分を磨いて、俺を全力で誘惑してくるのである。
卒業できない俺にだぞ。
無抵抗の人間に殴りかかっているようなもんだぞ。
三姉妹がどんどん魅力的になっていくのは素直に嬉しいけど、それを武器にして童貞を襲ってこないでほしい。
とりあえず、やる気に満ち溢れた彼女たちに待ったを掛けよう。
「あの、もう少し俺の立場になってほしいというか――」
「はい? それは兄さんの都合でしょう?」
「私たちには関係無いわね」
「ご、ごめん、カズ君のこと考えている余裕ない......かも」
「......。」
さいですか......。
俺は天を仰ぐことしかできなかった。
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