バ先に入ってきた使えない新人♀(28歳)が推しなのに気づくわけがない

na.

バ先のミサキ

ギリギリで出勤したのに偉いやつがいるなだなんて気づくわけがない

 「はぁはぁ…」


 男が息を切らしながら雑居ビルの非常階段を勢いよく駆け上がる。


 彼の名は宮島詩音(ミヤジマ シオン)。22歳大学2年生。


 普段は寝坊もしないシオンだがこの日は寝坊しアルバイト先に遅刻しそうになっていた。


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 昨晩 深夜2時過ぎ


 「うぉい詩音おめぇ酒は飲んでねぇだろうなぁ。ひっく。」


 呂律も回らないほど酒を飲んだのか大柄な男は顔を真っ赤にしシオンに靴を履かされている。


 「すこしボリューム下げろって、もう時間も遅いんだから…」


 大柄な男はシオンの父である宮島礼二(ミヤジマ レイジ)。


 この日、シオンの祖父の7回忌で父の兄、シオンからすると伯父の家で親族の集まりがあた。

シオンは酒に弱い父のいわば介護係として参加させられていた。


 普段こういった法事などの行事には妻であるシオンの母と参加していたレイジだがひと月ほど前、母方の祖母が倒れ、看病のために実家に帰っていた。

 そのため、今回参加することができずにシオンに白羽の矢が立った。


 アルバイトや学校の授業などで忙しかったシオンは断りたかったが、浪人した上に留年までしている立場で断れず、仕方なく与えられた役割に従っていた。


 シオンは父に肩を貸すと見送りの伯父に「ご迷惑おかけしました。」と頭を下げる。


 伯父も父と同じか、それ以上に飲んでいたはずだがしっかりしている。

 ______________本当に兄弟なんだろうか?


 シオンは伯父の姿を見るとそんなことを思う。


 気にするんじゃないよ。礼二はいつもこうなんだから。それより帰り道きをつけてね。などと声をかけてくれる伯父にシオンは軽く会釈するとレイジを連れて伯父の家を後にする。伯父の家の裏手にある駐車場に停めていた車の後部座席を開けるそこにレイジを担ぎ込んで寝かせると家路につく。

 

 「もうのめましぇん。母ちゃんあいてぇよぉ」


 帰り道の高速道路で後部座席からはそんな寝言が聞こえた。


 「ったく、これじゃどっちが子供だかわかんねぇじゃねぇか、」


 そう、ぼやくと家までの道を急いだ。


 _______________________________



 肩で息をしながら非常階段を三階まで一気に登り切ると重い金属製の黒い扉を力いっぱい引く、こういった扉は防火扉になっているため非常に重く内部との気圧差のせいかとても重い。


 中に入ると扉は自重ですーっと閉まり、カチャンと思ったほど大きくない音がする。


 シオンは早歩きで右腕に回した腕時計を確認する。

 そのアナログな時計の長針はもうまもなく十一の数字を指そうとしている。


 __________やばい間に合わないかも…


 シオンのアルバイト先は五分前打刻のため時間はギリギリだ。


 裏口から店内に入ると通路を少し行った先の左側にある従業員控室の戸をバッと開けて定位置にある自分のタイムカードをとり打刻機にそれを挿し込んだ。


 ≪ウィーンガシャガシャ≫


 と、機械音を立てて出てきたそれをシオンは確認する。



 《16:55》


 と、印刷された数字に胸をなでおろす。


 「ふーギリギリせぇーふ…」


 シオンは思わず声に出すと、その部屋の奥に人に気配を感じた。


 気配の方に目に目をやると、本部の社員さんと店長、それから従業員ではないであろう女性がこちらを見ていた。

 

 「宮島君、きみねぇ…」


 店長の小言が始まる。


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