腹が減らず
おくとりょう
それはともかく兄はうざい
いつもお腹が空いて目が覚める。朝は食べないという人もいるけど、お腹が減る方が自然だと思う。だって、夕食のあと一晩何も食べてないのだから、その間に胃の中は空っぽになっちゃうはずだ。しかも、寝てる間もカロリーは消費するのに。
「内臓も寝てるんだから、起きるまでに時間がかかるんだよ。きっとお前の内臓は他の人より元気なんだよ、よかったな」
兄は笑ってそう言った。そう言われると言い返せなかった。
だけど、今朝はお腹が減ってなかった。昨晩、飲み過ぎてしまったのだろうか。それにしては、頭は平気だ。二日酔いなら、考え事ができないほど、頭の奥がうるさいのに。
もしくは、食べ過ぎてしまったのだろうか。……いや、昨日はおかわり二杯でやめたはずだ。兄もおかわりしたせいで、二杯しか食べれなかった。
思い出しながら、お腹の具合を確かめると、満腹というほどではなく、夜中にちょっとおやつをつまんだくらいような感じだった。たぶん、これなら朝の支度をしているうちに腹ペコになる。
とはいえ、昨夜はぐっすり寝てたのに。
腑に落ちないまま、部屋から出るとタイミング悪く、兄と出くわした。
「おっはよー♫今日もかわいいね、マイブラザー!」
もう三十路も近いくせに、毎朝このノリで抱きついてくる。うっとうしいって言ってるのに。
「あれ?夜中にオムライスでも食べたん?」
(は?何やねん、朝から。わざわざ自分だけのために、夜中にオムライスなんて作るわけないやろ)
そう言おうとしたのに、声が出ない。喉は別におかしくないのに。何となく口元に手を伸ばすと、ベッタリ赤い汁がつく。間抜け顔の兄を突飛ばし、洗面所へと駆け込んだ。口が、口の周りが真っ赤な鮮血に染まっていて、口を開けると真っ暗な穴にぶら下がる喉ちんこがよく見えた。こんなにスカッと奥まで見たのは初めてだった。だって、
「あ、舌なくなってるやん!
夜中に取れて、食っちゃったんかぁー」
鏡越しにへらへらと笑う兄。腹立たしくて、振り向き様に蹴っ飛ばした。ガンっと大きな音を立てて、床に落ちる兄の頭。ちょっとへこんでしまったかもしれない。
「ええよ、ええよ。床の修繕費くらい払ったる。
それより、今日はお祝いやなー。お前もとうとう大人になったってわけやなぁ。お揃いになったみたいで、兄ちゃんうれしいわぁ」
少しへこんだ兄の頭は、そう言いながら廊下を転がっていった。僕の兄は身体が取れる。何かそういう病気らしい。だから、首が落ちても死ななくて、しばらくしたら、生えてくる。
ぶつぶつ喋っていた兄の頭は大きな音を立てて、階段を降りていった。残った身体が嬉しそうに僕と肩を組む。僕も兄も声は出ないけど、洗面所にはいつものような朝が流れていた。
腹が減らず おくとりょう @n8osoeuta
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