必殺仕事人風台本8『利平』

Danzig

第1話


小さな祠を拝む少年


正太:ごめんなさい、おっかさんごめんなさい


通りすがる男


利平:坊やどうしたんだ、そんなに一生懸命拝んで


正太:おいらのおっかさんが死んじゃって・・・


利平:そうかい、こんな小さい子を残して死ぬなんてなぁ

利平:で、おっかさんは病気か何かだったのかい


正太:殺されたんだ


利平:殺されたって・・・誰にだい


正太:わかんない


利平:そうか・・・・それでおとっさんは?


正太:おとっさんはいない

正太:おいらが小さい時に、死んじゃったんだって

正太:ずっと、おっかさん一人だったんだ


利平:そうだったのか

利平:坊や、今いくつだ?


正太:もうすぐ九つになるよ


利平:そうか

利平:坊や、これからどうするんだい?

利平:いくあてはあるのかい?


正太:うん

正太:おっかさんの働いてた三河屋さんの旦那様が

正太:おいらに丁稚(でっち)に来いって言ってくれたんだ

正太:三河屋さんの所に住まわせてくれるって


利平:そうかい、そりゃよかったな

利平:一生懸命働くんだぞ


正太:うん


利平:よしよし


正太:おじちゃん


利平:ん? なんだい?

利平:

正太:おっかさんが、いつも言ってたんだ

正太:「悪い事をすると、天神様(てんじんさま)の罰(ばち)が当たるよ」って・・・

正太:おっかさん、悪い事したのかな?

正太:それで天神様の罰があたったのかな?


利平:そんな事、あるわけないじゃないか

利平:真っ当に生きてる人間に、天神様が罰(ばち)を当てるなんて事はしないよ


正太:そっか・・・

正太:じゃぁ、やっぱり、おいらが悪かったのかな?


利平:坊や、そりゃ、どういう事だい?


正太:これ・・・・


正太が利平にお金の入った袋を渡す


利平:ん? お金じゃないか

利平:どうしたんだい、この金は


正太:おっかさん、いつも赤切れ(あかぎれ)で、指が痛い痛いって言ってたから

正太:おいら、おっかさんに赤切れの薬を買ってやろうと思って、クズ拾いをしてたんだ


利平:ほう、偉いじゃないか


正太:だけど、いつも少ししか稼げなくて、これだけ貯めるのに3年もかかっちまったんだ

正太:もっと早く薬を買ってやれたらって・・・


正太:おじちゃん、おいらがもっと頑張ってたら、

正太:もっと早く、赤切れの薬を買えてたら

正太:おっかさん、死なずにすんだかな?


利平:坊や・・・


正太:だから今、天神様とおっかさんに謝(あやま)ってたんだ


利平:坊や、坊やは何にも悪くないよ

利平:悪い訳があるかい

利平:悪いのはな、お前のおっかさんを殺した奴らだよ

利平:きっと、そいつらには天神様が罰(ばち)を当ててくれるよ


正太:ほんと?


利平:あぁ、本当さ

利平:おじちゃんが、向町(むこうまち)の天神様に願掛(がんか)け、してきてやる

利平:大きな天神様だからな、きっとご利益(ごりやく)があるよ


正太:ありがとう、おじちゃん

正太:じゃぁ、それもお願いできる?


お金が入った袋を指さす


利平:この金・・・どうするんだい?


正太:まだ、少し足りないけど、天国のおっかさんに赤切れの薬を届けてくれるように

正太:天神様に頼んでおくれよ


利平:坊や・・・

利平:あぁ、わかった

利平:おじちゃんが天神様にキッチリと願掛けをしといてやる

利平:だから、きっと天神様は、坊やの願いを聞いてくれるさ


正太:そっか、ありがとう

正太:おいら、もう行かなきゃ

正太:じゃぁ、おじちゃんお願いね


利平:あぁ、坊や、頑張るんだよ


正太:うん

正太:じゃぁ


手を振って走り去る正太

それを手を振って見送る利平


利平:お市、いるか?


物陰から声だけが聞こえる


お市:はい


利平:この一見、洗ってくれるか


お市:わかりました


利平:俺の方でも調べてみる、後日、俺の所へ来てくれ


お市:はい



後日、とある場所


利平:で、分かったか?


お市:はい、あの男の子の母親を殺したのは、お竜のようです


利平:仕事か?


お市:いえ・・・


利平:見られたのか?


お市:そこまでは・・・


利平:こっちでも調べてみたよ

利平:だいたい、お前と同じだ

利平:お竜については、ここんとこ悪い話があるな


お市:・・・はい


利平:お竜程の女が、殺しに酔っちまったか・・・


お市:・・・


利平:お市


お市:はい


利平:俺は今まで、大勢の仕事人達を見てきた

利平:その中には、殺しに酔っちまった奴が何人かいたが

利平:そいつらは、決まって、見るも哀れな最期だったよ 


一息の間


利平:お市、

利平:そうなる前に、お前たちの手で、お竜に引導を渡してやれ


お市:元締め、そんな・・・お竜を・・私達が・・


利平:お前たちが出来ないなら、こっちでやるがどうだ?


お市:わ、わかりました、私達で


利平:うむ、

利平:仕事料は、坊やの貯めたこの金


金の入った袋をお市に渡す


利平:数えたら、ちょうど弐朱(にしゅ)あったよ


お市:弐朱(にしゅ)・・・


利平:赤切れの薬なら、もう少し安く買えただろうに・・・


お市:確か、街で評判の薬が弐朱(にしゅ)とちょっとくらいだったかと・・・


利平:そうか

利平:いい薬を買って母親を喜ばせてやりたかったんだろうなぁ


お市:そうですね


利平:これはそういう金だ、わかったな


お市:承知しました


利平:で、お竜の居場所は分かるな?


お市:はい・・・


利平:うむ

利平:じゃぁ、よろしく頼む


お市:・・・はい


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