エピローグ
今の彼女の状態を知ったのは夢に教えてもらったからだ。僕はあの日からずっと今までと変わらず1人で暮らしてきた。彼女がいないことを除いて。そこだけだただぽっかりと空虚を生み出している。同じ日々の繰り返し。でも苦痛ではなかった。人生ってこんなもんなんだと改めて思った。
ある日渋谷のスクランブル交差点で懐かしさのある匂いが鼻に留まった。後ろを振り向くと夢の姿が見えた。
「夢さん!」
僕は思わず声をかける。夢はたった数年でかなり大人びたようだ。
「慧人さん」
静かな声で話し始める。
「恋華についてなんだけど会いに行ってもらってもいい?」
「いいけど行方が分からないし」
「ここに向かえば会える。それじゃ」
着いた場所は病院だった。受付の人に言われた病室まで向かう。病院には特有の外と切り離されたような雰囲気が漂っていた。ドアとノックしてからドアを開ける。
「慧人です」
中にはベットの上で横たわっていた恋華の姿があった。
「大丈夫?」
僕は恋華の手を優しく握る。手の冷たさに涙が流れる。夢先輩のような明るさはまだない。たまに消えかかった焔のように恋華の手が少し動く。規則的な電子音が病室に響いている。
「なんでこんなことに?」
「不慮の事故だよ」
「えっ。」
ドアから夢が入ってくる。
「交通事故だよ」
僕の胸が締め付けられるように痛い。でも、ようやく恋華に会えたのだから想いを伝えなければ。あの時自分の気持ちを伝えられなかった僕とは違う。何倍にも成長したこの僕の声で恋華に伝える。
「今まで恋華に沢山助けられた。本当にありがとう。だから頑張って、また一緒に。今度は偽りのない心で」
気がつけば夢もいなくなっていた。机の上には僕と恋華の似顔絵が置いてある。
「恋華。好きだよ」
僕は窓際に置かれていた香水を指でなぞってから外へ出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます