蠢く現実

 あの日以来体調を崩していた僕だが無事バイトに行けるくらいまでに回復した。


「夢先輩ってどうして辞めたんですか?」


バイトリーダーに聞いてみる。


「彼女の履歴書にいくつか不審な点があってその原因がようやく分かったからだ」


「どういうことですか?」


「谷置夢という名前は詐称だったんだ」


「いや、そんなはずは。だって夢は僕の姉のはずじゃ」


「でも君1人っ子だって入る時に聞いたけど」


「それは...最近知ったんです。親から」


「君も何か怪しいね」


その時僕のスマホが振動した。夢先輩からだった。

『この後、来れたら喫茶店で待ち合わせね。』

シンプルな文面が画面に表示される。

「彼女の本名知ってるか?」


「いや、知らないです」


「葉山恋華。まあいい。君のことも少し調べてみるよ。店に影響が出ないようにね。とりあえず今日は帰っていいよ」


「はい」


僕の親は嘘を吐いているのか。それともバイトリーダーが。どっちにしろ良くない状況に傾き始めている。


 僕は刹那雨に打たれながら喫茶店へと向かった。中は昼だからかほとんど人はいなかった。


「慧人。こっち座って」


そこで待っていたのは夢先輩と前も夢先輩と一緒にいた女の子だ。夢先輩が僕の方を見て目に涙を浮かばせながら叫ぶ。


「君の両親に合わせて!」


その威圧に圧倒されて


「分かった」


と僕は反射的に言った。とはいえもう一度親と連絡を取らなければいけない。

『2人に会いたい人がいるから家に来て欲しい。』

そうメッセージを伝え、しばらくの時が過ぎた。

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