叢雲花
夢先輩とは週に何度も遊びに行くほど仲良くなっていた。夢先輩は珈琲の香水に思い入れがあるらしく、会う時は必ずその匂いを辺りに漂わせている。1度なんで好きなのか尋ねて見た事があったが軽く流すようにして話してくれなかった。ただ、「この匂いは心を救ってくれる。」
とだけ言っていた。
そして今日は夢先輩と初めて旅行に行くことになっている。向かう先は長崎にあるハウステンボスだ。花が綺麗でオランダの景色が再現されたその場所は夢先輩に似合うと思って僕が選んだ。少し胸をドキドキさせながらも新幹線の車内でゲームなど、着く前から盛り上がった。しかし僕には使命がある。この旅の途中、夢先輩に今の想いを伝えなければならない。タイミングを伺いながら夢先輩との会話を楽しんだ。
ハウステンボスはパンジーをはじめとする沢山の花が咲いていて、写真で見た時よりも何倍も美しかった。思わず見蕩れてしまう。でも、1番良かったのは夜のイルミネーションだ。一面を着飾る光、まるで異世界のような光景だった。僕達は空いている場所に座り水上パレードを見た。幻想的な空間が広がっていて社会に前より馴染めたような感覚が湧き出てきた。家から出てこんな素敵なものを見る日が来るとは思ってもいなかった。そんな景色を横目に夢先輩の顔を見る。一日中遊んだせいか珈琲の匂いはほとんどなくなっていた。夢先輩の目に反射する光。妖艶な夢先輩の姿が光り輝いて見えた。そんな夢先輩のことを思うと想いを伝えることができなくなってしまった。本当に僕でいいのだろうか。今までの関係が壊れてしまうのではないか。僕はポケットに入れていた指輪の箱を触りながら光り輝く景色を眺めていた。
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