開花

 そこはまるで異世界のようだった。人と関わりあうとか今まで皆無で最初は不安だったが良くも悪くも新鮮で新たな世界観を僕に分け与えれくれた。陳列などをすると思いのほか沢山の種類のものがコンビニにあることも知った。普段と違う視線から見たコンビニでのバイトはかなり上手く行うことが出来た。先輩のおかげだろう。谷置夢たにおきゆめ、僕より少し年上でコンビニバイト経験は長い。谷置という苗字は僕も同じでそんなことから僕は勝手に親近感を抱いていた。長くて美しい黒髪を持つ夢先輩はコンビニの中でも人気になるほど妖艶だった。そんな先輩に丁寧に優しく教えてもらいながら必死にお金を稼いだ。


 その日から懸命に働いてある程度のお金が貯まり、何かに使ってみよう、そんな気持ちが芽生えてきた。


「どこかオススメのところないですか?」


夢先輩に聞いてみる。


「じゃあバイト終わったら一緒に行こう」


そう言われて着いた場所は喫茶店だった。ここは1度だけ来たことがある。


「何頼むんですか?」


「ホット珈琲でいいかな。あとフレンチトースト」


「じゃあ同じの頼みます」


少し背伸びをして珈琲を頼んでしまったが、無理をしてでも飲むしかない。格好つけたいが食べる時のルールもイマイチよく分かっていない。夢先輩が、食べている様子をちらっと見てそれを真似して食べる。


「今日は奢ってくれてありがとうね」


「えっそんなこと言ってないんですけど...」


まあ満足そうな夢先輩の姿を見れただけで良かった。仕方なく2人分のお金を店員に渡した。店員はすこし気まずそうな顔をしていたが、僕はそれには気づかなかった。

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