大谷麗華
第7話 幼馴染と私
「おはよう優くん」
「おはよう麗華」
私は勝手知ったる幼馴染の優くんの家のリビングに座わる。
優くんはというと、またパンにマヨネーズを塗りたくって食べている。
「優くん好きだね。それ」
「うん。僕はこれが食パンを食べる時の王道だと思うよ」
「そんな訳ないでしょ。それにマヨネーズ使い過ぎだからね」
「いいんだよ。僕は好きなんだから」
優くんとは何度も食卓を同じくしているけど、食パンにマヨネーズだけは未だに理解できない。
「優太、早く食べないと遅れるわよ。麗華ちゃんゴメンね、いつも迎えに来てもらって」
「ううん。すぐ隣だし」
私は第二の母親ともいえる優くんのお母さんに笑顔で返事をする。
小さい頃からお世話になっているけど、本当に優しい人だ。
私は小学生の時にお父さんを病気で亡くしている。
それ以来、私のお母さんがフルタイムで働く様になったんだけど、まだ低学年だった私は学校が終わった後は、お隣の優くんの家に預けられていた。
優くんの家にはピアノもあって、お父さんが亡くなってから習えなくなったピアノも、優くんのお母さんが時間がある時に優しく教えてくれた。
優くんのお父さんも、よく帰りにケーキなどのお土産を買ってきてくれる。
私が急に初潮を迎えた時も優くんのお母さんが一から世話をしてくれて、優しい優くんの家族が私は大好きだった。
でも中学三年の時に優くんから告白された時、私はかなり戸惑う事になった。
優くんは私より背が低くぽっちゃりとした体型の男の子だ。
ずっと一緒に育った事もあり、私は優しい優くんが嫌いではなかった。
でも男性として好きかと考えると、首を傾げてしまう感じだった。
けれど、もしここで断ってしまった場合は今後かなり気まずくなる。
もう優くんの家族にも受け入れてもらえなくなってしまうかも知れない。
それに穏やかで優しい優くんと一緒なら将来も幸せになれそうな気がする。
諸々考えた結果、OKしたけどお互いの親にはまだ言ってない。
もう少し大人、高校生になったらお互いの親に報告する事にした。
私たちはいずれ結婚して、今の様に仲良く幸せな家庭を築けると思っていた。
ーーーーー
学校での昼休み後、友達と話しながら廊下を歩いていると後から声を掛けられた。
「大谷さん!」
私達が振り向くと、そこには女子の間でも評判のテニス部のエースである赤羽先輩が立っていた。
「僕はテニス部二年の赤羽というんだ。悪いけど、放課後に屋上に来てくれないかな? 君に話したいことがあるんだ」
「えっ! は、はい!」
イケメンで背が高い先輩に急に話しかけられて固まっていたけど、反射的に返事をしてしまって行く事になってしまった。
その後、友達からはキャーキャー言われたけど、この流れで考えられるのはやはり告白だと思う。
私は早熟な方で中学性の頃から背が高くてスタイルが良く、顔も可愛いと言われるタイプなので男子から告白される事が多かった。
でも私には優くんがいるので全てお断りしてきた。
今は友達にも内緒で、優くんと付き合っているから断るしか無いんだけど、赤羽先輩は親が病院を経営していて、凄くお金持ちで将来は安泰との噂だった。
私の家はお父さんを小さい頃に亡くしている。
そのため経済的には他の家よりも苦しく、お金が掛かるので当時習っていたピアノや英語教室などの習い事も辞めざるを得なかった。
今の私立高校に通わせてくれている状況が不思議な程だ。
お小遣いも友達より少なかった私は、段々と裕福な暮らしに憧れる様になった。
お金持ちの白馬の王子様と結婚して裕福で幸せに暮らす。
そういう生活に憧れがあった。
私はクラスカースト最上位の美少女で、今後も美しさは増してゆくだろう。
片や優くんは顔はともかく背は低くて、カースト下位のぽっちゃりさんだ。
他人から見ると完全に釣り合っていないだろう。
だけど私は優くんを良く知っている。
優くんはとても穏やかで優しい性格をしている。
ぽっちゃりさんだけど実は運動神経はかなり良いし、勉強も凄く出来る。
私は優くんのご両親とも仲が良いし、将来結婚したら裕福でなくとも幸せにはなれるだろう。
私は天秤に掛けた。
優くんとの平凡な幸せか、赤羽先輩との裕福な生活か。
ここが人生の分かれ道である事が自分でも理解出来ていた。
赤羽先輩と結婚出来た場合は、将来は病院の院長夫人だ。
友達にも凄く自慢できるし、裕福な生活はもちろんの事、院長夫人というステータスだって手に入る。
ずっと苦労をさせているお母さんにも、楽をさせてあげられるかも知れない。
優くんとは家が隣だから、会おうと思えばいつでも会えるだろう。
まだ私達の親には付き合っている事を言っていないので、初めから無かった事にしてしまえば、今の状況のまま赤羽先輩が手に入るかも知れない。
私の天秤は傾いた。
優くんは優しいのでいつも最後は私の言う事を聞いてくれていた。
今回も同じ様に聞いてくれるだろう。
私達は幼馴染なんだから。
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