第6話 その後

その後、僕は達也と心ちゃんと楽しく充実した高校生活を送る事が出来た。


体育祭では持ち前の運動神経を生かし、大活躍でクラスを学年優勝に導いた。

文化祭でも心ちゃんと一緒に実行委員に立候補し、クラス一体となってみんなの役に立つことが出来たと思う。


その頃になると僕はと仲良くなる事が出来た。

元々、僕に直接嫌味や嫌がらせをしてくる人が居なかったのと、麗華が既にクラスに居なかったからだ。


麗華は文化祭の準備が始まる前に、妊娠が発覚して学校を辞めていったんだ。

そしてその後、同じ様に赤羽先輩も学校を去っていった。


噂によると麗華だけでなく複数の女生徒を妊娠させたのが問題になったらしい。

事情通の達也によると、赤羽先輩の親が経営する病院も妊娠騒動に連動する様に数々の不正が発覚し、院長が逮捕されて閉院になるらしかった。

達也はなぜそんな事まで知っているのか、謎が多い奴だ。


その年のクリスマス、心ちゃんと遊びに行った帰りに、僕は勇気を出して心ちゃんに告白をして恋人同士になる事ができた。


心ちゃんは僕と付き合える事を、ずっと夢に見ていたと言って号泣した。

僕は心ちゃんを抱き寄せてずっと一緒にいようと誓った。




ーーーーー




僕達は順調に大学に進学する事が出来た。

達也にも大学に入ってから彼女が出来たし、心とは大学近くのマンションで同棲を始めていた。


高三で大学の学部を選ぶ時に聞いたんだけど、父さんは不動産を中心とした巨大グループを経営する会社の社長だと言う事だった。

そして僕にいずれ跡を継いで欲しいと。


母さんも高級ブティックを趣味で複数経営しているらしく、昔から時間があって家にいたのも半分は趣味での経営なので、ある程度はオンラインで済ませてしまっていたからとの事だった。


僕に秘密にしていたのは、二人ともお金があっても質素倹約を旨とする方針で、家に多額の資産がある事はわざと伏せておいて、傲慢な人間にならないよう僕を育てたかったという事だと教えて貰えた。


それを聞いて僕は納得出来たんだけど、同時に昔良く一緒にいた幼馴染だった大谷麗華の事を思い出した。


彼女は裕福なお金持ちに成りたいと幼馴染の僕を振って、テニス部のエースで病院経営者の息子である先輩を選んだはずだった。

だけど結局は女性にだらしなかった先輩に在学中に孕まされ、高校一年生にして中退を余儀なくされた挙げ句、頼みの先輩の父の病院まで潰れてしまったんだ。


あの後彼女がどうしているのかは知らないが、皮肉にもあの時に僕を振らずにずっと一緒にいたのなら、いずれは彼女の望む裕福な生活を手に入れた未来があったという事になる。


もちろん別れるとい言う未来があった可能性もあるけど、あまり我が強く無い僕は他人に合わせてしまうところが多々あり、大体の人とはうまく続けられるような気がしている。


心とも付き合い始めも合わせるとほぼ三年間の付き合いになるけど、僕はもう既に将来は心と結婚しようと決めていた。


自分で言うのもなんだけど僕はかなり一途なんだと思う。

なので僕を裏切らなければそうなっていた可能性が非常に高かったと思う。




ーーーーー




25年後、43歳になった僕は親の資産整理のため、休日に一人で昔住んでいた家屋を訪れていた。

門構えや小さい頃に遊んだ庭などを見て、懐かしい思い出がよみがえる。


大学卒業後に父さんの会社に就職した僕は、数年前に父さんの跡を継いで社長になっている。

親友の達也も弟の海斗君と共に長年に渡って僕の補佐をしてくれて、それなりの役職についていた。


妻である心とは就職して三年後に結婚して一男一女を授かった。

小さい頃に苦労した話を心から聞いていたけど、今では子育ての合間に母さんの跡を継いだ高級ブティックを、自分の思うように経営して楽しんでいる様だ。

そこからの収入で両親に仕送りをして親孝行もしているみたい。


長男は高校生で、ちょうど昔に僕がこの家に住んでいた頃と同じ歳になっている。

懐かしい思いで家を眺めていると、隣の家のドアがゆっくりと開き中から老婆のような人が出てきて、こちらを目に涙を浮かべながら見ていた。


お隣で幼馴染だった麗華のお母さんだろうか? 僕は社会人として身についた礼儀で会釈して挨拶する。


「こんにちは。昔ここに住んでいた五条優太です」

「優くん?」


「えっ! あの、麗華……さん、でしょうか?」

「うん……こんなになっちゃったけど、麗華です……」


麗華を名乗る女性はまだ40代のはずなのにお婆さんといった感じだ。

髪は白髪だらけで赤黒い肌、そしてかなり痩せこけている。

高校生だった頃の可憐な美人だった面影は少しもない。

これまでの相当の苦労が伺えた。


「そうですか、僕はこの家の状態を確認しに来ただけですので……」


「待って、優くん! 私ずっと、ずっと謝りたかったの……あなたの事を最低な理由で振ってごめんなさいって。私、あんな先輩に騙されちゃって、妊娠までして……でもその後のショックで流産して子供を産めなくなって……8年前にお母さんを亡くして、ずっと一人でパートやアルバイトで生活しているの……でも、今も時々思うの、あの時先輩なんかに靡かなければ、優くんと一緒に幸せになれたのかなって……」


麗華はあれから随分と辛い思いをして過去をずっと後悔している様子だった。

もう関係ないとはいえ元は幼馴染なんだ、これからは前を向いて生きてくれたらなと思う。


「それは……過去にこうしていたらとかは実際になってみないとわからないよ。だけど重要なのは前を向く事じゃないかな。僕も確かにあの時は絶望したけど、妻や友人や家族のお陰で立ち直る事が出来たしね。僕は直接手助けは出来ないけど、僕への過去の事であれば許すし、幼馴染としては麗華にも前を向いて生きていってほしいと思うよ」


「優くん……ありがとう……」


そう麗華に告げて、僕は背中を向けて歩き出す。

なんだか無性に家族に会いたい気分だ。


僕は車庫に停めてあった車に乗ると、愛すべき家族が待つ自宅へと帰っていった。

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