第4話 渡辺さん
「渡辺さん、ありがとうね。僕と一緒に帰ってくれて」
「ううん。私も一緒に帰れて楽しいから、気にしないでね」
渡辺さんは小学校からずっと学校が同じで、幼馴染と言ってもよい女の子だ。
おさげ髪で一見地味だけど、良く見ると顔立ちは美少女と言って良いだろう。
渡辺さんからの申し出で、僕たちは毎日一緒に帰る様になっていた。
渡辺さんには僕に関わらせて少し悪いと思ったけど、一人で帰るのはつらい状況なので渡りに船とばかりにお願いしたんだ。
帰りながら話した感じでは、ラノベや音楽、漫画などの趣味が僕と似通っていて、麗華と話すよりも話が弾んでいて楽しかった。
僕と渡辺さんの最初の出会いは、たしか自宅近くの公園だったと思う。
夕方ぐらいに一人でブランコに座って、寂しそうに俯いて泣いていた女の子がいたので僕が声を掛けたんだ。
それは小学校ではある事で有名な渡辺さんだった。
なぜ有名かと言うといつも同じボロの服を着てみんなにからかわれていたからだ。
もちろん僕はそんな可哀想な事はしていないけど、その噂だけは知っていた。
小学校低学年の時の事なのでよく覚えていないけど、その後に僕の家に連れて行って一緒にご飯を食べたのを覚えている。
日曜だったので麗華のいない日だったはずだ。
それから僕の両親が渡辺さんと真剣に何かを話して家まで送って行き、一週間ぐらいしたら急に新しいピカピカの洋服を着て学校に来たので、みんなが驚いたのを覚えている。
何があったのか知らないけど笑顔の渡辺さんを見て、良かったと思ったのを覚えている。
それからは会っても挨拶ぐらいであまり僕と接点は無かったんだけど、いつの間にか僕と同じ高校に合格していてたまたま同じクラスになっていた様で、今回僕が苦境に立たされているのを見て助け舟を出してくれているみたいだ。
一緒に帰っていて驚いた事に、渡辺さんの自宅も僕と同じマンションだった様で、そうなると毎朝一緒に登校する様になるにも時間が掛からなかった。
一度家に挨拶に行ったけど、渡辺さんのご両親は僕にもの凄くフレンドリーな感じだった。
渡辺さんが毎朝笑顔で僕のところまで向かえに来てくれるので、僕は心の傷が段々と癒えてゆく様な気がしていた。
ーーーーー
「あ〜このクラスの担任だった相沢先生は急な都合で退職する事になった。後任が決まるまで私がこのクラスを担当する事になったので、よろしく頼む」
今朝登校すると、担任ではなく学年主任の先生がクラスに来て話した。
いきなりの話で困惑する皆を見回した後、続けて話す。
「このクラスには校則違反か、ギリギリの生徒が目立つな。特にそのあたりの生徒は気を付ける様に!」
先生は麗華の席の辺りを指して話した。
赤羽先輩の趣味なのかも知れないけど、麗華はゴールデンウィーク明けから髪を明るい色で染めており、スカートも極端に短くなってギャル化していたのだ。
たぶんもう僕の知る麗華では無いんだろう。
「それと最近、人の上履きや机に名誉毀損となるイタズラ書きをしている者がいるそうだ。校長先生からはその様な問題を起こす生徒は、見つけ次第退学にするとの事なので気を付けて欲しい。言っておくがこの学校は公立ではなく私立だ! そんなつもりは無かったでは済まないぞ。お前達にリスク管理の事を細く言ってもわからないかもしれないが、人に誘われたからとかいう理由であっさり人生を狂わされたく無ければ、そんな話に乗るのは止めておく事だ」
気のせいかも知れないけど学年主任は、僕の方をチラッと見た様な気がした。
その数日後、他クラスのテニス部の一年生二人が退学になったと噂されていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます